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自国の存立をかけた「必死の選択」

7月10日付 朝日新聞 総合4面
柳沢協二・元内閣官房副長官補 (安全保障・危機管理担当)のインタビュー記事

”南シナ海の領有権問題で中国と対立するフィリピンに対し、日本は「準同盟国」級への格上げを図っている。日比両国は8日、両国の部隊を行き来しやすくする「円滑化協定(RAA)」に署名。中国の海洋進出を押し返そうと日米比が進める急速な連携強化に、柳沢協二・元内閣官房副長官補は日本が武力紛争に巻き込まれる危うさを指摘し、バランス外交の必要性を指摘した。”

”中国の乱暴な行為を軍事的コミットメントでやめさせようとする場合、日米はより強い行動をとらなければならない。つまり、いずれは中比の武力紛争に巻き込まれるだろう。海上自衛隊の主な役割は日本周辺の警戒と防衛であり、フィリピンへの関与は能力を超えている。身の丈を超えた約束をしてはいけない。”

”日本は自国の存立をかけた「必死の選択」についてよく考えるべきだ。「困った時に助けてもらうために」とのストーリーは戦争では成り立たない。台湾有事が懸念されているが、私は台湾の人たちに「日本が助けに来るなんてことはあり得ないと思う」と話している。”

”東南アジアの多くの国々は米国も中国も選ばず、リスクヘッジしている。日米と連携を深めるフィリピンは独特だ。日本も賢い位置取りをしていかないと、危ない状況に追い込まれかねない。”

”冷戦時代は米国とソ連が「核の抑止」によって直接の戦争が起きないという意味で安定していた。日本は米国と一体化していればソ連から攻められる心配はなかった。”

”ただ、今の国際環境は不安定になり、現にロシアは戦争している。バランス外交で過渡期を生き残らなければならない。”

”岸田文雄首相は4月、米議会で「日本は米国とともにある」と演説した。米国側は「何かが起きた場合、日本は一緒に戦ってくれる」と期待しただろう。かつての発想で米国と一体化すると、米国の戦争に巻き込まれる懸念がある。日本の国益に反するなら米国に「戦争は困る」と主張できなければならない。政治的な自立が必要だ。”

”日本は中国とのパイプがほとんどない中で、米国主導の「中国包囲網」に加担してしまっている。中国との対話も重要だ。意見が合わないからこそ対話しないと、いざという時に事態はエスカレートするだろう。”

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