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電車の中の物語

車両の扉が完全に閉まり、電車は走り出した。

まあいいや、次の駅で降りて、一駅分、歩いて戻ればいい。

そう決めて、浮かせかけた腰を、シートに戻した。

また、やっちゃったな。

顔を上げたときには、もう扉は閉まりかけていたのだ。

それくらい、集中して読んでいた。

短い物語だけど、なぜか引き込まれる。

読み始めたら止まらない、顔も上げられない。

電車が駅に着いたことも気がつかない。

こんなこと、前にもあったんじゃないかな。

そんな気にさせる物語だった。

たぶん、シチュエーションが似ているからだ。

電車の中の物語。

そんなことを思いながら、目はまた文章を追っている。

もしかして、ちょっと疲れているのかな。

こうして物語に没入するのは、きっと、どこかで息抜きしたいからだ。

文章を読みながら、頭のすみでそんな気持ちがしている。

うちに帰っても、ぼうっとして、なにも手につかないんだ。

最近、ちょっと、忙しいから。

なんでこんなことになったんだろう。

わからない。

思い出せない。

どうしてなのか、考えてもまとまらない。

ふと、顔をあげた。

「↑かえるなら、今!」

言葉が、頭の中でなんどもなんどもくり返される。

もしかして、前にも見たことがあるのかな。

いつも乗っている路線だし。

目を閉じて、少し考えてみた。

なぜか、気になる。

窓の外を流れる、沿線の景色の中で、目についた看板に、書いてあったのだ。

「↓かえるなら、今!」

ちょうど、物語を読むのをやめて、顔を上げたところだった。

そのときも、電車は、この路線を走り続けていた。

そして、物語を読んでいた。

こうして、シートに座って。

あたまがぼんやりしていた。

こんなこと、前にもあったんじゃないかな。

電車の中の物語。

これってたぶん、シチュエーションが似ているからだな。

電車が駅に着いたことも気がつかない。

読み始めたら止まらない、顔も上げられない。

短い物語だけど、なぜか引き込まれる。

それくらい、集中して読んでいた。

顔を上げかけたときには、もう手遅れだったのだ。

また、やっちゃったな。

そう考えて、浮かせかけた腰をシートに戻した。

まあいいや、次の駅で降りればいい……降りられれば。

車両の扉が完全に閉まり、電車は走り出した。

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