見出し画像

JR四国はどうなってしまうのか?(パート1)

第1回目の記事は、昨今のコロナ禍により少なからぬ影響を受けているJR四国についてです。2部構成でお送りし、今回はパート1になります。(写真は琴平駅に停車中の7200系電車です)

旅客事業を行うJRグループの会社は6社あり、規模が大きい会社はJR東日本、JR東海、JR西日本ですが、残る3社は本州以外の島に位置することから「三島会社」と呼ばれ、前述の3社と比較すると規模が小さく経営基盤が強くありません。この内、JR九州は2016年10月に東証第一部に上場し、鉄道事業以外で収益を確保するなど財務基盤は比較的安定的であるのに対し、JR北海道とJR四国は上場しておらず財務基盤も不安定です。この不安定な状況に追い打ちをかけているのが、コロナによる需要減退です。

はじめに

Twitter界隈で日経の記事が話題になっています。

(日本経済新聞)「JR四国、コロナで業績悪化 4月の損失「残り11カ月で補えない」 」
2021年3月期通期の業績見通しを初めて「未定」とした。収入減で6月にも手持ち資金が尽きるとして、金融機関と借り入れ交渉中であることも明らかにした。

手持ち資金、つまり現金がショートすれば倒産の憂き目に遭うことになります。一般に鉄道事業は一定の収益を確保できるというイメージがありますが、JR四国はなぜこのような危機的な状況に陥っているのでしょうか?

JR四国の経営状況

まずJR四国の財務状況を見てみたいと思います。JR四国は上場企業ではありませんが、Webサイトに決算公告を掲示しています。例えば19年3月期の財務諸表の内、損益計算書(P/L)と貸借対照表(B/S)は以下の通りです。

画像1

(19年3月期財務諸表から抜粋)

鉄道事業のP/Lでは用語が少し特殊で、一般的な売上高は「営業収益」と表現し、売上原価や一般販管費・減価償却費等は「営業費」に含まれます。

鉄道事業では▲135億円の赤字になっています。関連事業(ホテル事業等。なお連結諸表とは明記されていないですがそのように想定します)では6億円の黒字、両方合わせても連結利益は▲129億円です。しかし税後損益は▲2億円まで圧縮されています。なぜここまで圧縮されているのでしょうか?

ここにJR四国がこれまで生き延びてきたカラクリがあり、それが「経営安定基金」と「鉄道建設・運輸施設整備機構(鉄道・運輸機構)による特別債券」です。「経営安定基金」については、こちら(JR三島会社の経営安定基金のからくり)に詳しいのでご参照ください。「特別債券」は、経営安定基金に加え2011年から開始された制度です(鉄道・運輸機構のサイト参照)。恐らく経営安定基金だけでは安定した収益の確保が難しい(それでも3%台の投資収益ですが!)ので、特別債券が発行されているのではないでしょうか。

ただ上記のように本業では儲かっていない、かつキャッシュも生み出していないのがJR四国の現状です。ちなみに、鉄道事業では「営業係数」という分かりやすい指標があり、これはある路線で100の収入を得るために、どの程度の費用が必要かというもので、例えば山手線は50台(つまり電車を走らせれば収入の半分は利益になる)です。ではJR四国ではどうかと言えば、こちらのサイト(JR四国の全路線収支と営業係数)をご覧ください。なんと、岡山と香川を結ぶ瀬戸大橋線しか利益を生み出せておらず、他の路線は走らせれば走らせるほど赤字という状況です・・・

コロナ禍の影響

この構造的問題に追い打ちをかけるのが、コロナ禍による需要減退です。手元に詳細なデータがないのでざっくり計算になるものの、18年度のデータから20年度におけるコロナ禍の影響度合いを試算してみます。以下の表をご覧ください。

画像2

上記の前提は後述しますが、①希望的観測の通り、需要減退が4〜6月にのみ生じ、7月以降は18年通りの業績とした場合でも、20年度は18年度と比較して営業利益並び営業キャッシュフロー(表上ではEBITDA)は▲53億円減となっています。これだけでも痛手ですが、②悲観的観測にて、もし20年度全体を通じコロナ禍の影響が発生した場合、18年度と比較して営業利益・営業キャッシュフロー共に▲124億円減となってしまいます。

冒頭の日経新聞記事では6月に現金が底をつくとあります。営業キャッシュフローベースで毎月10億円以上流出するのに加え、最低限の設備投資や債務返済でもキャッシュが必要になることを考えると、財務状況が厳しいのは間違いなく、かなり切羽詰まった状況なのは確かです。

※上記計算の前提です。
・18年度の「月間標準」は、季節変動を無視した単純な月間平均数値です。この数値を20年度の各月の数値にそのまま援用しています。
・①希望的観測では、4,5月の営業収益は「月間標準」の20%に、6月は同40%に設定。7月以降は同100%で推移させています。
・②悲観的観測では、4〜6月は①と同様ですが、7月以降も「月間標準」の70%で設定しています。
・営業費用の内 人件費や変動費は多くなく大幅な削減は難しいと想定し、変動なしにしています。減価償却費も同様に変動なしとしています。
・EBITDAを算出する際の減価償却費は、JR西日本の19年3月の固定資産と減価償却費の比率を、JR四国の固定資産額に乗ずることで算出しています。
・経営安定基金や鉄道・運輸機構の特別債券はどのように影響するかよく分からず、上記計算には織り込んでいません。

以上、JR四国の現状について見てきました。次回パート2ではJR四国に対する救済策はどのようなものになるか、想像していきたいと思います。

最後までご覧いただき、ありがとうございました。ご意見・ご感想、また間違っている箇所等ありましたら、コメント、もしくはTwitterまでご連絡頂けるとうれしいです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?