逆噴射プラクティス解題 #4
目次
ごあいさつ
こんにちは、うさぎ小天狗です。
この記事は、二〇一八年十月八日から三十一日の間に開催された「逆噴射小説大賞」の投稿作品の自主解題です。
何を考えて書いたか?
どんなイメージなのか?
今後の展開の予定は?
などを、簡潔に語る予定です(たくさん語るなら続きを書いたほうがいいですからね)。
各回ごとに四作品ずつ解題していきます。
今回は投稿第九作目から第十二作目を扱います。
なお、トイレ掃除を済ませた下品ラビットがコメントを書き込みたいと言っているので、彼のコメントも併せてお楽しみくださいませ。
それでは参りましょう。
No.09 「虎になるよ」
『棺の中の悦楽 山田風太郎ミステリー傑作選・凄愴編』(光文社文庫)は、戦後最大のエンタメ作家・山田風太郎の膨大な作家業のうち、広義のミステリーに特化した作品集の一冊ですが、この「凄愴」というのが曲者で、編者の日下三蔵氏によれば、「特に残酷味の強い作品」ということだが、一方、解説を担当した川出正樹氏は、「ノワール」とはっきり口にしています。さらに、この川出正樹氏によれば、ノワールとは「孤独な魂を持つ男女が、暗い情念に突き動かされて犯してしまった犯罪を通じて、人間存在の深部に迫る」構造を核として持つ作品、ということですが、これはぼくの中で常に暗い熾火のように熱を放つ言葉であります。
で、そういう話の一つも書きたいね、と思ったときに、岩波文庫の『唐宋伝奇集』に出会いました。この中には「李徴が虎に変身する話」、つまり中島敦「山月記」の元ネタになった話が入っているのですが、この注釈に「李徴が虎に変身した理由の一つに、残虐な人殺しをしたからとする異本がある」とあって、そこにびびっと来てしまったのでした。
そこからはもう、平井和正にジム・トンプスンと、個人的な「暗い情念」の元ネタがふつふつと背後に現れた次第です。暗く救いのない話になることでしょう。
下品ラビット:
話が長いな。
ジャンル
サスペンス、ノワール
参考・引用文献
「李徴が虎に変身した話」(『唐宋伝奇集(下)』岩波文庫)
「背後の虎」、「虎は目覚める」(平井和正/『虎は暗闇より』角川文庫)
「ファイヤーワークス」(ジム・トンプスン/『ミステリマガジン 1999年5月号』早川書房)
「この世界、そして花火」(ジム・トンプスン/三川基好・訳/『この世界、そして花火』扶桑社文庫)
『ジム・トンプスン最強読本』(小鷹信光・他/扶桑社)
No.10 「吸血鬼ガスステーション(『セックスマシンの冒険』より)」
特に開設の必要はないかと思います。タイトルの時点で、映画『フロム・ダスク、ティル・ドーン』の二次創作とお分かりいただけるでしょう。
セックスマシンは特殊メイクアーティストでもあるトム・サヴィーニが演じていました。
下品ラビット:
これはおれたちが大学生の時に書いたものだ。手をいれようかどうしようか考え中だが、たぶんそのまま公開するんじゃないかな。
ジャンル
ホラー、アクション
参考・引用文献
『フロム・ダスク、ティル・ドーン』(監督:クエンティン・ラタンティーノ&ロバート・ロドリゲス/出演:ジョージ・クルーニー、ハーヴェイ・カイテル、トム・サヴィーニ)
No.11 「レティシア、あるいは二人の男と一人の女」
未来が舞台のSFに「文化の断絶」テーマというのがあります。たとえばクリフォード・シマック『都市』は、人類の滅亡後、知性を持った犬たちが、人類の遺跡を探索して見つけた記録や、代々残る人類にまつわる口伝を集めて作った本、という設定だったりします。もちろん、文化の断絶は物理的なレベルでも起こりうるものですが、それを時間軸の中に再現して、遠い未来の生活を想像させつつ、そこに変わらない人間の生活を見るわけです(我々にとっての神話は、断絶した過去の文化の名残ともいえるわけです)。
で、それを映画ネタでやってみようと考えたのがこれです。字幕は、基本的には発話されたセリフを別の言語に「翻訳」したものと考えられていますが、セリフと字幕の間には実は断絶があり、その断絶を乗り越えるのは「字幕は正しくセリフを翻訳している」という約束事であり、思い込みにほかなりません。つまり、映像と発話のタイミングを素材にして、好き勝手にセリフをアテレコするように字幕を書けば、それは翻訳なのか? 創作なのか? という話をやってみたかったのでした。
下品ラビット:
タイトルの時点でやりたいことは見え見えだ。「二人の男と一人の女」は、二人の男のどちらかの死あるいは別離、それか一人の女の死あるいは別離で終わるのが基本だからな。「クローム襲撃」を覚えているかい。あれだよ。
そういえば、嘘字幕を作るのも一種のハッキングだよな。
ジャンル
SF、映画、ハッカー
参考・引用文献
『冒険者たち』(監督:ロベール・アンリコ/出演:リノ・ヴァンチュラ、アラン・ドロン、ジョアンナ・シムカス)
「クローム襲撃」(ウィリアム・ギブスン/浅倉久志・訳/『クローム襲撃』ハヤカワ文庫)
No.12 「ドランカード・オブ・ザ・デッド」
ゾンビ映画が好きです。死は我々の生の中にあり、けして避けられない悲しみであるとともに、一つの救いでもあります。だから、死が失われるということは、実は恐ろしいことでもあるのです。それは、時代と風土を問わず語られる「動く死者」の物語が伝えていることで、ゾンビ映画はその現代版であるとともに現時点での集大成でもあるのです。
そして、酒もまた、時に悲しみをもたらすものであると同時に、一つの救いでもあります。あと、酔っ払いの動きと、オールドスクールなロメロゾンビの動きは似ているなあとも思ったものです。
この短編は、2018年12月に開催予定の「コミックマーケット」にて配布予定の『道で飲む本2(仮題)』に収録予定です。「道で飲むのはエモいよね」というテーマのZINE(ジン、テーマを決めて個人単位で製作される雑誌のこと)ですので、ご興味持たれた方はそちらをご覧ください。
下品ラビット:
道飲みの本、前回は『男たちの挽歌』ネタだったからな。ゾンビもエモいぜ。
ジャンル
SF、ホラー、酒、道で飲む
参考・引用文献
『ゾンビ』(監督:ジョージ・A・ロメロ/出演:ケン・フォーリー、デビット・エンゲ、ゲイラン・ロス)
『ゾンビランドサガ』(監督:境宗久/出演:本渡楓、宮野真守)
『ナイツ・オブ・リヴィングデッド 死者の章』(竹書房文庫)
以上、投稿第九作目から第十二作目の解題でした。
(うさぎ小天狗)
イラスト
『ダ鳥獣戯画』(http://www.chojugiga.com/)
参考・引用文献のアマゾンリンクはこちら。
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