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無駄に熱い同期会のお誘いを書いてみた

こんにちは、今日は去年書いた年末の会社の同期会のお誘い文書を投稿いたします。お陰様で盛況でした。

20年前に俺は新入社員だった。
英語研修が早く終わった日、幾人かの同期と横浜スタジアムに野球観戦に行った。
 
当時のベイスターズは、98年の日本一のメンバーは誰もいなくなり、人気も実力もないダメダメ球団感極まる感じだったが、寮のある横浜生活を開始したテンションで皆で横浜側の外野席に陣取った。

対戦相手は、巨人だったが、俺と、ある同期だけは、実は根っからの巨人ファンで、ジャイアンツが点を取るたびに、2人でこっそり握手をした。
ハマスタから見た夕陽がとても眩しく、真っ赤な空は、働く気だけは満々の俺たちみたいで、未来を明るく照らすようなまばゆい夕陽だった。
 
20年たって、俺はもう一度新入社員になった。一度会社を離れた期間はたった3年だけど、社長は外様で入ってきた人になり、組織も整形しすぎて原型留めていない人みたいで、誰がどこに居るのか分からな過ぎて理解する事を諦め、知ってる先輩も後輩も一杯いなくなっていて、懐かしい人たちとの再会を喜ぶよりも、浦島太郎的な寂寥感が強かった。
 
漸く新たな会社生活に慣れてきた、とある日の夕方、俺はまた社内のフリースペースに行く。目的は、あの日スタジアムでこっそり握手をした同期と秘密の会合をする為だ。
 
あの時の彼は、もう立派な中間管理職で、上司からの連日の暴投気味の丸投げを、ポーカーのディーラーよろしくシャシャシャと下に割り振る、、、事はできず結局自分で抱える毎日に四苦八苦しているらしい。
 
足しげくフリースペースに通い秘密の会合を持つ理由も、その同期の上司が、俺の上司と折り合いが悪く、上同士が口を利かない為、秘密裏に部門間の合意形成を図る為だ。
 
誰にも聞かれぬように小さな声で綿密に様々なパターンで落としどころを探り、最後に二人で恒例の固い握手を交わす。
 
ふと周りを見渡すと20-30代前半のイケイケな感じの若手君達が、スタンディングテーブルで口角泡を飛ばし、新規ビジネスの方向性を熱く議論している。
 
そいつらを尻目に、パソコンを片付けながら同期がつぶやく。
 
「こういう調整だけ長けていくんだな、俺たち」
 
俺たちは、20年前の新入社員の頃のように、会社に貢献する事で無上の喜びを感じていたような、無垢な気持ちで働く事は多分もうできない。
フリースペースから見える夕焼けは、あの日横浜スタジアムで見た赤い空と変わらないはずだが、眩かった夕陽が、何故だか沈みゆく太陽に見える。
 
ちょっと冗談めかして、俺がつぶやく。
 
「俺たちもう終わっちゃったのかな?」
 
それが、とある有名な映画のセリフである事に気づいた同期は、笑いながら返す。
 
「バカヤロー、まだ折り返してもいねえよ・・・・・だって、まだあと最低25年働くんだぜ」
 
そういえば、昔はこのフリースペースは大きな会議室で、イベントに使用されていて、20年前の入社式も、新入社員研修も、間違いなくこの場所でやったはずだ。

あれから20年、家庭を持って、それなりの立場にある俺たちには、今日もずっしり重くてスッキリ解決しない問題が降りかかり、それが、加速度的に短くなる1年に詰め込まれ、あっという間に今年も終わっていく。
 
そして、この旅路は来年も、その先もまだまだ続く。同期も俺もお互いモヤモヤ感を抱えたまま突っ走るしかない。

そう、俺たちの旅路は1人だけど孤独じゃない。半世紀にも渡るこの旅を同じタイミングで、同じ場所で、スタートした同期がいる。
皆進む道は違えど、この事実だけで通じ合える何かがある。同じ会社に居ても、会社を辞めても、そして出戻っても、同期は同期だ。
 
エスカレータを待つ間に彼が最後に笑顔でつぶやく。
 
「明日から、ベイスターズはヤクルトと頂上決戦の3連戦なんだ。3連勝したら首位と1.5ゲーム差になるんだぜ(*)」
 
好きな野球チームは変わっても、変わらない関係がある。
こないか?同期会。
 
*その後、ベイスターズは3連敗して優勝もしませんでした。

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