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太平洋戦争の勝利条件

太平洋戦争は日本に勝ち目のない戦争だったとよく言われるし、恐らくそのとおりでしょう。ですが、それでは「ゲーム」にならないので、太平洋戦争のキャンペーン・ゲームは何らかの工夫をして勝敗を競えるようにしているわけです。たとえ戦争で日本が負けるのが前提だとしても。

そんな工夫など知らん、歴史どおり1945年8月15日までに日本を降伏させれば連合軍の勝利、それ以外は日本の勝利や、と割り切ってしまったのが『ウォー・イン・ザ・パシフィック日本語版』(WitP)になります。原題が同じですが本作、SPIのビッグゲームとは関係ありません。White Dog Games社から2017年に出版されたコンパクトな太平洋戦争キャンペーン・ゲームです。

結論から書くと、ちょっと乱暴に思える勝利条件ですが、なかなかバランスが取れています。もちろん日本本土以外、全部連合軍に支配されているような状況で、「(戦争に)勝ったどー」と脳天気に喜べる日本軍プレイヤーもいないでしょうが、とりあえずゲーム上は勝利できます。それは、とにもかくにも「連合軍視点」で太平洋戦争を描いたゲームであるからです。

我々は日本人なので、起こってしまった太平洋戦争をどうにかしなければならない立場になれば、短期決戦を夢見てしまいます。このあたりは最近出版された『「太平洋の巨鷲」山本五十六 用兵思想からみた真価』(大木毅/角川新書)を読んでいただくのが手っ取り早いのですが、実際のところそれしかやりようがない。ところが早期講和は夢また夢、望み薄です。ならばゲームとして早期講和を実現可能な勝利条件として設定するよりも、連合軍視点で、「日本の敗北は揺るぎない、それをどれだけ速められるかを競う」としたほうがリーズナブルというものでしょう。

「アンボンの陥落は確実、ならば連合軍はいかにそれを遅らせることができたのか?」という、『バーニング・サン: アンボンの戦い』における連合軍視点の裏返しですね(このゲーム、ちょっと日本軍が辛いすよね)。

ただ、そうなると日本が戦争を始めるインセンティブが弱い。敵の侵攻を遅らせるために序盤で攻勢に出て、敵戦力の撃滅と要地の占領を図り、より良い条件で負けようとする……あれ、これはこれで筋が通っているような。いやまあそれは「絶対国防圏」とか寝言を言い始めてからのことで、それを考慮するとやはりWitP、連合軍視点のゲームなのです。

なのですが、たとえ確率が低かったとしても早期講和の可能性がないと、いや可能性は限りなくゼロだとしてもルールとして存在しないと、そもそも戦争が始まらなかったわけです。そこで蛇足と思いつつも、早期講和による日本軍サドンデス勝利の選択ルールを用意しました。やれるものならやってみろ、というくらいの条件ですが、山本五十六が賭けた一縷の望みはこのくらいのものではなかったでしょうか。詳しくは公開済みのルールブックをご覧ください。

こういう条件がないと、日本軍プレイヤーは決め台詞を言えないじゃないですか。「半年か一年の間は随分暴れてご覧に入れる」と。

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