兵庫優生裁判決起集会報告

 7/4(日)、兵庫県の旧優生保護法による不妊手術の裁判において、判決に向けた決起集会が神戸市総合福祉センターで開かれました。私はオンラインで参加しましたが、主催者発表によると、会場参加者が120名、オンライン参加者が127名とのことで、注目を浴びたものになりました。
 まず、日本障害者協議会(JD)代表の藤井克徳さんから、「ナチスドイツのT4作戦と優生思想――日本の優生政策の源流を探る」という講演がありました。以下、藤井さんの講演要旨です。
 優生思想の被害については、「過去になぜあんなことが起こったのか」という原因が究明できなければ、対処ができない。ドイツの元大統領のヴァイツゼッカーが言うように、「過去に目を閉ざす者は、現在も見えなくなる」。
 優生保護法という法律の目的は、「優生上の見地から、不良な子孫を防止する」であるが、これは3つの部分から構成される。一つ目の「優生上の見地」というのは、「優生思想の見地から」という意味。優生思想を法制化することによって、正当化している。「法律にも書いてある」からということで、蔓延した。二つ目の「不良」とは障害者のこと。戦後日本において障害関係初の法律であったため、以降の福祉関係の法律の障害観に大きな影を落としている。三つ目の「出生防止」、強制不妊手術によって少なくとも25000人の被害があった。同意をとったかどうかなど関係ない、凄まじい数字。同意についてもそうすることを強いられた。この法律が48年間も続いた。
 その前身は国民優生法(1940年~1948年)。ナチスドイツ(医学、公衆衛生も)の優生政策に倣った。1933年にヒトラー政権が誕生したが、その主な政策は断種政策。同年の7/14に、政党新設禁止法、国民投票法、遺伝性疾患子孫予防法(断種法)が同時に成立したことからもそれがうかがえる。そして、T4作戦によって障害者が直接虐殺された。遺体を解剖すると、金歯が出てきたり、脳が焼却されたりしていた。障害者専用の殺害場所には、7万人の殺害の跡があった。ヒトラーがT4作戦からユダヤ人虐殺に変えた後でも、障害者は「野生化された殺害」をされ、20万人とも言われる殺害があった。
T4作戦で対象とされたのは「働けない障害者」であり、医師が積極的に殺害に関与した。T4作戦で培われた知識、技術は、アウシュビッツに引き継がれた。はじめに障害者の断種があり、それがT4作戦になり、ユダヤ人の大虐殺へと至った。ドイツ精神医学精神療法神経学会は2010年、当時の精神科医の過ちを認め、謝罪した。「第三帝国の最重要政策は断種政策」であった。2014年、T4作戦が行われた本部に記念碑が建てられたが、殺されていく障害者たちは「こんな死に方は私でおしまいにして」と思ったに違いない。
 日本の昨今はどうか。私が「昨今」と言うとき、やまゆり園事件以降を指す。もう5年も経つ。やまゆり園事件以降、精神障害者の精神病院への長期入院(神出病院や寝屋川での事件も含む)、中央省庁での障害者水増し事件、京都のALS患者嘱託殺人事件、そして新型コロナ下での「命の選別」と、どれもが優生思想に関連する。被害者の大半が無抵抗であり、かつ不可逆的な被害である。旧優生保護法による強制不妊手術の被害も、まさに現在に連なるものである。
 こうした状況を変えるためには、まずは知ること、そして自分が納得できる形でわかること、誰かに伝えること、そして最後に動くこと。これが広い意味における「運動」ではないか。
 私の好きな作品に『ドン・キホーテ』がある。そのなかに「過去が現在を導き、現在は未来を映し出す鏡」というフレーズがある。過去の捉え方、総括が、人権政策の基準値を示し、またそれは障害者政策の未来図を映し出す鏡である。
 この裁判で苦戦しているのは、「除斥期間」の壁があるからである。被害の実態は、過去のものではなく、現在進行形である。そうではないというなら、裁判官は現在進行形でないことを証明してほしい。
 過去は帰っては来ないし、やり直すこともできない。しかし、見直すことはできる。政府、国会、優生思想に浸かった市民たちは、この機会に優生思想を見直し、それが誤りであることを認識してほしい。

★藤井さんへの質疑応答
神戸新聞:強制不妊手術の訴訟があってからの変化は?
藤井:運動のリーダーたちは考えさせられた。25年前からかかわっていたのにと後悔した。やまゆり園事件では、ネットのU死刑囚への賛美が怖かった。優生手術を避けるためには、施設や病院に一生入るしかなかった。これは、精神病院への長期入院問題につながる。
神戸新聞:ネット以外での差別を直接聞いた?
藤井:グループホーム建設反対、障害者の水増し事件も大きな社会的差別である。隔離や排除を社会が黙認していることが差別である。
参加者:ドイツでの断種政策、T4作戦の被害者に対する賠償・補償・謝罪はどのようになされたのか?
藤井:断種法による賠償としては、一時金ではなく、被害者に年金46000円/月が支給されている。

 休憩をはさんで、泉房穂明石市長のスピーチがありました。以下、スピーチ要旨です。
 明石市で優生保護法被害の支援条例を制定しようとしている。この問題は、終わったことではない。除斥期間を、加害者である国が言うのは許せない。市議会のほうで家根谷議員から質問があり、支援条例を制定する運びとなった。18歳のとき、優生保護法改正反対集会に参加した。約40年ぶりにこの種の集会に参加している。兵庫県は罪深い。1966年、「不幸な子供の生まれない運動」つまり、いかに障害者を減らすかという運動を、兵庫県が旗を振って行った。それが8年間続いた。1967年、障害者の弟が生まれたが、当時、私の家族は冷たい視線にさらされた。それでも、私の両親は「障害があっても私の子だ」と言って、弟をかわいがった。「家の前の学校ではなく、電車とバスで養護学校に行け」と言われたが、何とか地域の学校へ行った。そのとき、「通学は身内で、行政を訴えるな」と言われ、この社会の冷たさを感じた。障害者といっしょに歩いてくれる社会をと思い、我がごととして明石市条例を作りたい。
 優生思想の問題は、過去の問題ではない。また、兵庫県そのものが罪深い歴史を持つ。そして、人を排除する社会か、寄り添えあえる社会かが問われている。新型コロナで、国は感染した者を処罰しようとするが、それはまさに今年の問題である。
 しかし、条例を作るにも時間はかかる。被害者の人たちはもう待てない。今日は、明石市被害者条例を転用し運用、このあと、明石市在住の小林夫妻に支援金を支給します。
 その後、明石市議会の家根谷議員(聴覚障害)からも、「小林夫妻とは30年ぶり。私自身は子3人、孫6人に恵まれたが、障害者は「障害があれば結婚したらダメ、結婚しても子どもを作ったらダメ」と言われる。6月議会でこの問題について質問させていただいた。明石市だけではなく全国に広がってほしい」という発言がありました。
 原告の3名、小林喜美子さん、高尾奈美恵さん、鈴木由美さんからも発言がありました。小林さんからは、「ろう学校を出て結婚した。子どもが生まれない。優生保護法によって赤ちゃんができない。母親は「あんたは産めない身体になってしまった。憎ければ私を殺せ」と言っていた。仕事もつらく、差別された。なかなか情報が入ってこなかった。たくさんのみなさんから支援をいただき、ありがとうございます」という発言がありました。
 弁護団・支援者からは、まず弁護団の津田隆男弁護士から、簡単に裁判の説明がありました。「この裁判は、国家賠償請求訴訟であり、勝訴とは賠償請求が認められること、原告5人、誰かの訴えが認められるのは「一部勝訴」である。裁判の結果は冒頭に読まれる「主文」でわかる。勝訴の場合、主文は「被告は原告にいくら払え」というものであり、敗訴の場合は「原告の訴えを棄却する」というものである。つまり、主文の冒頭一文字で結果がわかる。冒頭の一文字が「ひ」という言葉で始まることを祈っておいてください。原告が高齢のため、政治決着(和解)をす可能性もあるが、神戸地裁で敗訴すれば大阪高裁に控訴しようと思っている」とのことです。
 次いで、DPI女性障害者ネットワークの藤原久美子さんから、以下のようなお話がありました。
 藤井さんから優生思想の根深い話をいただき、泉さんからは兵庫県の罪深い歴史のお話があった。それらを踏まえて、私たちができることは何か? 障害者の自立の概念を定着させ、広めていくことではないか。
 障害者、とくに障害女性は、「あなたはどうしたいの?」と聞かれたことがない。「どうせ障害者は間違える」という先入観があるからだ。私の子どもに、幼稚園に支払う絵本代を持たせたが、幼稚園から「絵本代、いただいていませんよ」と言われた。私はかなり自信があったが、幼稚園は「障害者、それも視覚に障害のある藤原さんだからわからなかったに違いない」と思ったのだろう。翌日、幼稚園から「絵本代ありました。すみません」と言われた。
 障害があるから間違えるのではなく、障害ゆえに情報が入ってこないことが問題である。正しい情報、適切なサポートがあれば、正しい判断が可能となる。
 翻って、障害のない女性はどうか? 正しい性教育を受けてきていない、障害者の制度もまったく知らない、偏った情報、このような中で、生まれる前に赤ちゃんの障害がわかるということはどういうことか? また、周囲からは「元気な赤ちゃんを産みなさい」というプレッシャーがある。
 口から飲む中絶薬の承認申請が行われる。いまの日本の中絶は時代遅れのものであり、WHOからも警告を受けているため、基本的には望ましいことと言える。しかし、知的障害者が妊娠したとき、薬を飲まされ、わからないまま中絶させられることにつながる危険性もある。優生裁判の仙台地裁では敗訴したが、自己決定権は憲法で規定されているという判決は大きい。
 淡路島の老人ホームで勤められる大矢さんからは、「儲け主義ではなく、思いやっていける社会を望む」という発言が、また生活介護事業所で勤められる加山さんからは、「利用者同士が結婚したが、女性は子どもを産むなと言われている。障害者が「不良な存在」だと言われるのは、私がかかわり始めた40年前と変わっていない」という発言がありました。
 最後に、この裁判の弁護団長である藤原精吾さんが、以下のような発言で集会を締められました。
 「「裁判に勝つだけでなく、優生思想をいまだにはびこらせる社会を変える」、亡くなった高尾さんの魂はここにある。明石市に次いで全国、国にもフォローしてほしい。
 この問題は優生保護法による強制不妊手術の問題だけではない。人間の価値とは、国が使えるか、企業が使えるかという使用価値ではない。そのような理解は間違っている。障害があろうがなかろうが尊重されるべきである。
 裁判直前までがんばっていきたい。判決は5連敗だが、神戸地裁で勝利したい。大きな熱気で裁判官を変えていきたい。
 「当然勝つべき裁判に負ける」「無実の人が有罪になる」ことがあるように、裁判官は間違える。そのときに、間違えないように糾していかなければならない。判決に負けても運動は進む。「お金が欲しいのではない、障害があるだけで差別を受ける、そういう社会を変える」、これがこの裁判の意義である」。

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