矢野利裕

作家、DJ。文芸批評・音楽批評など。著書に、『学校するからだ』(晶文社)、『今日よりも…

矢野利裕

作家、DJ。文芸批評・音楽批評など。著書に、『学校するからだ』(晶文社)、『今日よりもマシな明日 文学芸能論』(講談社)、『コミックソングがJ-POPを作った』(P-VINE)など。 連絡先=toshihirock_da_house [at] yahoo.co.jp

最近の記事

イギリス滞在日記

 3月下旬、仕事の関係でイギリスに行く機会がありました。滞在していたのは、ウィリアム・モリスの出身地ということでも知られるイギリス東部のエセックスにあるチェルムスフォードという街。朝から夕方までは現地の学校を視察し、夜になったら街を歩く、という生活を続けていました。以下、そのダイアリーですが、いろいろと端折っているところがあります。 3/20(wed.)  朝8時にチェルムスフォード駅。電車で隣の駅に着いてから、20分ほど歩きスクールに到着。教室の場所を間違えるというハプ

    • パレスチナをめぐって――ガーシュインを聴きつつ

       今年度から教養講座としてアメリカの文化と地理についての講座を開いており、アメリカのルーツ的な音楽を聴き直しています。とりわけ、アイルランド系、ヨーロッパ系、アフリカ系がミックスしていく1920年代は細かく見ていくと複雑でまだまだ把握しきれませんが、とても刺激的です。ジャズクラブでは、フレッチャー・ヘンダーソン、デューク・エリントン、ファッツ・ウォーラーらが活躍し始め、他方、もう少しクラシック寄りのポピュラー音楽の立役者としては、アーヴィング・バーリン、ジェローム・カーン、そ

      • 文学フリマで『矢野利裕のLOST TAPES』をリリースします!

         ドストエフスキーと私の誕生日である、2023年11月11日(土)の文学フリマで個人誌『矢野利裕のLOST TAPES』(264頁/1000円)を販売します。  本書は、ブログを中心にここ15年くらい書き散らしていたものをまとめたものです。以前からこのような雑多な文章をまとめた単行本を出版したいと思っていたのですが、それ以外にも、コロナ禍でリアルタイムで考えていたことは紙で読めるかたちにしておくことがいいのではないかと考え、とりあえず自費で出すことにしました。掲載しきれなか

        • ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として4/4

          ※本記事は、2012年に執筆し、同人誌『F』第11号に掲載したものです。 〈擬装〉するパブリック・エナミー#1  さて、アメリカにおいて、ヒップホップの〈疑似共同体〉は少なからず、抑圧された黒人の歴史という意味を付与され、〈擬装〉された。大和田は、「とくに中産階級の白人によって黒人音楽が「政治的に」利用されてきた歴史」(注53)があると述べているが、ヒップホップ内部でヒップホップを「政治的に」利用した筆頭は、やはりパブリック・エナミーだろう。「利用」と書いたが、無論、そ

        イギリス滞在日記

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として3/4

          ※本記事は、2012年に執筆し、同人誌『F』第11号に掲載したものです。 空虚で濃密なラップの主体  さて、このように、愚直に〈反復〉し、不断に〈変身〉する主体は、ヒップホップをめぐる自己目的的な主体である。というのも、KRSワンが言うところの「ヒップホップそのものになる」というのは、目的であると同時に手段でもあるからだ。主体は、〈あの身振り〉の〈反復〉を通して「ヒップホップそのものになる」のだが、同時に、その〈反復〉こそがヒップホップたる根拠でもある。ここには、〈変身〉

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として3/4

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として2/4

          ※本記事は2012年に執筆し、同人誌『F』第10号(特集:擬装・変身・キャラクター)に掲載したものです。 ジブラ的「責任」/メジャー・フォース的「無責任」  11年5月18日に、若手ラッパーの筆頭であるラウデフが、ツイッター上で、「せんせんふこく」というメッセージとともに、ジブラへのディスソングを発表した。僕の個人的な印象として、このビーフは非常に唐突なものに思えたし、ツイッターにおける不特定の感想を目にする限り、同じように唐突さを感じた人は少なからずいたようだった。ディ

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として2/4

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として1/4

          ※本記事は、2012年に執筆し、同人誌『F』第10号(特集:擬装・変身・キャラクター)に掲載したものです。 〈リアル/フェイク〉という問題系  ごくごく個人的な理由であまり好きな作品とは言えなかったが、それでも『デトロイト・メタル・シティ』は、僕に何事かを考えさせるものだった。よく知られたそのストーリーは、本当はネオアコなどのいわゆる渋谷系的な音楽が好きな主人公の根岸が、にも関わらず、実際はメタルバンドのカリスマとなってしまうというもので、そこでは根岸の内面とは無関係に強

          ヒップホップはいかにしてそうなるのか――空虚な主体による表現として1/4

          ここ最近のジャニーズをめぐるもろもろのことについて

           ジャニーズについていろいろと考えています。英BBCの放送以降、いろいろな動きがありました。最近ではやはり、松尾潔氏によるスマイルカンパニー契約解除の報告(告発?)と、それにともなう山下達郎氏の返答がもっぱらの話題です。このことについて、現状思っていることを書いておきたいと思います。  前提として表明しておくと、「小山田圭吾と文学の言葉」(『今日よりもマシな明日』講談社)を書いた者としては、ジャニーズに対するTwitterでの糾弾は、たとえそれがそれなりに練られた言葉だとし

          ここ最近のジャニーズをめぐるもろもろのことについて

          博報堂との件、その後の報告

           3月31日にアップした記事が正直予想以上の反響で、それだけ社会的な関心が高い内容だったのだと思いました。  ジャニー喜多川氏およびジャニーズ事務所に関しては、その後、岡本カウアン氏による記者会見もあり、引き続き、議論されるところでしょう。私も私なりに考えていきたいと思いますし、そのような場が与えられることがあれば、自分の考えを言わなければならないと思っています。  博報堂による雑誌『広告』をめぐる件ですが、その後のことを報告すべきだと思い、ここに書きたいと思います(先方

          博報堂との件、その後の報告

          博報堂の雑誌『広告』(2023年3月31日)におけるジャニーズをめぐる対談の「削除」について

          2023年3月31日、博報堂による雑誌『広告』が刊行されました。目次を通覧しただけでも、かなり読みごたえがありそうです。本雑誌で僕は、『アイドル・スタディーズ――研究のための視点、問い、方法』(明石書店、2022年9月)の著作がある社会学者の田島悠来さんとジャニーズをめぐって対談しました。60年代から続くジャニーズの歴史と現在を語ったものですので、よろしければ読んでみてください。 とはいえ、英BBCによるジャニー喜多川の性加害をテーマにしたドキュメント番組が放送されて以降、

          博報堂の雑誌『広告』(2023年3月31日)におけるジャニーズをめぐる対談の「削除」について

          『今日よりもマシな明日』書評その他をめぐって

           2023年3月5日の日曜日から書き始めています。少しだけ時間的余裕ができたので、書かなくてはいけないなと思っていたことを書きます。それは、文芸批評家の川口好美さんによる「小峰ひずみ論」および、それを受けて小峰ひずみさんが書いた文章「批評F運動」についてです。川口さんの文章を読んだ時点からなにかを書こうと思っていましたが、「批評F運動」が出てからは応答責任が発生している、と判断しました。ちなみに、ちょうどついさきほど、批評家の杉田俊介さんが小峰さんに向けた文章をアップしていま

          『今日よりもマシな明日』書評その他をめぐって

          『対抗言論vol.3』に寄稿しました・その他

           杉田俊介さんと櫻井信栄さんが編集を務める雑誌『対抗言論』。第3号となる今号は、川口好美さんと藤原侑貴さんが新たに編集に名を加え、テーマは「差別と暴力の批評」というものです。杉田さんにお声がけいただき、僕は「一元的差別批判への諦め、あるいは批評のはしたなさについて」という文章を寄せました。同号には、大学院時代から続く自主ゼミの後輩にあたる冨田涼介くんも『もののけ姫』に関する論考を寄せています。自分のことはともかく、雑誌自体は非常に論争的かつ切実で、とてもインパクトのあるものに

          『対抗言論vol.3』に寄稿しました・その他

          『学校するからだ』で言及した固有名と参考文献

          『学校するからだ』(晶文社)、少しずつ感想も出てきていてありがたいかぎりです。引き続き、よろしくお願いします。 以下、各章で言及した固有名と参考文献を挙げていきたいと思います。 各章で言及した固有名 《第1章 部活動》 細馬宏通/山極寿一/メッシ/ロナウジーニョ/今福龍太/渡辺裕/ミッキー・ミナージュ/アリアナ・グランデ/スヌープ・ドッグ/インクレディブル・ボンゴ・バンド/千葉雅也/RCサクセション/グリーン・デイ/津村記久子/小西康陽/エルメート・パスコアール/エグベ

          『学校するからだ』で言及した固有名と参考文献

          読めない本をめぐって――樋口毅宏『中野正彦の昭和九十二年』の回収騒動

           樋口毅宏『中野正彦の昭和九十二年』の回収騒動のことが、ちょっと気になっているので書いておきます。まず前提として、私自身は作品を読むことはできていません。いくつかの書店をまわってみましたが、書店で見つけることはできませんでした。連載時も読んでいませんでした。残念ながらと言うべきか、こうなってしまった以上、今後もしばらく読む機会はなさそうです。以下、論点別に書いていきます。 論点①――表現の「回収」をめぐって  一般論として言うと、このような回収がおこなわれてしまうと、その

          読めない本をめぐって――樋口毅宏『中野正彦の昭和九十二年』の回収騒動

          『学校するからだ』(晶文社)発売!――日本マドンナをめぐる思い出

           植草甚一でおなじみの晶文社より『学校するからだ』という本を出しました!  2017~2018年くらいに企画が立ち上がって、のんびり書いていたらコロナ禍に突入、最後は起きた出来事をほぼリアルタイムで書いていました。以下、書くにあたってのいくつかの文脈を。 【文脈1】出版関係の人と話していると、学校というのは外部からは謎めいているらしく、意外と面白がられることがあるのだな、と思ったことがあります。また、けっこうな偏見があるのだなと思ったこともあります。学校をめぐるつまらない

          『学校するからだ』(晶文社)発売!――日本マドンナをめぐる思い出

          辺野古キャンプ・シュワブ

          ※ひろゆきの辺野古に関する発言を受けて、いま準備中の本の一部を部分的に改変して掲載します。以下です。 ※写真は荒崎海岸です。  高江ヘリパッド建設に抗議する住民に対して、機動隊のひとりが「土人」と言い放ち問題になったことも記憶に新しい2018年に沖縄に行った。  このときは、学生時代から長らく沖縄の実地調査をしている知人が主導したこともあり、通常ならば絶対にできないようなことをたくさん経験した。  とくに、普天間基地移設の問題に大きく揺れる名護市の辺野古の埋め立て地のまえで

          辺野古キャンプ・シュワブ