華やかではないごはん feat.コロナ

コロナの症状

もう1年以上前のことだけれど、コロナにかかった。
その頃よく言われていた「匂いがしない」「味がしない」という症状が出てることに気づいたのは少し遅れてからだった。

その頃はまだコロナ規制が厳しい頃だったので病院に行くのも大変だったし、専用の薬だってなかった。ただただ高熱にうなされて、やっと解熱剤を飲めるようになったてから動けるようになり、やっとご飯を作って食べようと思い立った。

私の場合、何も感じないわけではなかったので症状に気付くのが遅れたのだけど、匂いだけがすっぱり感じられなくなっていて、いわゆる五味(甘辛苦酸塩)は残っていた。

正直なところ、これはとても面白い経験だった。
(そうはいっても匂いがしないから、もしもガス漏れしてても気付くことができないので、割と神経質にはなっていた。)
美味しくないとかつらいとか、そんなことを思う前に治ったのは本当に良かった。
この時に気付けたものすごく重要なことが3つある。

旨味は実在する

まずひとつ目は、旨みの存在だ。
生椎茸と鶏肉を出汁パックで煮ただけの食べ物を作ったのだけど、この椎茸がありえないほど美味しかった。
人生でこんなにシンプルで美味しいものあるのかと、ものすごく驚いた。

もちろん、椎茸の味はしない。
塩も入れてないからしょっぱさも感じない。
煮た椎茸のフニャっとした食感と染み込んだ水分があるだけ。
なんの味もしないのに何がなのかわからないけどめちゃくちゃに美味しい。
これが旨味... と感動してしまったのだった。

しょっぱくも甘くも酸っぱくも辛くも苦くもない。舌は刺激を何も感じていない。
なのにありえないほど旨いのだ。

そのあと同じ椎茸を水から煮ただけのものを作ったらやっぱり同じく美味しかった。
匂いも何もしないから初めて気付けたピュアな旨味の存在だった。

食感は大切

気づきのふたつ目は、食感の重要さだ。
匂いも味もせず、五味+旨味だけがある世界において、食感は重要な個性だった。
舌触りや飲み込む時の喉越し、噛む瞬間の歯応え、全部をダイレクトに感じた。
普段は大して噛むことなく、すぐに飲み込んでしまうのだけど、この時はゆっくりと食感を楽しんでいた。

味の公式

最後の気づきは、
味 = 五味旨味 + 匂い + 食感
という公式だ。

カレーを食べてもパスタを食べても、しょっぱい、辛い、という同じ味しか感じることができなくなっていた。
五味自体はとてもシンプルだ。塩分はしょっぱいものだし、薄いか濃いかの違いしかない。
そこに匂いが入ってきて、初めてそれらしい味になる。

さらに加えて食感で全く異なる食事なのだと口が感じるようになる。
ぬれせんと煎餅は似て非なるものなのだ。

後日談

この経験以来、作る料理の塩分は少なめにして、旨味が多くなるようにし、食感も意識するようになった。
ぐずぐずに煮込んだスープが好きだけど、サラダはサクサクさせようだとか、炊き込みご飯に筍を入れてアクセントにしよう、だとか。

結局は、相変わらずあまり噛まずに飲み込むし、バターと砂糖のカロリー爆弾は舌を蕩けさせる。
それでも、あの時出会った全く華やかではない味は、明らかに私の世界を変えたのだ。

疲れてない日は、華やかではない料理を大事に作って過ごしている。

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