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いつか教えてほしい

彼はなぜ私のことを好きにならなかったのか、そんな傲慢なことを考えている。

私たちは2020年末にTinderで出会った。お互いカメラをやっていて、被写体探しをメインにやっていたこと(私はシンプルにイケメン探しでもあったし、彼も普通に遊んでいたと思うけど)と、スケボーやらアートやら音楽やら共通の趣味が多かったことと何よりやりとりをしていてノリが合ったので、やりとりを始めたその週の週末には飲みに行くことになった。前から気になっていたお店があって、そこに行きたいと思っていたら、たまたま彼がそのお店を提案してくれて驚いた。

初めて会った日も気が合うことが続いて、すぐに仲良くなって、その日からほぼ毎週末会うようになった。映画を観よう、スケボーをしよう、写真を撮りに行こう、旅行に行こう、運転免許試験場に免許更新に行こう、絵を描こう、スタジオに行こう、、ことあるごとに理由をつけて、会った。

数え切れないほど彼の家にも泊まったし、私の家にも泊めた。彼は私が寝違えてしまうほど抱きしめて寝たけど、ヤることはなかった。映画を観ようと言って泊まったのに、結局映画を見ないで一日のほとんどをベットの上で寝て過ごすなんてことはザラだった。お腹が空いてウーバーイーツでラーメンを頼んで、玄関先に届いても、取りに行くために離れることすら面倒で、「ラーメン冷めちゃうね」と笑いながらただお互いの温もりを感じて、それだけで幸せだった。グダグダしているうちにお腹が限界になって、彼が冷め切ったラーメンを玄関先に取りに行ってくれて、電子レンジに入れて温めはじめている間に溜まっているLINEを返そうかとスマホに手を伸ばしたけど、その隙でさえ彼はベットに戻ってきた。チン!という音が鳴って「あ〜」と渋々レンジに戻ってラーメンを運んできてくれて、私は彼といる間、大抵LINEの返信が遅くなってしまっていたし、彼も私といるときにスマホを開くことはほとんどなくて、ふたりだけの空間はとにかく居心地が良かった。

お互いの親友も紹介し合ったし、彼と、彼の親友と、私と、私の親友の4人で旅行にも行った。毎日LINEして、3日に1回くらいはお互いの友達を含めてみんなでスケボーして、週末はふたりきりで過ごした。そんな調子で、気づいたら半年が経っていた。連休のときは5日間一緒にいたときもあったし、この半年の間で二人とも仕事を辞めたり、いろんなことがあったけど変わらずそばにいて、少なからず私にとっては彼が特別な存在だった。

彼と私の時間、空気、見たものをできるだけ残しておきたくてたくさんシャッターを切ったし、恋愛の話をすることが全くなかったからお互いの腹の中を探り合うこともなかったけど流す音楽を通して匂わせてみたり、彼がインスタに載せる弾き語りやスタジオに行ったときに歌う曲を深読みしてしまったり、煮え切らない関係なのにそれが正解のように感じるほど幸せで、「なんで付き合わないの?」と友達に聞かれて漠然と不安に思うことがあっても彼に会ってしまえば良い意味でどうでもよくなる、そんな毎日だった。

お互いの親友を通して、彼が私のことをどう思っているのかを聞くこともあった。「俺のこと恋愛対象と思ってないと思うし、学生時代とかに男女でいることなかった分いま4人(彼・彼の親友・私・私の親友)でいるのが楽しいから、関係を崩したくない」と言っていたと聞いて、私も同じ気持ちなのになあともどかしくなったこともあった。

私は彼のことを好きだった。一緒にいる時間はいつでも映画のワンシーンのようだったし、彼と会って家に帰った後はいつも、彼と交わした言葉を何度も反芻した。彼の、絶対に人を傷つけない言葉の選び方や、口数の少なさや不器用さ、自分の世界を持っているところ、抱きしめる腕の強さ、照れ笑いした顔の幼さ、真剣な横顔のかっこよさ、誰にでも好かれる天性の人たらしなところ、何もかもが特別で魅力的だった。彼の部屋にふたりきりの時間が、何より幸せだった。彼の描く絵が、彼の弾くギターが、彼の歌う歌が、とにかく好きだった。スケボーだって、どこで滑っていたって彼が圧倒的に上手くてかっこよかった。ふたりで映画を観た後に感想を言い合うことは無かったけど、友達も含めてみんなで見たときに友達が感想を話していたので私も感じたところを話したらみんなは「え?!そういうこと?!気づかなかった!!」と反応したけど彼は「あのシーンもそうだったよね」と一言発して、やっぱり最高だと心底思った。彼にしか理解してもらえない私の感覚や、私にしか理解できない彼の感覚があるんじゃないかと思うことが多かった。それが本当に嬉しかった。

でも私たちが、お互いに対して思っていることを直接言葉で伝え合うことは無かった。いつしか、彼の気持ちを知りたいのに怖くて聞けないこの状況から、逃げたくなった。

彼と出会って半年が経った頃から、私は彼の親友との仲が深まっていった。きっかけは、彼が怪我をしてしばらくスケボーができなくなったのと、私の親友が仕事が忙しくてなかなか練習に来れなくなったことで、私と彼の親友の2人でスケボーをすることが増えたこと。共通の好きなアーティストのライブが告知されたり、いろいろと重なってよく2人で会うようになった。その中で、私が彼のことを好きだということも打ち明けた。彼の親友は「アイツは今まで結構遊んでたし、他にもいろんな女の子がいると思うよ」と言った。重ねて、「ふたりを見てると、なんか面白いね」と言った。もしかしたら、彼も私も同じように、お互い直接聞くことはできなくて共通の友達からいろいろ知ろうとしていたのかもしれない。私も彼のことが好きなのに元彼やそれ以外の男と遊んだりもしていて、なんとなく彼もそんな感じなんじゃないかと感じていた。だから、遊んでいることが嫌だったわけじゃなくて、もしかしたら同じ気持ちかもしれないのにどうして直接何も話せないんだろうと、勇気が出せない自分が不甲斐なくて、そんな自分を目の当たりにするのが嫌だった。どう思ってるのか聞くのも怖いけど、聞かないのも嫌だ、そう思ったら、どっちにしても不安しかなくて、彼に会うのが億劫になっていった。

それからは、彼よりも、彼の親友と一緒にいることが増えていった。彼の親友は最初はクールだったのに仲良くなったらいつもふざけてばかりで、内弁慶な可愛い人だった。素直でとにかく嘘がつけない人で、だからこそすごく安心できて、だんだん惹かれていった。告白されなくても、私のことを好きでいてくれていることは行動や言動で明らかだったし、「Tinderなんて健全な大人はやらないよ普通!」というほど硬派なところも、真面目で可愛いな〜と感じたし、一緒にいて気を遣わなくて、とにかく楽しいところに惹かれて、「この人とこれからももっと一緒にいたい」と思うようになった。一緒にいるようになって1ヶ月くらいして私から告白して、付き合った。例の彼とは違って、誠実さと安心感のおかげで、気持ちを伝えるのも聞くのも、怖くなかった。自分の気持ちがこうもあっさり変わってしまうことには罪悪感すらあったけれど、彼のことを好きだったけど不安に潰された経験があったからこそ、誠実さと安心感のあることの大切さと尊さを実感したんだろうなと、今となっては納得できる。

そうして彼の親友と付き合うことになって、彼からは「おめでとう、やっとだね」とLINEがきた。「やっとって?笑」と送ったら、「前から、こうなるんじゃないかなと思ってた」と返ってきた。みんなでスケボーをするようになったくらい(出会って数週間)から、私達がいつか付き合いそうだと感じていたという。彼氏に聞いたら、「なんか、前から絶対合うと思うって言われてて、最近はなんで付き合わんのって言ってきてた!笑」と教えてくれた。

彼の親友が彼氏になった今でも、彼とはたまに二人で会う。さすがに泊まったりはしないけど、写真を撮りに行ったり、スタジオに行ったり、お互いがお互いとしかできないことがあって、普通に連絡を取り合って、気が向いたときに一緒に何かして、彼氏もそれを全然気にしないでいいよと許容してくれている。

先週は一緒にスタジオに行って、いつも通り彼はギターで弾き語りをして、私はドラムを叩いた。なんの曲をやろうか決めていなくて、お互いYouTubeでいろいろ調べていて、「あ、これいいなー」と思って再生ボタンを押したら、音が二重になって聴こえて、ん?と思ったら彼が目を丸くしてこっちを見て「同時に再生した?!」と言って、耳を澄ませたら同じ曲を1秒も狂わず同時に再生していた。もはや怖かった。Saucy dogの「いつか」。

私は彼氏のことがすごく好きだし、大事にしたいと思っている。だけどやっぱり、彼のことも特別な存在だと、思う。それはきっと、彼が私のことをどう思っているか、どう思っていたのか、未だにわからないからこそ、どうとでも解釈できて、私にとって都合の良い綺麗な思い出が出来上がってしまうからなんだろうと分かっている。だから、彼にいつか教えてほしい。私のことを、どう思っていたのか。その答えがどうであろうと、私が彼氏のことが一番好きなのは揺らがないし、彼に気持ちが戻ったりはしないけれど、私にとっては映画のようだったあれやこれを、ちゃんとした二人の事実にしたい。それを今すぐじゃなくて、いつかと思うのは、ずるいだろうか。

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