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コロナ渦不染日記 #13

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五月十六日(土)

 ○昼前より雨が降り出す。冷たい一日となった。

 ○沛然たる雨のなか、近所の携帯電話サービス店舗へゆき、iPhoneを新発売のiPhone SE(第二世代)に機種変更する。
 新型の発売ということで、完全事前予約制になっていたので、決められた時間にゆけばすぐ受付となった。窓口には、透明プラスチックの板を組み合わせて作った仕切り板が備えつけられていて、呼吸やつばなどの飛沫を防御するしくみになっている。紙の契約書や説明書が板を支える枠に収まらなかったりと、元からこういう用途に用いられるための設備でなかったことがわかる。あるいは、チラシやパンフレット、取り扱い機種のモックアップなどを展示するためのものか。
 手続き中に、前回、機種変更をしたのが四年前とわかった。ぼくが使っていたのは第一世代のiPhone SEであったから、これでひとサイクルを過ごしたことになる。ひとまわり大きくなった新型を受けとって店を出た。
 雨は降りつづいていた。

 ○帰宅してバックアップから復元をかけるが、一時間ほどかかってしまった。前回、機種変更したのが四年前だから、写真は引き継ぐが、音楽は引き継がないなど、復元のふるまいを忘れているところがあったためか。
 復元を終えると眠くなった。昼寝する。

 ○五月雨りょうすけ『ホムンクルスはROMらない』を読む。


五月十七日(日)

 ○昨日とうってかわって、朝からすがすがしい晴れ。
 穴ぐらを出て散歩をする。丘に生えた草の葉は、昨日のしめった空気が残した夜露を身にまとい、日光のもと、かすかな風にゆれながら、金剛石のごとききらめきを振りまいている。薄く引き延ばされた雲は、レースカーテンめいて青空を覆い、ときに日ざしをさえぎって、すずしい空気を吹き下ろしてくる。しっとりと水を含んだ木々はあまい香りをただよわせ、歌いさわぐ小鳥たちを枝に呼び集める。遠く車道からは車の音が聞こえ、工事のドリルの音もする。遅い朝食の匂い。近づいては遠ざかる二台の自転車の音と、Switchについて話す子供の声。耳元に蚊の羽音。
 ぼくは穴ぐらにいるのが好きだが、やはり外に出れば出たで、心がうきうきする。特に、今日のような好天のときは。

 ○気分がいいので、イナバさんを誘って岬へ行く。コーヒー屋のカレーを食べ、新しいiPhone SEのケースを買う。その後は、イナバさんのすすめで、森へ移動し、服を買ったり古本屋をひやかしたりする。買う予定のなかった新潮文庫の『オコナー短編集』を手に入れるなど、ひさびさに買い物を満喫した気がする。


 ○だが、森にしても、岬にしても、これまでになく人出がおおいように見受けられた。店などでも、整理券を配布したり、入場制限をかけたりなどして対策をしていたが、それだけ客数が増加しているということもあろう。

 ○岬や森、そして穴ぐら周辺をふらついていると、使い捨てマスクの販売価格が異様な動きを見せているのがわかる。
 この災禍の以前、ひと箱五十枚入りの使い捨てマスクの販売価格は、六〇〇円前後であったと記憶している。それが、三月あたまごろからぴたりと出回らなくなり、政府のマスク配布の遅れを経て、いよいよオンラインフリーマーケットアプリなどでマスクが闇市的に販売されるようになった。そこでの価格は寡聞にして知らないが、街頭で無許可販売されていたものが、だいたいひと箱五十枚入りで三五〇〇円。その後、通常販売ルートに乗るようになり、先週あたり、一般の薬局などで販売されるようになった価格が、ひと箱五十枚入りで二九八〇円。それを受け、街頭での無許可販売が二五〇〇円円、二〇〇〇円と下落していき、ついに今日は一九八〇円というのを見かけた。それでも往事の正規販売価格の三倍近い値段ではあるから、闇市にふさわしい暴利というほかないが、このように価格が推移してきているのを知ると、コロナ渦も、最初の大波を乗りきったのであろうかと思う。
 もちろん、第二、第三の波がこないとも限らない。都内も、二十一日に緊急事態宣言を解除する方向で協議が進められているというが、仮に解除することになるとしても、第二、第三の流行を懸念しつつの「日常」を継続していくことになるだろう。改めて、政府から国民への、細やかな支援が求められることになろう。

 ○今日、大阪での新たな感染者数はいない、と発表された。感染者の発見は、感染から二週間ていどの潜伏期間を経るというから、今月頭のゴールデン・ウィークの外出自粛が奏功した、ということか。
 一方で、アパレルメーカー「レナウン」が民事再生手続きを開始した。この災禍が直接の理由ではないようだが、それでも、いま、一部上場企業が経営破綻をするのははじめてだという。売掛金の回収ができなかったことも経営破綻の一因であったというから、やはり、中小零細企業や個人事業主の困窮は、いずれ大企業にも影響を与えかねないのである。いわんや、国家と国民においてをや。

 ○帰宅後、久しぶりにたくさん料理をする。ご飯に味噌汁、ガーリックバターチキンソテーにサラダ。母うさぎの反応もいい。

 ○映画『HUNT/餌』を見る。

 オランダのモンスターパニック映画で、アムステルダム市内で殺戮を繰りかえす、神出鬼没のライオンの恐怖を描く。クライマックスまで手堅い構成が光る。

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→「#12 『ゆたかさ』とはなにか」



イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/


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