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理想の「篭る」場所

「温泉宿に執筆する」ってイメージに昔から憧れがある。深い意味はなく、何となく格好いい感じがするといった本当にただの憧れ。

昔の文豪たちが篭っていた理由を調べたわけではないので、自分が憧れている「篭る」環境や理由を考えてみる。

まず、思い浮かぶ風景は自然に囲まれている田舎で、建物はあまり今風にデザインされていない和を感じさせる建物。比較的広い畳の部屋があり、そこに色々広げられるテーブルがある。座布団だけだと長時間座っているのが自分にはきつそうなので座椅子くらいは欲しいか。

音はその場所が生み出すものだけ聞こえたら嬉しい。人の声は聞こえず、静まり返っているのだが、家の外からは虫やその他の生き物の鳴き声や木々がざわめいたり風が吹く音が聞こえる。

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思えば、自分の記憶に最も強く残る静けさは、祖父の家に最後に泊まった夜の静けさだ。

もう10年以上経つ話だが、祖父が亡くなった時に葬式までに多少間が空いてしまい、親戚が交代で泊まって線香の番をしていた。1週間以上あったので、母や叔母だけでは対応できず、孫にも役割が回ってきた。思い出だらけの祖父の家に泊まれる最後の機会だったので、迷わず自分は引き受けた。祖父が亡くなった以上、間違いなくあの家は取り壊されるはずでもあった。

祖父の家は農家だったので、それらしい作りをした自分の目には広い家だ。土間と縁側があり、10数畳の和室が4つ固まって襖で区切られている。その脇に台所や風呂場が伸びているような作り。台所から一番遠い側にある和室が床の間もある一番立派な部屋で、亡くなった祖父はそこに横たわり、線香とかもそこに置いてあった。で、それが見える隣の部屋に布団を一枚引いて自分も眠る。その部屋も10数畳だから一人で寝るにはかなり広い。

線香の番と言っても、普通ほ線香を数分置きに付けたりする必要はなくて、蚊取り線香のような形の特殊な線香の火が消えてしまわないように時たま確認するだけで良い。仕事自体は楽なものだった。

ただ、見慣れなた祖父の家ではあったのだが、祖父と2人だけで長い時間を過ごすのも、この部屋で1人で寝るのも、初めての出来事であったし、線香の番という役割に影響されてなんとなく神聖な気分にもなっていた記憶がある。

古い機械時計の音くらいは聴こえていただろうか。昔の家の厚い雨戸も閉まっていたので外の音は聞こえない。車通り自体も少ない場所だったので実際音も少なかったのだろう。とにかく静かだった。

そうした静けさの中で、人生で最も祖父のことだけを考え、人の死について考えたりもしていた。状況に感化されていたことは間違いない。

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あの夜の非日常感と静けさは印象的だ。

状況は再現できないしする必要もないが、非日常感は「篭る」環境にあるといい。普段考えることがない、普段感じることのないことが得られる場所。

今はどこでもネットに繋がるから、相当な場所でない限りは意識的に遮断しない限りは外界から離れることは難しい。だから大事なのは空気なんだろう。

旅館のように世話をしてくれなくてもいい。自炊だって構わない。長期利用するなら家事手伝いのようなサービスがあってもいいのかも。気の効いたコミュニケーションもいらない。

ちょっと散歩もしたい。そんなに大自然でなくても良い。街並みが普段(23区内)と違えばきっと充分だ。

そんな場所はあるのか? 旅館だと高級そうだ。空き家を借りたりしたら可能か? 1人で使うには頻度が少なすぎるから、シェアすれば良いのか?

まあ、妄想でしかない。大して調べてもいないので、今度時間を作って調べて、良さそうなところがあれば行ってみよう。

空気を変えた場所で仕事をしたいって願望はみんなあるのだと思う。仕事や勉強している人だらけのスタバがそれを象徴している。あの密集度で集中できるのかはわからないけど。

なんかないかな。

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