矢野沙織
アルトサックスプレイヤー/コンポーザー
コラムや日記、短編小説を書きます。
演奏動画もアップしていきます♪
機嫌の取りづらいヴィンテージ楽器の操作と幼児の育児に奮闘中!よろしくお願いします。
最近の記事
マガジン
マガジンをすべて見る すべて見る記事
記事をすべて見る すべて見る- 再生
日野さんには嘘がつけない
日野皓正さんには嘘が吐けない。 こう書くと私が年中嘘を吐いているように聞こえるが、そうではない。 いつか日野さんのバンドのリハーサルで緊張した私は 「なるべくジャズっぽく上手に聴こえるようわざとディレイ気味に吹いて、八分音符の裏拍を意識して強く発音しよう」と考えて演奏したことがある。 すると、日野さんは私のソロが終わるとスッと横に立ち 「嘘つき」とだけ言って自身でソロを吹き出したことがあった。 ものすごくドキッとする。 だって確かに自然に出た粘りではなく「ディレイしよう」としてした吹き方とアクセントで演奏したのは本当の意味での裸の演奏ではないのだから。 強い言葉で片付けると「嘘つき」となるわけだ。 「頭の上から降りてきたものを楽器をスピーカーとして音を出しなさい。」いつもこう仰られた。 演奏上の会話はもちろん、ステージを降りた後も日野さんと話すのは楽しくて大体いつもかなり洒落ている。 真夏に食事をした時、日野さんは履き馴染んだネイビーのスエード素材の靴を踵を踏んでソックスなしで履き、オーバーサイズの白い麻のジャケットを羽織り、バンブー素材の眼鏡を掛けて現れた時には、 思わず「いやあ、ハイカラですねえ!」と感嘆を口にしてしまったものだ。 だってそれはまさに、夏も傾いたオフの日の夕方から軽く近所で食事をする人のお洒落であったから。 そういう天性の洒落者の才能が日野さんの細部を造っているのだ。 格好つけているんではないのだ。 格好が良いのだ。