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好きな人のLINEをブロック削除して数時間後に後悔し、あの手この手で必死に復元させた夜

「史上最強に帰りたい」と思いながらレモンサワーを飲み干して、彼のグラスが空くのをイライラしながら待っていた。なかなか空かないグラスを眺めながら居ても立っても居られず、目の前にいる彼のLINEをブロック削除、インスタのアカウントとマッチングアプリのアカウントも全部ブロックした。「もう会うのやめよう」と心底思った。早くこの場を去りたい。もう話すこともない。最悪の空気に耐えられない。

私は怒っていた。というか、もう少し素直に言えば、傷ついて、悲しんで、がっっっっっっっかりした。


彼とは2か月ほど前にマッチングアプリ「タップル」で出会った。とっくに10回以上デートをして、未だに彼氏彼女では無い。都合のいい相手が欲しいくらいのノリで始めたアプリで出会ったけど、初めて会った日から彼とはなんだか気が合ってそこから1週間に1回、2回、3回としきりに会うようになった。仲の良い親友みたいな関係だったが、好意を探り合うような会話もたくさんして、どっちかが付き合おうと話を持っていけばどちらかがはぐらかすような、度胸の無いふたりだった。それでも会えばお互いの気持ちが一緒であることを感じられて安心するような感覚になることができて、気づけば会いたいと思うことが増えたし、会いたいと思っているときにちょうど誘ってくれることが続いて純粋に嬉しかった。


買い物、カフェ巡り、美術館、ドライブ、水族館、映画、花火。

「会いたい」だけで会えない不器用同士、何かにつけてお互いを誘った。正直会えれば何もしなくて良かったけど、会いたいと伝えたら負けな気がした。(なんの勝ち負けか分からないけど)


付き合ったら別れがあるけど、付き合わなければ別れは無い。付き合ってなくてもしきりに会えて、お互いのことを大切にしていて、それが伝わっていればわざわざ「付き合おう」「いいよ」の謎の口約束なんていらない。そう思うときもあれば、なんだか無性に寂しくなって、私は彼のなんなんだろうか?と考えてしまうようなときもあった。友達に「最近いい人いないの?」と聞かれても、なんとなく私たちの関係性は理解してもらえない気がして話す気がおきず「いないよ」と答えるようになったし、そんなことがふたりだけの居場所のようで逆に心地よい日もあれば、人に話せない存在みたいでなんか嫌だなとモヤモヤする日もあった。


彼といるときでも、好きな気持ちでいっぱいな日もあれば、ただの友達だと感じる日もあって、でもどれも素直な気持ちだと思っていた。彼もそれを感じ取っていたのか、ふいに「どういう気持ち?」と、聞いてくることがあった。


その日は、夕方に彼から「今日の夜予定ある?」というLINEがあり、急遽会うことになった。その日のうちにストレートに誘ってくるということはなかったし、珍しいなと思った。

そこで私は少し期待してしまったのかもしれない。会いたくなって連絡をしてくれた?もしかして告白しようとしてる?そんな、冷静になった今思えば恥ずかしすぎる乙女モードな自分に吐き気がするが、正直そういう期待があった。

会ってご飯を食べながら、私が人生初めて一人暮らしを始める物件についての話ばかりをしていた。その日のお昼、私は一人で不動屋さんに行っていて、ようやくお気に入りの家を見つけることができ、内見からお店に帰って即契約した。彼に会ったときもワクワクウキウキ浮かれまくっていて、とてもご機嫌だった。

今まで散々物件を見てもビビッと来ないままだった私を知っている彼なら「良かったじゃん!楽しみだね!」と言ってくれると思ったけど、そうではなかった。どうしてその場所なの?築何年?何向き?何階?と質問責めをされて、少し戸惑った。

彼がしきりに反対していたのが、1階の家に決めたこと。防犯上良くないよ、虫も出るよ、もう少しほかの物件も見てみたら?と言ったあとに「自分が気に入ったところにしたらいいと思うけど」と付け足した。「そうだね」と言いながら、もう十分すぎるほど気に入って決めてるし、他の物件を見る必要が無いって思えるほど良いと感じる物件にやっと出会えたのにな、でも一人暮らしをしている彼が言うのならそうなのかもしれないな…といろいろ考えながら、しばらく黙ってしまった。

彼がiPhoneをいじり始めたので、私はますます口を開けず、怒るでも笑うでもなくお酒を飲みながらどうしたもんかな~と考えていた。あまりに沈黙が長くなったので、あれ?怒った?と感じて「なんで怒ってる?」と聞くと「なんか機嫌悪そうだから、めんどくさーと思って。」と返ってきた。怒ってはいなくて、いつものふざけた感じだったけど、私はその一言がとんでもなくショックで、言葉にならなかった。

いつもなら「え?なにそれ、ひどくない?(笑)別に機嫌悪くないんだけど(笑)」って笑って返しただろうし、彼はめんどくさいなんて思ってもないこと言ってしまっただけなんだろうと頭では分かっていた。それでも、なぜだか分からないほど悲しくて腹が立った。

機嫌が悪そうに見えてしまったことは申し訳ないし、そう見られていたのか!というショックもあったけど、何より「めんどくさい」という言葉が、私の心にとどめを刺した。

たぶん「めんどくさい」と言われたことが嫌だった、というよりはもっと分解すると「もう疲れた」という感情にさせられた、という感じだ。

というのも、彼は自分の気持ちを素直に言葉にすることが苦手で、かつ、ダサいと思われたくないと思っている。が故に、たまに思ってもないようなことを口にすることがある。自分の中の気持ちを、相手にダサいと思われないように変換して言葉にする癖がある。それは私もよくやるが、例えばこういう風なときだ。”顔が好き”と伝えたくても恥ずかしくて”私あなたの顔ファンだから”と言う。”優しいね”と伝えたくて”たまに優しいときあるよね”と言う。そうすると彼は”顔だけかよ”とか”いつも優しいわ!”と笑う。

私たちはいつもそういう風に、言葉をいちいち変換して、まわりくどく会話する。それでも感情が伝わることが心地良いと思っていた。好きだとか、付き合おうなんて言葉が無くてもそれに代わる言葉で好意や一緒にいたいという気持ちが伝わればそれでいい、それがいいと思っていた。

だけどたまに、本当は私のことをどう思っているんだろうとか、私の思っていることって伝わっているのかなとか、離れているときにはうんうんと考えてしまっていた。でも会えばそんなことを考えるのはナンセンスだと思えるくらいに安心できて、やっぱこれだなと思ったし、会う頻度が高くなっていった。会っている間だけは、明確な言葉が無くても心が通っている気がしていた。

それでも、きっと、それは強がりだったのだろう。知らぬ間に我慢を続けていたのだろう。だからもう「めんどくさーと思って」という言葉から、彼がどう思ったのかを察するのは簡単だけど、この先もずっといちいち言葉の意味を考えながら一緒にいるのかと思うと「もう疲れた」と心底疲弊してしまった。

このときは、彼は不安や心配を心の中に蔓延させながら吐いた言葉が「めんどくさ」だったのだろう、なぜなら、傷つけようと言葉を吐くような人ではないからだ。デリカシーに欠ける男性が一番嫌いな私に、いつも言葉を選んでくれていた。好意や、私に対する誠意みたいなものも、遠回しに、言葉を変換しながら伝えてくれていた。私はそれが好きだった、はずだった。


彼のグラスがやっと空いた瞬間「帰ろう」と言った。自分の声が思ったより低くなってしまったことに少し後悔した。


お会計をして駅まで歩く道も終始無言だった。なんで怒ってる?と何回か聞かれたけど、もう会うつもりもない人に自分の感情を開示する意味が見出せずに「別に怒ってないよ、なんかごめんね」とだけ答えた。典型的な女の怒り方だなと自分でも思った。いいよと断ったのに改札までついてくる彼のことをうっとうしいと思ったし、今までの時間を返せと思った。別れ際「気を付けてね」とふたり同時に言ってしまったことに笑ってしまうどころか無性に腹が立って、手のひらを軽く振って振り返りもせずに電車に乗った。もうこんな気持ちになりたくないし、もう二度と会わない。こんな風になるなら仲良くしなければよかった。



家に帰ってソファで水を飲みながらGoogleで検索をしていた。

「LINE ブロック削除 戻し方」

「LINE 削除 復元」

「LINE 削除 戻す」

そう、数時間後には全てを消して何事もなかったことにするのはさすがに違うな、冷静さを失っていた…と後悔してしまっていた。私は結局メンヘラだなと恥ずかしくなりながら、LINEがもう戻せないと分かって後悔しきっていた。

ところがどっこい「タップル ブロック 復元」で検索した結果タップルの復元に成功し、LINEを交換していたメッセージでidが確認でき、何事もなかったかのように友達追加をした。内心、全私がスタンディングオベーションしていたが「ふぅ」とかっこつけたため息一つ吐いて寝た。


次の日の昼「昨日はごめんね すごい雰囲気悪くして、、」とLINEがきて、返すかどうか迷いながらも半日が経過した頃「私もごめんね、せっかく誘ってくれたのに面倒な思いさせて」と返した。

”面倒な”というところに私が嫌だった発言を匂わせているあたりが相変わらず遠回りでアホらしくなる返しだ。


そこからまた半日、彼からの返信は無いが、私は一体どうしたいのかは分からないし、彼がどうしたいのかも分からないのに分かったふりをしたい。ただ一つ分かったのは、怒っているときにLINEを消して良いことはひとつもないということ。


半年後、リライトしました
https://note.com/yanechan_unu/n/nf0073588e59f




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