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外出自粛に見る日本的習性 (2)ー下からのファシズム、あるいはパリコミューンー

さて、あれから北海道は162名まで公式感染者が増えました。
ただ、東京138、愛知143、大阪131名に比べて、その差は次第に縮まっていることと、「緊急事態宣言」から3週間目で感染経路不明の感染者が減ったこと、感染者数が連日0~4名まで激減したことで、明るい兆しが見えてきています。
街には何の変化もなく、相変わらず道民は自主的に外出を控えております。「自主的に」というところがミソで、実は鈴木知事が「緊急事態宣言」を出してすぐ、この宣言には法的根拠がないから今すぐ解除しろと、かなり責め立てられていました。また、経済界からも解除要請が来ていたんですね。そこで知事は副知事を使って道議会に「知事は解除するつもりだ」と言わせ、反応を窺うという策に出ました。すると
、これに反発が出たので副知事が撤回。知事が継続を表明する。この攻防が二週間続いていました。
そんな中、知事は「分散登校」という妥協案を示し、分散登校を皮切りに様子を見て、外出自粛を緩和すると発表しました。
すると札幌市がこれを拒絶し、休校期間を準備期間にきりかえて独自に分散登校を実施すると発表したのですが、これは秋元札幌市長の決断で、分散登校からなし崩しの自粛解除はクラスター感染を惹起する危険があるので、自粛解除と切り離してあくまで児童の健康調査のための分散登校である、と札幌市に明言させた訳です。この違いは割と重要です。
その後、札幌市内のクラスター感染源のお店が、「自主的に」店名を公表するよう申し出、これをきっかけにして、クラスター感染の調査が一気に進む気運になってきました。
このお店の英断をひっさげて、久しぶりに秋元市長が記者会見場に現れ、みずから感染者の公表とこれからの方針を明言すると、札幌市民の間に「緊急事態宣言」と「外出自粛」は別物であるという意識が芽生えてきたように見えました。
「緊急事態宣言」とは無関係に「外出自粛」すべき。
これに対し道は、このまま6月までこの状態が続けば、3680億円の損害が出ると公表し、「過度な外出自粛」に警鐘を鳴らすというアナウンスを行います。
「外出自粛」をめぐる鈴木知事と秋元市長の攻防は、水面下で激しく続いていたようです。
こうして19日、鈴木知事は秋元市長と会談して和解を示し、「緊急事態宣言」の解除に踏み切るが「外出自粛」は継続すると発表した、というのが、北海道で実際に起こっている動きなのです。
つまり、鈴木知事の決断には本質的な意味や腹をくくった要素はなく、実際には秋元札幌市長や、道市民の草の根運動によって「隔離と抑えこみ」の体制ができた所に登場して名前を与えていったに過ぎません。寧ろ知事は「非常事態宣言後の経済と防疫の社会」と言っているように、一刻も早く外出を促したいという路線で動いていますから、その意図は実現できなかったと言った方が正確かもしれません。
この現象で着目すべきは、「北海道民が本気になったらどうなるか」ということです。
まず、「非常事態宣言」の前から既に感染者数と径路を公表し、「札幌市民は風邪であっても外出するな」と、戒厳令状態を主張していた、秋元市長の路線が現在も生きており、北海道民の外出はあまり増加していません。鈴木知事も外出自粛の継続を表明しましたが、それは宣言解除に反対するというアンケートが66%になったことを受けての事でした(さらに厳しくすべきを入れると70%を超える)。
次に、中国人・韓国人が目に見えて減少し・・・というか消えました。理由はよく分かりません。道民はまるでそれがはじめからそうだったかのように、全く話題に出しません。観光バスの出動台数は99%減、二条市場の売り上げ減少率は99・9%。いくら北海道がコロナ流行といっても、99%減はアジア圏から自主的に撤退した以外に、何らかの外的要因がなければ不可能な数字です。
また、秋元市長の久々の登場以降、腹をくくった道民は、「在庫がかさんで経営難のお店を買い支える運動」を大々的にはじめ、お店がTwitterなどでSOSを出すと、みんなで発注するというシステムが草の根で出現しました。また、各商店もできるだけ客と接触しない、品物が密封されている状態で販売する、防疫出荷体制を協同で構築する、などの工夫を始めました。また、北海道内企業が商品の「内部流通」「内需拡大路線」に舵を切り、一部在庫商品が無償で各機関に放出されています。
地元商店街は咳きこむ人が差別されないように、「喘息」「インフルエンザ」「花粉症」という「認識票バッジ」を配布し、電車やバスも「自主的に」一人間隔で座るようになりました。
3,680億円の損害予想は、北海道の年間総観光消費額(1兆4,928億円)内の25%に相当する、海外観光客消費額(3,705億円)と同額です(平成29年度北海道庁報告書)。つまりこの3ヶ月で海外の観光客が一年間全く来なかった場合の損害額を算出しており、これが4倍になると、ちょうど一年間観光客が全く来ない額になります。恐らくこの数字は、インバウンドの早期呼び戻しがしたい人たちが、海外観光消費額をそのまま挙げて、外出自粛を牽制しようとしたのではないでしょうか。
札幌医科大学の横田伸一教授が、はじめから一貫して「全検査は医療崩壊を起こすからやめるべし。北海道では絶対やるな。重篤化したものだけ保健所経由で回す現在の体制を維持せよ」と主張し、「道民の生活レベルで感染拡大を禦ぐ方法」を2ヶ月テレビに出ずっぱりでアナウンスしたため、今や道民の衛生観念が極限まで上昇すると共に、精神的に安定しました。また横田教授は「ワクチンが開発されない限り、非常事態でないことはありえない。これからはウイルスと共存する体制をつくるべし」と言い、新しい生活運動を啓蒙しています。
これらは全て、行政命令がないところで勝手に発生した運動であり、また誰も何も言わないで文字通り「粛々と」行われています。これは驚きでした。
前回のメールで北海道は恐慌状態になっていると言いましたが、それが頂点に達した途端、無言の行動が始まったのです。
このことは、政府で行われている専門家会議の分析が的外れであることを示しています。つまり、「非常事態宣言」はコロナ感染者数の増減の決定的要因ではなく、「市民の意識」が非常事態を認識しているかいないかこそが、本質的な要因であるということです。
北海道の場合は、もともと明治以前の歴史がないため、純粋な帝国時代の伝統が残ってますから、東日本大震災や胆振東部地震でも買いだめだの逃走だのが起きにくく、こういう場合に強いと思われます。一方で、そうではない地域の場合、これからの感染者数の増減は、それぞれの地域性が強く関係するため、北海道とは違う変動を示すであろうということが推測できます。
いわば、秋元市長の統制政治を、道民が無言の内に支持して鈴木知事のグローバリゼーションを牽制した「下からのファシズム」(丸山真男)が起こったのです。あるいは予言通り「Commune de Sapporo」が平和裡に浸透したと言っても良いかもしれません。
手前味噌ですが、今や街は適正な数の人間が、適正な外出、適正な家庭生活をして規則正しく機能しており、かつての帝国に住んでいるような、清潔で整然とした爽快感があります。
フランクリン・D・ルーズベルト大統領は言いました。
「世界の90%の人々の平和と自由と安全は、全ての国際秩序と国際法との破壊を目論む残り10%の人々によって、脅かされつつある」
「世界的無法状態という疫病が広がりつつあるというのは、残念ながら真実らしい。体の病の流行が広がり始めた場合、共同体は病の蔓延から共同体の健全性を守るため、患者の隔離を承認し、これに参加するのである」(隔離演説・1937)
真理ですね。(2020.3.23)

※この記事は記載の日付に大場先生から陽明書院生へ配信されたメールを編集したものです。

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