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地獄へ道連れ

 シボレーコルベットC2の燃料タンクは後部にある。それはフロントガラスの向こう、青空の下、薄茶色の岩山へ向かうハイウェイを猛スピードで走り去ろうとしている赤いC2は初期型も同じ。初期型の証である、特徴的なスプリットウィンドウの、その下。トネッリは、カズオにそこを撃つよう指示した。この小柄なアジア系の若者が、ばつぐんの銃の腕を持っていることも、父親譲りのバカ正直な性格をしていることも、彼は知りすぎるほどに知っていた。実父の死後、カズオを立派なハイウェイパトロール隊員に育てあげたのは、ほかならぬ彼なのだ。
 ペダルを踏み抜く勢いでアクセルをふかしているのに、C2は少しずつ遠ざかっていく。彼は焦った。「カズオ!」顔を動かさず、横目で右を見た。ちょうどウィンドウを開けたカズオが、窓から出した右手の拳銃を構えるところだった。少女のような横顔から、いつもの人なつこい表情が消えた。吹き込む風が、トネッリの鼻孔に甘い体臭を流し込んだ。まったく、いい年してガキみてえな乳臭え匂いをしやがる。彼がレイ・バンの下の団子鼻をひくつかせた次の瞬間、赤い初期型コルベットがスピンした。

「なぜ言われたとおりにしねえんだ!」
 ねちゃねちゃした男の声が聞こえ、メグは自分がまだ生きていることを知った。
「死んじゃったらどうするんです!」
 若い声が言い返した。
「カズオ、てめえ誰に逆らってるのかわかって……おい、どこに行く!?」
 メグはシートベルトを外し、コルベットのドアを開けた。外に出たところでふらついて、アスファルトに膝を突いた。
「大丈夫ですか?」
 顔を上げると、小柄なハイウェイパトロール隊員が、こちらに手を差し出していた。少女のような顔をしている。その背後に、太ったハイウェイパトロール隊員がリヴォルバを抜き、小柄な相棒の頭へ向けるのを見た。
 メグは右手で差し出された手をつかむと、左手で懐から銃を抜く。

【つづく】

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