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「江戸の仇を長崎で討つ」

 注文通りに論文を修正しました。グラフも全て作り直しました。考えないで、言われた通りに淡々と指示に従いました。この作業を終えたところで、感情を抑えて、風船が爆発しそうになっている自分がいました。

 一番に、大学院の友人にメールをしました。長い経過を知っているので、一緒に怒り、共感し、励ましてくれました。少し心が軽くなりました。

 二番目に、研究室の先輩にメールをしました。私同様に卒業後もアカハラが継続していました。いろいろあったようですが、既に乗り越えた先輩の言葉に、少し力が入りました。

 三番目に、論文の相談をする大先輩に電話をしました。メールでなく人の声を聞いた途端に痺れるほどに我慢していた感情が、ついに決壊しました。

「論文を引き上げると言えないのが情けない。私はバカだ。自尊心も無く、相手に服従している。」と声を上げて泣きました。

 この3年間、幾度となく涙を堪えて来ましたが、こんなに悔しい気持ちになったことはありません。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりました。

「江戸の仇を長崎で討つですよ。」

 大先輩は静かに、いつかどこかで討つ時がくると仰いました。こんな私でもいつか一矢報いることができるのでしょうか?これが最初で最後の論文になる私が、キャリも地位もある相手と戦えるとは思えませんが・・・

 それでも泣くだけ泣いたら少し落ち着きました。もう締め切りは迫っています。今は相手の注文通りに修正をして、とっとと提出して縁を切ればいい。戦うことを放棄した私には、そうするしかないのです。

 チラリと後輩たちの顔が浮かびました。コロナ禍の入学で、例年以上に苦戦しているはずです。私や先輩みたいにならないように、できる限り力になりたいと思いました。

 最後まで、やるべき事をやり遂げよう。

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