第二章 初陣の夜、鬼達は静かに刃を研ぎ澄ます
記念すべし初出勤。
0時オープン5時閉店というトリッキーな営業体系を取る店舗。
「おはようございます!」私は清潔で健やかな毎日を過ごす花王のような人間(実際は不潔で自堕落な生活を送る貧困層)なので、大きな声で挨拶。
初出勤なので皆さんの自己紹介を受けました。
1.代表
グループの副ボスでこの店のトップ。「君臨すれども統治せず」を貫き、店舗の実務は先日紹介したHさんに任せている。丸坊主にハット姿。鉄拳制裁で統治する。
2.Jさん
酔った事故で舌がちぎれて死にかけた過去を持つ元ホスト。
酒は強くないが、芸人以上に芸人と呼ぶほど宴会芸に特化したポケモン。
水商売のために生まれてきたかのような人間。
酒癖が悪く下手打ちでずっと丸坊主。
3.Kさん
ノリだけで生きてきた天才。
どんな飲みでも先陣を切って飛び込む特攻隊。
4.Nさん
180cmの高身長にウルフモヒカン。唐獅子牡丹の刺青を入れているためずっと長袖。
一番年齢が近く優しく接してくれる。
ハーブが好き。
5.KNさん
ホスト時代に酔っ払ってベンツ一台ボコボコにしたことからグループより禁止令が出た天才。
見た目は反社会的勢力。
6.HRさん
グループの会長の運転手兼DJ。
何があっても客からの酒は飲まない。
ハーブが好き。
以上6人の個性的な面々と始まる奇妙なアルバイト生活がスタート。
実質店長のHさんから店舗の説明。
「この店はキャバクラのアフター専門みたいなところです。いわゆる水商売の典型。ナイトと呼ばれています」
なるほど。私が想像していたバーテンダーとは一切違う。
バーテンダーが華麗なランでトライを取る花形のウィングだとすれば、ナイトは泥まみれになりながらブレイクダウンの最前線で闘い、血で血を洗う肉弾戦の中に身を置くロックやフランカーといったところ。
ここで私の夢はボロボロに打ち砕かれることになります。
しかし、私は根っからのポジティブ人間(実際は太宰治やブラックマヨネーズ吉田と同じ思想回路)なので、「ま、ええやん!!シェイカーはプロテイン飲むときに振っとるしな!振るのは腰だけっちゅうことや!まぁとりあえず酒飲もや!」と前向きに捉えることにしました。
先程紹介した方達(DJのHRさん以外)は客引きのため店外へ。
私は皿洗いや伝票の付け方など、ごく普通の業務を学んでいました。
その日は客通りも少なかったため、客引きに出ていた戦士の方々は惨敗し、店内に帰ってきていました。
「今日はあかんわ」ノリだけで生きてるKさんがぼそっと口にします。
水商売をするためだけに生まれてきたJさんは、馴染みのお客さんと飲みに行ったようです。
皆それぞれ携帯で連絡したり、タバコを吸ったり、各々で束の間の休養を取っていました。
静かな店内。流れる音楽はAAAの「恋音と雨空」。「好きだよと 伝えればいいのに 願う先怖くて言えず」と聞くたびに
AAAくらいになれば札束で女の頬を叩けばゲームセットでしょ。言葉なんていらない。
と思いつつ、私も買いたてのエコーに火をつけました。
風俗の待合室の香りとタバコの煙が交差し、奇妙なハーモニーを奏でていました。
ダダダダダダダと階段を降りる足音のすぐ後、突然勢いよく扉が開き静寂はギタギタに切り刻まれました。
現れたのは170cmくらいの平均身長に似合わない丸太のような両腕、潰れた耳、パツパツのTシャツの男とスナックのママと思われる美魔女。
一目見てわかりました。
この男"プロ"だ。
こうして嵐の前の静けさから、突然現れたプロによって激動の初出勤の狼煙が上がりました。
続--
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