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『隔たる世界の2人』と2pacと松島諒

『伊集院光とらじおと』でも紹介させていただいた、今年のアカデミー賞最優秀短編実写映画賞受賞作品『隔たる世界の2人』

ある朝自宅への帰路で白人警官に殺された黒人の青年はタイムリープに入り、何度も同じ朝を繰り返す。なんとか警官に殺さないで家に帰ろうとするも、結果は同じ。99回のタイムリープで辿り着いた方法と、その結末とは…

(タイム"リープ"なのか"ループ"なのか調べた所、どっちでも良いらしいのでかっこいいので"リープ"を採用)

言わずもがな、人種差別がテーマとなっている。

黒人青年が殺されるシーンは、昨年巻き起こったBLM(=Black Lives Matter)運動の引き金となったジョージ・フロイドさん殺害事件を想起させる内容で、あの事件を受けて作られた映画である事が分かる。

タイムリープで繰り返されるのは単なる『ある朝の出来事』ではなく『人類の差別の歴史』そのものだ。

去年ジョージ・フロイドさんのニュース。2020年になってもまだ「黒人の青年が白人警官に殺された事がきっかけで暴動に発展」っていうニュース聴くのかよ、と思った。

人類の歴史はタイムリープの様に繰り返している。

黒人の方が放水を浴びせられてる映像を社会の授業で観て、とんでもない気持ちになった事はあるし、

ジャッキー・チェンの映画で、スラングに疎いジャッキーが見様見真似で黒人のギャングに向かって「よう、(Nワード)元気か?」と挨拶したらボコボコにされたシーンも記憶に残っているし、

新庄剛志がニューヨークメッツのロッカールームでコーヒーを飲んだ時に「苦っ!」と言ったら黒人選手に取り囲まれたとも聞いた事があるが、

人種差別について肌感覚で理解しているとは到底言えない。

だが、この映画は誰にでも平等に訪れる何気ない日常的な朝を描いている。それが殺人に変わり繰り返される事の恐ろしさを、朝を迎えた事のある人全員に語りかけていると感じた。

頭では理解しても肌で感じてはいない一種の後ろめたさから、こういう問題について語る資格が無いと思っている。だが、それじゃあ何も変わらないんじゃないか。そんな気にさせられた。




主演を務めるスタイル抜群のハンサムガイはアメリカの人気若手ラッパーで、反差別的な曲も数多く手掛けるJoey Bada$$(ジョーイ・バッドアス)

彼だけではなく、アメリカのヒップホップには昔から反差別の色が濃い楽曲が非常に多く、言論としての側面も持って発展してきた。

劇中で彼がわざわざBluetoothじゃない有線のイヤホンで聴いている曲は、ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジの『The Way it Is』だ。

なんか聴いたことあると思ったらこれは伝説のラッパー2pacの『Changes』という曲の元ネタ。

どちらも反差別がテーマの曲だ。

『Changes』にはこんな一節がある。

Cops give a damn about a n××××
警察は黒人ばかりを気にして
pull the trigger kill a n×××× he's a hero
銃を発射して黒人を一人殺せばやつはヒーローになれる

正に映画の内容の様な歌詞だ。20年以上前の楽曲だが、未だに同じ事が繰り返されているのが分かる。

曲中で25歳の若さで凶弾に倒れた(人種差別が原因ではない)天才はこう語りかける。

We gotta make a change...
俺たちは変わる必要がある
It's time for us as a people to start makin' some changes.
俺たちが人間として何か変わる時がやってきたんだ

これは映画の展開やラストシーンとも繋がるメッセージであり、全人類が今一度肝に銘じなければいけない事だ。

別にアメリカのラッパー賛美ではない。アジア人に対して差別的なリリックを平気で書く黒人のラッパーもいる。全員が変わらなきゃいけない。

そういえば昔楽屋で2pacの話をしていたら「あら、2pac?昔よく聴いてたわ!懐かしい~」と平野ノラさんが言っていたのを思い出した。ウェッサイバブリー。

ちなみに、この作品の制作には他にもNBAのスーパースター、ケビン・デュラントとマイク・コンリーも関わっている。

既にスーパースターでありながら、常勝ウォリアーズに格安で移籍して大顰蹙を買ったKDだが、プレーとスピーチは素晴らしいので、関係は無いが置いておこう。





さて、翻って日本のヒップホップでは先述の『Changes』のような曲はあまり見つからない。

そんな中、最近「うおっ!」と思った楽曲がこちら。

松島諒『おっさん Kills My Vibe』

主に女性蔑視、マイノリティーへの差別がテーマ。アルバムのほぼ全曲を通して社会問題を取り扱い、特に「おっさん」に対して容赦ない。

多民族国家ではなく、異人種交流も少ない島国に暮らのしていると差別を縁遠く感じていまいがちだが、差別はある。確実に。

これをおっさんが歌って、おっさんが食らってる事に意味があると思う。

おれは女より女差別 おれはゲイよりゲイ差別にうるさい 何故ならラップが上手い 金持ちで有名でルックスも悪くない 与えられし力は正しく使う その為にあるmaシックスパック

別に全ラッパーがこうあるべきとは思わないが、折角ほかの音楽より沢山喋れるんだからこういう使い方する人がもっと居てもいい。

若いラッパーがオートチューンで「金を持ってる」だの「でっかい夢がある」だの「仲間と派手に遊んでる」だの歌ってるのを聴いても

「なんで俺は君たちの自慢を時間を割いて聴かなきゃならないいんだ・・?」

と思ってしまうおっさんには凄く刺さった。

良いおっさんにならなきゃな。


歌詞引用元翻訳サイト





コーヒーが飲みたいです。