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vol.43 上場と非上場、結局どちら?

はじめに

2023年以降、MBO (マネジメントバイアウト) という言葉をよく見るようになりました。MBOとは、企業の現経営陣が主体となって資金を調達し、自社の株式を買い取って経営権を確保する取引手法です。MBOにより、経営陣は株主の意向や市場の圧力から解放され、長期的な経営戦略を自由に実行することが可能になると言われます。

MBOは本来、上場か非上場かを問いませんが、日本の場合は特に上場していた会社の非上場手段として取り上げられることが多いと感じます。2024年も上場会社のMBO関連のニュースは順調に増えており、先日は永谷園がプレスリリースを出しています。

日本において上場というイベントは一種のゴールであると共に、新たなスタート地点でもあった感があるのですが、最近は非上場化への動きが活発化しているようにも見えます。そこで今回の記事では上場、非上場それぞれのメリットとデメリットを整理し、結局どちらがよいのかについて考えてみることとします。


1 上場

上場とは、企業が株式を証券取引所で公開することを指します。これにより、一般投資家が株式を購入できるようになります。上場企業は定期的な情報開示義務を負い、財務状況や経営方針を公表する必要があります。これにより、資金調達の手段が広がり、企業の知名度や信用度が向上しますが、規制遵守やコストの負担も増加します。

(1-1) 上場のメリット

  • 資金調達の拡大: 上場により企業は公開市場で株式を販売し、広範な投資家から資金を調達できます。これにより、大規模なプロジェクトや事業拡大のための資金が得られます。

  • 企業の認知度向上: 上場により企業の知名度が向上し、ブランドイメージが強化されます。市場でのプレゼンスが高まることで、顧客やパートナーシップの機会も増加します。

  • 流動性の提供: 株式が市場で取引されることで、創業者や初期投資家は株式の売却を通じて投資の回収が可能になります。また、従業員へのストックオプションなどのインセンティブとしても活用できます。

  • 信用力の向上: 上場企業は市場の規制を遵守し、定期的な情報開示を行うため、透明性と信頼性が高まります。これにより、金融機関からの融資や取引先からの信用も向上します。

(1-2) 上場のデメリット

  • コストと時間の負担: 上場には多額の費用がかかります。IPOの準備、証券取引所の手数料、法律や会計の専門家の費用などが必要です。また、準備には相当な時間とリソースが求められます。

  • 情報開示義務: 上場企業は定期的な財務報告や業績の開示を求められます。この情報開示には詳細な報告書の作成が必要で、企業の戦略や機密情報が公開されるリスクもあります。

  • 株主の圧力: 上場後は多くの株主の利益を考慮する必要があります。これにより、短期的な利益を優先する圧力が増加する可能性があります。

  • 経営の柔軟性の低下: 上場企業は規制や株主の要求に応じる必要があるため、経営の自由度が制限されることがあります。また、敵対的買収のリスクも増加します。

2 非上場

非上場とは、企業が株式を公開市場で取引しない状態を指します。非上場企業は、株主が限定されており、一般投資家が株式を購入することはできません。これにより、情報開示義務が少なく、経営の自由度が高い一方で、資金調達の手段が限られ、知名度や信用度が上場企業に比べて低いことがあります。企業の戦略的な意思決定が迅速に行える利点があります。

(2-1) 非上場のメリット

  • 経営の自由度: 非上場企業は株主の圧力や市場の規制を受けにくく、経営陣の自由度が高くなります。これにより、長期的な視点での戦略的な意思決定が可能となります。

  • 低コスト: 上場に伴うコストや定期的な情報開示の負担がないため、運営コストが低く抑えられます。

  • プライバシーの保持: 財務状況や経営戦略などの機密情報を外部に公開する必要がないため、競争上の優位性を維持しやすくなります。

(2-2) 非上場のデメリット

  • 資金調達の制約: 非上場企業は公開市場での資金調達ができないため、主に内部資金や銀行融資、プライベートエクイティなどに依存することになります。

  • 認知度の低さ: 非上場であるため、企業の知名度やブランド力が上場企業に比べて低いことが多くなります。

3 判断基準

上場、非上場それぞれにメリット、デメリットがあり、どちらかが常に良いというものではなく、会社の置かれた環境により判断が変わってくるものかと思われます。それではどのようなことを判断基準として持つべきなのでしょうか? いくつか考えられる項目を例示列挙してみることとします。

  • 資金はどの程度必要か? : 投資機会 (e.g. 工場等のみならず、M&Aやマイノリティー出資、あるいは人材採用等) が多数あり、大規模な資金調達が必要な場合は、上場が有利です。一方で、少額の資金で運営できる場合は非上場のままでも問題ないのかもしれません。また、昨今はクラウドファンドやM&Aによるイグジット等、上場以外の資金調達の手段が増えている点もポイントかと思います。

  • 知名度をどの程度得たいか? : 上場すればマスコミやWebを通じて社名やその経営活動の情報が公開されるため、知名度やブランド力の向上が期待されます。この結果、売上の増加に加え、優秀な人材を引き寄せることにもつながっていきます。一方ですでに十分な知名度があり、十分なリソースが集まっている場合は非上場のままでも問題ないのかもしれません。

  • 改革をどの程度の規模やスピード感で実施したいか? : 経営を進めていくと各成長ステージで色々な壁にぶつかることとなります。この際、これらの壁の高さによって、想定すべき改革の規模やスピード感が変わってきます。上場すればこのような壁を乗り越えるための施策を多様性のあるガバナンス体制の下 (e.g. 多数の株主や社外役員等) で議論していく必要があり、これにはかなり時間がかかると思われます。この結果、好機を逸するリスクも高くなるでしょう。一方で非上場であればこのような調整が最低限で済み、スピーディーに改革を断行することが可能となります。

4 まとめ

上場と非上場、結局どちらがよいのかについては、様々な判断基準を通じ、企業の置かれた環境を整理の上、総合的に判断するものと考えられます。

MBOによる非上場化のトレンドは、例えば東証によるPBR改革の流れを受け、大きな改革を限られたタイムフレームの中で実施するための手段として選択されているケースも見られ、一概に上場より非上場の方が良いという話ではありません。

実際にMBOによる非上場化後、経営変革を行い、その後再上場する企業も見られます。

上場、非上場それぞれのメリット、デメリットをしっかり理解した上で、市場という力を上手に使って日本全体の国富が増えていくことを祈りつつ、この記事を終えたいと思います。

おわりに

この記事が少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

この記事に記載されている内容は、私の個人的な経験と見解に基づくものであり、過去に所属していた組織とは関係ございません。

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