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中国における不正調査の実施

中国現地法人における不正行為に対する内部調査は、基本的には、日本における不正調査と同様に、①初期対応、②調査チームの編成、③調査計画の策定、④情報の収集と分析、⑤調査結果の評価・対応の検討、という順序で進むことになります。但し、中国現地法人という特殊性を十分に考慮に入れながら進める必要があります。

(1) 初期対応

中国現地法人の不正の疑惑を把握した後、関連情報の信憑性及び重要度を初歩的に評価するとともに、情報管理を厳格に行わなければなりません。特に従業員による内部通報の場合は、単なる管理職に対する不満の可能性も否定できませんが、会社の対応姿勢を見せないと、当局への通報やSNSでの拡散に発展してしまうおそれがありますので注意が必要です。

(2) 調査チームの編成

初期対応を行ったうえで、関連情報の内容及び重要度に応じて、調査チームを編成しなければなりません。日本本社の社内の内部監査、コンプライアンス及び法務の関連部署だけで対応できるケースがありますし、外部の弁護士や会計士をチームに加えて対応しなければならないケースもあります。また、不正の内容によっては、外部の環境や薬事等の特殊の分野の専門家を調査チームに加えるケースも少なからずあります。

(3) 調査計画の策定

調査チーム編成後に、対象者の人数、所在地、対象期間等に基づき、調査の計画を予め作成する必要があります。特に日本本社の財務諸表に対する影響が大きい不正案件の場合や日本本社が上場会社である場合は、本社の監査報告書の作成や対外公表のスケジュールにも関係するため、綿密に調査計画を策定する必要が重要です。

(4) 情報の収集と分析

不正調査において、情報の収集と分析が一番重要です。情報収集の手段としては、①関連書類の収集、②対象者のパソコンやメールのデータ保全、及び③関係者に対するインタビューが一般的です。①と②については、日本での不正調査と変わりませんが、データ保全の場合は、日本のIT担当者が国境を越えてリモートで現地法人にあるパソコン内のデータを保全するができます。③については、関係者によっては、言語の問題があり、通訳が必要かもしれません。その場合は、通訳の正確性を確保するために、通訳担当者に対する事前の情報インプットが重要です。

(5) 調査結果の評価・対応の検討

調査結果を調査レポートの形でまとめるのが一般的です。調査レポートの構成と内容はケースバイケースで異なりますが、そのうちの事実認定と評価・意見の部分が最も重要です。事実認定に誤りがあったり、不当な意見や評価を記載した調査レポートに基づいて、日本本社又は中国現地法人が対象者に対して処分等のアクションを起こした場合に、対象者がそれを不服して、日本本社又は中国現地法人を被告として提訴し、紛争に発展してしまう可能性があります。よって、事実認定と評価・意見を峻別したうえで、それぞれの事実上の根拠と法律上の根拠等を明記する必要があります。
また、日本本社又は中国現地法人が調査結果に基づき取りうるアクションとして、社内の懲戒処分、民事訴訟による損害賠償請求、行政機関への通報及び刑事告発が考えられます。行政機関への通報及び刑事告発を行う場合は、行政機関等による調査が必要となり、対象者にとどまらず、不正の内容によっては取引先等に飛び火する可能性があるため、慎重に検討する必要があります。

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