二十一より先の数
四人のばちあたりはいっせいに息を飲んだ。
なぜって、一九〇七年十月、フォート・サムナー墓地のまうえに輝く月に照らされて、いましがた、かれらがあばいた棺のなかは、からっぽだったから。
「おったまげたぜ……」
棺を見下ろす、赤ひげ男のはげたひたいに、汗が冷たくひかるのが見える。
「まちがいってことは、ねえのかよ」
「まちがえるはずがあるかい」
軍服姿の男は、しめったかび臭いにおいの立ちのぼる棺から顔をそむけ、そばの暮石をあごで示す。
「こんなに削れてるんだ、見まちがえようはなかろう」
墓石のむこうで、毛の生えたパンケーキみたいな手の男がうなずいた。かれが撫でる墓石はでこぼこにけずられていて、刻まれた名前がどれだけ知られているかを物語っている。
この世にたったひとりの、伝説の男の名前だ。
その名に魅了され、その名をたたえるものたちが、名前の魔法をしんじて、墓石をけずり取ったのだ。
この、おれさまの墓石を。
【続く】
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