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【ゼミ生お薦め本】『むかしむかしあるところにウェルビーイングがありました』

著者

石川喜樹 吉田尚記

概要

 近年ウィルビーイングは日本政府やWHOが目指すべきものとして掲げたりしているため、多くの人が目にすることが多くなった。しかし、ウィルビーイングという考え方が語られている書籍の約8割は、欧米から輸入したままのウィルビーイングの考え方だということをご存じでしょうか。
 そのなかで、日本でのウィルビーイングとは何かを日本の昔からある伝統的なものから、日本人の元々ある感性に着目して考察したこの本はとてもユニークで興味深かったです。

目次

1章
ウィルビーイングって何だろう
2章
日本文化から見つけたウィルビーイング
3章
健康から見るウィルビーイング
4章
ウィルビーイングへの道とは何

おすすめの理由

 私がこの本を紹介したいと思った理由は、ウィルビーイングってわかるようで分からないからです。2年次のゼミでもよく出てきた言葉だったが、簡単に言えば「幸せ」と似ていると私は思っていました。しかし、ウィルビーイングや幸せというのは感覚では分かるが、一人一人で違う物なので結局はあまりよく分かっていないのかもと思いました。また、授業ではウィルビーイングは目指すべき物としてはよく語られていたが、ウィルビーイング自体を詳しく掘り下げたことはなかったため、自分なりのウィルビーイングの認識を作りたいという理由もある。
 今回私がこの本で一番皆さんに紹介したいのは、日本のウィルビーイングの価値観は日本昔話をよく見れば至る所にちりばめられているという点です。この本では、昔話から5つのウィルビーイングの教訓が得られるとしていますが、今回はそのなかの一部だけ取り上げて紹介したいと思います。この本のほんの一部なので、興味を持った方はぜひ実際に本を手に取ってみてほしいと思います。
 日本のウィルビーイングの価値観を伝える前に、まずは欧米やWHOなどの一般的なウィルビーイングの認識は、簡単にいえば「人生全体で[満足]と[幸福]がそろえばウィルビーイング」といわれています。では日本昔話ではどのようなものがウィルビーイングとされているのだろうか、というのがこの本の一番重要な部分です。日本の昔話は海外に比べて主人公がお年寄りの場合が多いこと、そして物語のスタートとゴールにあまり変化がないものが多い点が挙げられています。これについては、有名な昔話の「うらしまたろう」でもう少し詳しく説明します。
 主人公の浦島太郎は、元々は40代近くの独身の中年男性です。浦島太郎が亀を助けて竜宮城に行くというという話です。この話を海外の人が見たときに、竜という名前がついている城に行き乙姫様に会うので、マリオとピーチ姫のように悪い竜を倒して乙姫様を助ける話だと思いこむようだと言います。しかし、実際の「うらしまたろう」は、竜宮城に行った浦島が丁重なおもてなしを受けて帰り、お土産の箱を開けたらおじいさんになってしまって終わりという話です。この話は西洋文化で育った人からしたら意味不明なストーリに思えると言います。なぜなら、西洋文化での童話は、ゼロからプラスのように上を目指す物語が多いからです。しかし、日本の昔話は、主人公がプラスやマイナスのままで終わるというよりも「ゼロ」に戻る話が多いと著者が言います。
 日本の昔話には始まりと同じ位置に戻る話が多く見られるということで、「上昇すると幸福になる」という西洋的思考とは対照的に、日本は「ゼロに戻ることを良し」としている特徴があるようです。さらに言えば、日本には「上より奥」の精神があります。これは成長、変革、上昇よりも「ゼロに戻る」ということを大事にしてきたということです。しかし近年の日本では成長至上主義がすっかり浸透し、「常にアップデートしていかなければと取り残される」という焦りが蔓延しています。上ばかりを見て成長に過剰に縛られるのではなく、あえて視線をずらして「奥」はどこにあるのだろうと考えてみるだけでも、心持ちは少し変わってくるのではないでしょうか。この考え方がのちのち日本人の感性に近いウィルビーイングにつながるのではないか、と著者が語ります。
 今紹介したこの「ゼロに戻る」「奥に価値を置く」というのは、この本で指摘した日本らしいウィルビーイングはほんの一部です。この本には、昔話以外にも古今和歌集や万葉集など、様々な昔からある日本的な事柄から、日本独自のウィルビーイングの感性を語っています。ぜひ他の例を見てみたい方は、手に取って見てください(O. F)。


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