私たち入れ替わってる

 次に私の部屋の扉を開けた患者から私は知性的な印象を受けた。彼は椅子に座るとすぐに言った。「どうやら僕は、明日あなたになるに違いないのです。」


 私の手からボールペンが落ちた。


「いま僕は僕であります、このことは確かのようですが、明日あなたになり、明日以降あなたであり続けます。」


「どうしてそう思われるに到ったのでしょうか?」


「僕の肉やらは確かに僕の意思で動いておるのですが、その意思の根っこの根っこはだいぶ前からあなたの中にあり、そして明日で完了、入れ替わり切るようです。これはハッタリではないはずです。」彼は私をじっと見た。脂の浮いたような、ぎらぎらした、おかしな眼差しではなかった。


「いつごろからそういった考えに取り憑かれておいでなのでしょうか。」


「先生、僕のことをおかしな人だと人々は考えるでしょう。しかしながら、僕は僕と僕の考えを信じるしかないのです。」


 私は彼の言葉に大きく頷いて、「ではあなた様が明日私に成り代わるとして、その場合私は私であり続けてもいいしょうか。」


「先生と私は入れ替わるのではありません。その真逆です…外から観測したとき、ということですけれど。ところがそれは単に伝達物質を交換しているということになると思います。アセチルコリン?」


「難しい話になってきましたね。」


「先生。取りなさないで下さい。これは重要なのです。」


「一度コーヒーでもお飲みになっては。」


「僕はもううんざりです。」と言うなり彼は拳銃を取り出し、私の左目を撃った、わけではなくて、実際には彼は拳銃を持ってなどいず、私からの処方薬を受け取り、帰った。


 彼の考えが正しいのか、CTも撮っていないので何とも言い難かった。私の医院には検査設備がない。紹介状を書くのも億劫だ。私は彼に薬を与え続け、時折、私がすでに彼と「完全に交換」されている可能性を、考えているんですよ。先生。

ハワイが危機になったらハワイキキなんですかね?