日本機械学会先端センサ・アクチュエータ・ ネットワーク に関する研究分科会(2023年9月19日)企画
はじめに
名古屋大学の大岡昌博先生が委員長を務める、
日本機械学会「先端センサ・アクチュエータ・ネットワークに関する研究分科会」(2021年4月~2024年3月)の3年目第1回研究会
今回は、名古屋大学の鈴木麗邇先生で「仮想生物で探る柔らかさの進化」
プログラム
■令和5年度第1回分科会■
日時:令和5年9月19日(火)10:30-12:00
10:30-11:30 仮想生物で探る柔らかさの進化
鈴木麗邇先生(名大)
1)自己紹介
仮想生物を、エージェントモデルと生成モデルを組み合わせて構築し、挙動を解明している
今回は、仮想生物の進化の話
関連してロボットが音を聞き分ける技術の紹介
2)人工生命研究
人工生命を通して生命に関わる普遍的な現象を解明し
生命メカニズムの理解に役立てる
3)仮想生物の進化
Karl Simsの1994年「ブロック形生物の機能進化」から研究が始まった
4)進化ロボティクス
仮想生物を3Dプリンタで実体化する。あるいは進化の過程に3Dプリンタを組み込む
特に柔らかいロボットは、計算機内で進化させ、最適化した後に試作する方法が良い結果が得られる
進化ロボティクスの現状と今後の課題(<小特集>進化型計算と創発のシミュレーション)日本シミュレーション学会誌「シミュレーション」
また、シミュレーション結果を生物素材で組み立てる研究もある
(感想:「合成生物学の衝撃」には、DNAを組み立てて人工生物を作る高校生コンテストなどの話題が出てくる。この分野と融合しているのか聞きたかった)
5)生物の進化現象理解に応用する
仮想生物の進化の様子より、形態発生が移動形態の進化を先導することがわかった(シミュレーションでは形態変化により、歩行より転動がより効率的になり、転動することにより、より転動に適した形態(転がりやすい形態)に進化する)
進化(エコ)・発生(デボ)・生態(デコ)間相互作用の理解が進む
生物の可塑性(環境変化に頑強) 生物と環境の相互作用、すなわち
環境の改変(ニッチ構築)
さらに、生物種間の相互作用(捕食者と被捕食者)もシミュレートできる
(感想:捕食者と被捕食者と聞くと、非線形によりはじめて生じるリミットサイクルを思い出す)
ここから個別の研究の話に進む
6)2D多細胞生物の進化モデル
・単細胞から多細胞生物に進化。進化の過程は遺伝子情報と環境情報の影響を受けるように設定し、シミュレーション
・行動は、細胞にばねの伸縮パターンを持たせる
・進化は遺伝的アルゴリズムを採用
7)変態の創発
・多細胞(子ども)から多細胞(成人)に成長するときに環境を変化させ、シミュレーション
例えば、子どもまでは水中、その後は陸上に環境を設定すると、泳ぎに適した形態から歩行に適した形態に変態した。何度繰り返しても似たような進化になる
逆(子どもの時は陸上、その後水中)にしたら、脚から泳ぎに変態
ビデオが2016年の仮想生物コンテストで優勝した
実は、生物界にも「ブチイモリ」がいた。
7)発生可塑性の進化
進化の過程で環境ID(地面を平坦やデコボコなどに設定)を与える
平坦だとジャンプ、デコボコだと引っかかりを蹴る形態に進化
別の環境での進化の適応度(可塑性)を測定
デコボコが可塑性が最高値だった。「もっとデコボコ」など、より難しい環境は成績があまり良くなかった。適度な難しさが可塑性にとって重要
進化の過程で「外適用(本来の目的と全く違う使われ方をする)」が発現
自然界では、鳥の羽が、もともと求愛のために進化したのが、飛行目的に使われた例がある
8)描いた絵の頂点間にばねを想定し、進化させる
遺伝アルゴリズムをCPPN(Compositional Pattern Producing Network)に変更
(空間構造とパラメータが対応しているので理解が容易になる)
ばね要素(アクチュエータ)のほかに受動要素を追加
9)現在の研究の方向
・素材の進化に重点を置く
・骨(固い細胞)を追加
・素材選択時のボーナス(進化制御に用いる)を追加
(おまけ)
・EvolusionGym
種間相互作用(捕食者と被捕食者)追加
生態継承の影響を評価(正、中立・負の場合がある)
(感想:3代目が会社を潰すとは良くいったものだ)
・新学術領域「共創言語進化」
音がシグナルになり、言語に進化したと仮説を立て、人工生命で検証
・LIFEゲームの空間・状態・時間を連続に拡張したLenia
生物に酷似した運動・進化
11:30-12:00 質疑応答
Q:変態が必然的に起きる生物は、環境が大きく変わるのか?
A:生物の6割から7割が変態すると言われている。
人間も、思春期など、変態していると言えなくもない
Q:翅が生えて飛ぶシミュレーションはしているのでしょうか?
A:蝉(完全変態)、外適用、オープンエンドな進化(終わりのない進化)などをシミュレーションできるようにしたい
Q:映画「シン・ゴジラ」は4回変態するが、シミュレーションできると面白い
A:「シン・ゴジラ」観ていません
Q:どれくらい不均質なのが良いか評価できるのではないか
A:デコボコ度などは不均質度と言えるのではないか
Q:ソフトロボットの研究をしているが、全身柔らかいと動かない。固いところが大事ではないか
A:シミュレーションでも固い部分が重要で、うまく利用されている様子がわかる。今のところ泳ぐと歩く、走るばかりなのでほかの進化をシミュレーションしてみたい
Q:ロボットアームやスマート布の研究に応用できそうだ。目的の仕事を達成するように進化させるのはどうか
Q:心を持つ生物とかシミュレーションできると面白い
A:その目的で、まさに生成AIを組み込もうとしている。
生成AIの登場により知的活動を取り込める時代になった
生成AIで人工生命に性格付けし、共生社会をシミュレートできるだろう
Q:サイトウ理論(集団が最もうまくいく、性格比率の最適解)を裏付けできると面白い
おわりに
わたしの中では「人工生命」といえばDNA組立による現実世界の生物創造だったが、仮想世界に人工生物を創り上げ、その機能を解明する研究もあることを知った。
ライフゲームは非常に注目していたので、その拡張版はぜひ勉強したい