『マザリング――現代の母なる場所』を読む――「母」の転轍、そしてその先へ

 障害者運動は、「母」の暴力的な側面、すなわち、障害のある胎児や子どもを殺す存在としての「母」に照準を当ててきた。言うなれば「母」の健全者性、社会の写し鏡として障害のある子を「愛の名のもとに」殺すということを糾弾してきた。ではなぜ、「父」ではなく「母」だったのか。それは言うまでもなく、女性ジェンダーこそが、「愛の名のもとに」社会から無償のケアを行う主体として期待されているからだ。この社会は、「母」に、「愛の名のもとに」障害児(や高齢者)のケアを無償で担わせ、またときには殺させているのだ。
 中村佑子さんの『マザリング――現代の母なる場所』(集英社、2020年)は、この社会において性別役割分業にまみれた「母」という語を、その意味から解放し、新たに「ケアの担い手としてその手を差し伸べること」という意味を付与する。そのことによって、新自由主義に毒された社会を批判し、ケアや依存を中心に社会を編みなおそうとする試みである。

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