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【市民的コモンズに関する読書会】『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』 

書誌データ
園田聡『プレイスメイキング アクティビティ・ファーストの都市デザイン』(2019.6. 学芸出版社)

園田 聡(そのだ さとし)
有限会社ハードビートプラン。1984年埼玉県所沢生まれ。2009年工学院大学大学院修士課程修了。商業系企画・デザイン会社勤務を経て、2015年同大学院博士課程修了。
2014年~小田原Laboratory.代表、一般社団法人国土政策研究会公共空間の「質」研究部会ディレクター。
2015年~2016年株式会社アーバン・ハウス都市建設研究所研究員。
2016年より現職、特定認定NPO法人日本都市計画家協会理事。専門は都市デザイン、プレイスメイキング。現在は、大阪・東京を拠点にプレイスメイキングに関する研究、実践に取り組んでいる。

目次
はじめにーなぜ今、プレイスメイキングなのか
第1章プレイスメイキングとは何か
 1.センス・オブ・プレイスの思想
 2.プレイスの構成要素
 3.都市デザイン手法としての確立
 4.日本にも息づく「プレイス」の文脈
第2章プレイスメイキングのレシピ
 1.プレイスメイキングの10のフェーズ
 Phase1:「なぜやるか」を共有する
 Phase2: 地区の潜在力を発掘する
 Phase3: 成功への仮説を立てる
 Phase4: プロジェクト・チームをつくる
 Phase5: 段階的に試行する
 Phase6: 試行の結果を検証する
 Phase7: 空間と運営をデザインする
 Phase8: 常態化のためのしくみをつくる
 Phase9: 長期的なビジョン・計画に位置付ける
 Phase10: 取り組みを検証し、改善する
 2.プレイスメイキングの10のメソッド
 Method1: チェック・シート
 Method2: ザ・パワー・オブ10
 Method3: ストーリー・シート
 Method4: ステークホルダー・マップ
 Method5: サウンディング
 Method6: 簡単に、素早く、安く
 Method7: フィードバック・ミーティング
 Method8: プレイス・サーベイ
 Method9: キャラクター・マップ
 Method10: プレイスメイキング・プラン
 3.プレイスメイキングの体系
第3章 街を変えるパブリック・プレイスー国内外の先進事例
 Case1: オポチュニティ・デトロイド
    ―財政破綻からのコミュニテイ再生
 Case2: 北鴻巣スタイル
    ―住宅街の価値を高める環境デザイン
 Case3: 左近山みんなのにわ
    ―住民の自治による新たな再生団地
 Case4: 北浜テラス
    ―水辺の価値を民間主導で顕在化する
第4章 実践!プレイスメイキング-誰にでも街にコミットできる現場
 Project1: あそべるとよたプロジェクト
 ―「つかう」と「つくる」で駅前を再生する
   Interview1 栗本光太郎
     ―なぜ豊田では本質的な公民連帯が実現できたのでしょうか?
   Interview2: 神崎勝
     ―誰もがチャレンジできる街は、どうすれば作れますか?
 Project2: 小田原Laboratory.
     ―誰でも始められる空き地の活用
第5章 アクティビティ・ファーストの都市デザイン
 1.これからの時代の都市デザイン・プロセス
 2.エリアマネジメントとプレイスメイキングの違い
 3.与えられる都市から、自ら獲得する都市へ
おわりに

概要紹介
 本書では単なる居る場所である「スペース」ではなく、人々の居場所である「プレイス」と呼べる場所をいかに作っていくかが、人口の減少や空間のあまりを感じ、都市空間にも量より質が求められる時代においては、重要な課題であるとした。プレイスメイキングの取り組みは「地域の人々が、地域の資源を用いて、地域のために活動するプロセス・デザイン」であり、「プレイス」を生み出すための協働のプロセスに携わることによって、運営者や利用者の人々に場所への愛着が芽生える。そうなれば、豊かな公共空間というのは「与えられるもの」ではなく「自ら獲得し育むもの」だという認識の転換が起こり、その先に実現されるのが、日常的な豊かな暮らしの風景なのだと述べている。
 プレイスメイキングのプロセスは「10のフェーズ」と「10のメソッド」が実践する際に重要であるとし、このプロセスに沿って実践された都市の再構築事例も紹介されている。

市民的コモンズを考える上で示唆的な内容
 本書で重要な課題であるとする「スペース」から「プレイス」へという概念は、市民的コモンズを考えるうえでとても重要だと感じた。プレイスは空間が人々の活動の舞台となり、空間や街への思い入れや結びつきを強化する居場所であり、単なる空間としてスペースをプレイスへと変えていくのは、「センス・オブ・プレイス」という場所性・場所らしさである。このセンス・オブ・プレイスを共有する事により、住民のコミュニテイへの帰属意識や責任感が醸成される。さらにはセンス・オブ・プレイスは単なる空間的特徴だけでなく、その場所が生まれた背景や、そこでの活動と歴史の堆積によって形成されたその場所独特の文化をも包括している。土地が共有資源となることが多いコモンズにおいて、センス・オブ・プレイスは重要な役割を果たしているように感じる。

紹介された面白い事例
 「あそべるとよたプロジェクト」はプレイスメイキングのプロセスに乗っ取って、「つかう」と「つくる」の両面から都市地区の再構築を行う取り組みだが、中でも「道路でゴロ寝読書祭り」が興味深かった。街歩きで挙げられた10カ所の公共空間を「つかう」=活用するために、既存の空間を使いこなすことで街に関わる人々の潜在的な活用ニーズや利用者の動向が把握できるという仮説のもと、複数人でアイディアを出しあった結果、最も票を集めた「道路でゴロ寝読書祭り」が実現された。
 興味深いのは実施された内容ではなく、この取り組みで大切にしていた事である。目的はニーズ等の把握だが、このイベントを行うことの真意は、「今後長期にわたって実践していくプレイスメイキングの取り組みの核となるメンバーとのつながりを築くこと」と、「本当に自分のアイディアで街は変えられるのだ」という実感を持ってもらい、成功体験をさせることにあった。公共空間をプレイスメイキングし都市の再構築に成功後ではなく、途中で「自分のアイディアで街は変えられる」という成功体験を意図的に実感させるのは、面白い着眼点だと感じた。
(R. O)

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