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『ファファード&グレイ・マウザー』未訳作品シノプシス紹介(その2)

 さあ、待ちに待ってまいりました。
 ここからは、フリッツ・ライバーによる傑作ヒロイックファンタジ『ファファード&グレイ・マウザー』シリーズの、本邦未訳小説のシノプシスを日本語訳で紹介いたします

 まずはシリーズ第六巻『Swords and Ice Magic』(1977年)。
 創元推理文庫版で翻訳を担当されていた、故・浅倉久志氏がつけられた仮の邦題は『氷の魔法と二剣士』。このシリーズは、「○○の二剣士」と「○○と二剣士」のタイトルが交互につけられており、今回は六巻目、つまり後者のパターンに則っているわけです。

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 肝心の内容はというと、全八編の収録作は、前半がこれまでの作品に登場した土地や、キャラクターを再訪するといったおもむきで、後半が新しい土地での新しい冒険というふうに、ゆるやかなグラデーションをなしています。
 シノプシスだけを見ているかぎりでは、前者に新味の乏しい印象がありますが、腕ならしにと「Beauty and the Beasts」を全訳してみると、むしろ円熟のおもむきを感じました。新しいもの、意外なものだけが「面白いもの」というわけではない、ということに気づかされた気がします。

 ……おっと、個人的な感想はこのくらいにして、さっそく『氷の魔法と二剣士』収録作品シノプシス紹介をはじめてまいりましょう!

「The Sadness of the Executioner」

「死神の憂鬱」(1973)

 死神*1は、どうすれば「定員」を満たすに最適な組み合わせができるか、思案に暮れていた。結局、彼は、小作農と野蛮人をあわせて百六十人、遊牧民を二十人、兵士を十人、乞食を二人、「花売り」娘と商人と僧侶と貴族と職人と王を一人ずつ選び出した。ということは、のこる二人ぶんの「死」は、英雄二人のそれであるべきだ。死神は、食屍鬼の戦士と、男殺しの奴隷娘エーサフィームを、ファファードグレイ・マウザーの寝室に転送する。しかし、二剣士はからくもこの脅威を退けた。彼らの力が勝ったことを喜び、そんな自分をいぶかしみつつ、死神は彼らの代わりに死すべき新た英雄二人を選び出すのだった。

訳注:
*1……ネーウォン世界の死神。〈影の国〉の支配者。「痛み止めの代価」(『死神と二剣士』収録)にて、二剣士に〈死神の仮面〉を奪われる。


「Beauty and the Beasts」

「美女と野獣の二剣士」(1974)

短い話なので、全訳してみました。


「Trapped in the Shadowland」

「影の国に囚われて」(1973)

 英雄たちが、グールの美女クリーシュクラ*2と、マウザーの情婦のひとりを探していると、死神が、その支配域である〈影の国〉を拡張し、彼らをおし包もうとしてきた。二剣士は死神の魔手から逃れようとし、ついにそれぞれの師である〈七つ目のニンゴブル〉*3と〈目なき顔のシールバ〉*4のもとへと向かった。この魔道士たちは、英雄たちから、探している女たちがいかにすばらしいかを聞かされて、なんとも珍しいことに、英雄たちをフリックス*5(にはファファードを)とヒスヴェット*6(には、トラブルにまきこまれたにもかかわらず、この美女を忘れられずにいるマウザーを)、それぞれのところへと送り込んだのである。「シール」と「ニン」の呪文は、ふたりをそれぞれの恋人のもとへと転送し、英雄たちを狙う死神のたくらみをふたたびくじくために用いられる。

訳注:
*2……『ランクマーの二剣士』でヒロインの一人をつとめた、透明な肌と脂肪と筋肉を持つ種族「食屍鬼」の美女。つまりは骨が丸見えの、人体骨格模型みたいな外見。宇宙海賊コブラでも尻込みしそうな、女版クリスタルボゥイな「美女」がどうどうとヒロインを務めるなんて、ライバーのスケベはハイコンテクストすぎる。

*3
……魔道士の一人。ファファードと交わした契約により、ことあるごとに彼をこき使う。いつもフードをかぶっており、その素顔はさだかでないが、フードの中には常に七つの光が漂っているので、「七つ目」のあだ名がついている。おしゃべりで無駄話が多い。

*4
……魔道士の一人。グレイ・マウザーと交わした契約により、ことあるごとに彼をこき使う。いつもフードをかぶっており、その素顔はさだかでないが、フードの中は真っ暗で顔の輪郭すらわからないので、「目なき顔」のあだ名がついている。寡黙で説明が少ない。

*5
……『ランクマーの二剣士』でヒロインの一人をつとめた、ヒスヴェットのおつきのエッチなメイドさん。正体は異次元の妖魔で、元の世界では王女だったとか。

*6……『ランクマーの二剣士』でヒロインの一人をつとめた、ランクマーの地下に広大な領地を持つネズミ人間の王女。狡知に長けたエッチなロリ娘。1960年代にこんなヒロインを描いていた、ライバー先生の先見の明がすごすぎる。


「The Bait」

「誘惑の甘い罠」(1973)

 別の短編*7と同じく、死神美しく蠱惑的な美少女*8をして、二剣士を誘惑し、彼らの守りを崩して、そののちに二体の魔物を差し向けていた。ファファードグレイ・マウザーは魔物をやすやすと打ち破ったが、美少女は姿を消していた。

訳注:
*7……ここでいう「別の短編」とは、二つ前の「美女と野獣の二剣士」のことを言っているようす。先の短編では、美女「スレーニャ・アッキバ・メイガス」が何者かはまったく分からず、表れた二体の幽鬼のでどころも不明だったが、それが死神のしわざであったと、ここでわかるらしい。こちらも、そんなに長くない話なので、時間をみつけて訳してみたいものです。

*8……原語は「nymphet」。ナボコフ『ロリータ』などに代表される、性的魅力あふれる十代前半の女の子のこと。ライバーのスケベニンゲン!


「Under the Thumbs of the God」

「神様のいうとおり」(1975)

 コス*9、モグ*10、そしてイセク*11は、かつて彼らの信者であったファファードグレイ・マウザーを、苦々しく見下ろしていた。神々は、英雄たちにふたたび自分たちの威光を思い起こさせようと、かつての恋人たち*12が待つ異次元へと旅立たせることにする。しかし、英雄たちはそれぞれの相手に背を向けられてからは、〈黄昏のネミア〉*13と、かつて自分たちに一杯食わせたことのある故買屋の〈オーゴの瞳〉*14に執心していた。二人の女はまたも英雄たちを使い走りにしたが、二剣士はかえって、神々のもたらす苦役から、わずかでも逃れられたことを喜ぶのだった。

訳注:
*9……ランクマーの神々の一柱。

*10
……ランクマーの神々の一柱。

*11
……ランクマーの神々の一柱。別名〈瓶のイセク〉「ランクマーの夏枯れ時」『霧の中の二剣士』収録)で、ファファードが信仰し、彼のおかげで一世を風靡した。

*12
……ファファードの最初の恋人ヴラナと、グレイ・マウザーの最初の恋人イヴリアンのこと。「凶運の都ランクマー」『魔の都の二剣士』収録)にて、〈盗賊結社〉の妖術師に殺される。死後は、〈影の国〉で静かに暮らしており、「痛み止めの代価」『死神と二剣士』収録)で、自分たちを忘れかねた二剣士が未練がましくやってきたときには、やんわりと、しかしあっさりと突き放している。

*13
……美しい女盗賊。二剣士を手玉に取ったことのある、峰不二子のような女性。

*14
……ランクマーの故買屋。正体は美少女で、ミネアの恋人。


「Trapped in the Sea of Stars」

「星海に囚われて」(1975)

 英雄たちは再び冒険の海にこぎ出した。彼らの形而上学的、かつ、豊富な占星学的知見を引きあいに出してのやりとりは、東の海での新たな冒険、すなわち次のエピソードへと引き寄せられるまでつづくのだった。


「The Frost Monstreme」

「氷魔」(1976)

 邪悪な氷の魔術師カァークト(彼の本体は〈寒の曠野〉*15のどこか氷の中に幽閉されている)は、〈スタードック〉*16の王子フルームファー*17、そしてミンゴル*18海軍の艦隊を率いて、〈霜の島〉に攻め寄せた。ファファードグレイ・マウザーは、二剣士に惚れ込んだ〈月の尼僧〉シフアフレーから、島の守備を依頼される。ファファードは、十数人の北方の野蛮人とともに〈海鷹号〉に乗り込み、侵略者を迎え撃つ。マウザーも十二人の盗賊戦士とともに〈がらくた号〉に乗り込んだ。しかし、二隻の船は、邪悪なカァークトが妖術で作り出した、氷の巨大戦艦〈氷魔号〉に囚われてしまう。だが、あに図らんや、〈霜の島〉が噴火、溶岩とそれに暖められた津波が押し寄せて、〈氷魔号〉は溶けてしまい、英雄たちとその船はまんまと逃げ延びたのだった。

訳注:
*15……ネーウォンの北西部に位置する巨大な雪原。ファファードの生まれ故郷でもある。

*16
……〈寒の曠野〉にそびえる巨大な山。二剣士はこの山を攻略したことがある。

*17
……〈スタードック〉に潜みすむ、古い一族の王子の一人。「星々の船」『妖魔と二剣士』に収録)で二剣士と敵対した。

*18
……ネーウォンにある一地方、あるいはそこに住む人々のこと。名前からすると、どうやらネーウォンより東にあるらしく、住人は優れた船乗りにして戦士になるらしい。


「Rime Isle」

「霜の島」(1977)

〈霧の島〉へ、ミンゴル艦隊が侵入してくるも、それに気づく住人はいなかった。なん人かの〈月の尼僧〉だけが、二人の負傷者と、異世界からやってきた神々(北欧神話に語られるロキオーディン*19)から警告を受ける。〈月の尼僧〉たちは神々に救いを求めるが、ロキとオーディンは自分たちの世界に起こったことに深く傷つくあまり、輝かしい破滅の訪れを求めていたのだった。彼らは〈霜の島〉の住人と英雄たちに、ずうずうしくも非常識な「神の恩恵」を施しはじめた。
 二剣士は、ミンゴルの脅威に立ち向かうために、だまされて乗り込んだ船員とともに、二艘の小さな船で再び海へとこぎ出した。幸運にも、二転三転込み入った展開の果てに、オーディンは元いた世界へ送り返され、ロキは〈霜の島〉沖の魔法の大渦に封印された。神の怒りは巨大な竜巻となって、ミンゴル艦隊の大半を海に沈め、しかし〈霜の島〉はこの災いを免れたのだった。
 ファファードは、オーディンがネーウォンから立ち去る際、片腕を失ってしまったが、まもなく〈月の尼僧〉シフとの新たな愛に落ち着いた。マウザーの許可を得て、二人の英雄は彼らの船を小さな商館とするのだった。

訳注:
*19……北欧神話に語られる主神と、半神半巨人のトリックスターのこと。ネーウォンはさまざまな時空と接点があり、こうして異世界の存在が紛れ込んでくることがままある(かつては恐竜に乗った宇宙服姿のドイツ人がやってきたり、二剣士が我々の世界にやってきたこともあった)。今回やってきたのはオーディンとロキでしたが、これがトールとロキなら、二剣士と似たバディになったでしょう。


そして、冒険は続く

 いかがだったでしょうか。
 全作品に少なからぬ女の影がちらつくあたり、フリッツ・ライバー翁のおとろえぬスケベ心がうかがえます。と同時に、「男」のさがを感じさせもします。特に「Trapped in the Shadowland」と「Under the Thumbs of the Gods」の二作に、二剣士の最初の恋人たちの影がいまでも揺曳するあたりには、そうした「どうしようもなさ」がうかがえて、ちょっとばかり切なくなりました。
 最後の二編ははっきりした連作になっていて、しかもシリーズ第七巻にして最終巻『光と影の二剣士』に続きます。ファファードの片腕が失われるという展開は、最終刊に向けて、後戻りのできない「時間の流れ」を感じさせて、いよいよ二剣士の冒険も佳境にはいるのだなあと思わされます。

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(「Reme Isle」初出誌のイラスト)

 果たして、運命の都ランクマーを離れ、北西の地〈霜の島〉に新居を構えることになった二剣士の今後はどうなるのか。そして最終エピソード「The Mouser Goes Below」(仮邦題「マウザー地下へゆく」)の不穏さは、二剣士のどのような運命の結末を描き出すのか。
 シノプシス翻訳は、この記事を投稿し終えた翌日からはじめるつもり。公開は二〇一九年内をお約束いたしましょう。

 乞うご期待!

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その3へつづく


参考・引用文献
フリッツ・ライバー『魔の都の二剣士』浅倉久志訳、創元推理文庫
フリッツ・ライバー『死神と二剣士』浅倉久志訳、創元推理文庫
フリッツ・ライバー『霧の中の二剣士』浅倉久志訳、創元推理文庫
フリッツ・ライバー『妖魔と二剣士』浅倉久志訳、創元推理文庫
フリッツ・ライバー『ランクマーの二剣士』浅倉久志訳、創元推理文庫

フリッツ・ライバー『Swords and Ice Magic』(Openroad)

『Fritz Leiber's Lankhmar: The New Adventures of Fafhrd and Gray Mouser』(TSR)

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