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042 ソフトさきイカ(チーズ味)が好き <承>

(↓前回からの続きです)

『入院した話』 -2-


4.
 ついた病院は、like a 収容所ルックである男子寮より、ちょっとだけマシ、ぐらいの古めかしい外観だった。
内部のみリフォームしているようで、内装は、あくまで外観に比べればだが小ざっぱりしていた。

 診察をしたのは、院長と名乗る人だった。
その見た目は老け込んでいて、カーネル・サンダースを純和風にしたような風体に、ヨレヨレの白衣を着ていた。そして鼻の頭が、志村けんのコントに出てくる医者のように赤くなっていた。

 自己紹介もそこそこに、「今から診るんでね」と不躾に言うと同時に患部を見た。そして、3分ほど問診をされた後、なぜか別の持病についてニヤニヤしながら説教や不要な質問を10分ほどしてきた。当時はそういった言葉は聞いたことがなかったが、今振り返るとドクターハラスメントというやつかもしれない。
世間知らずな僕でも、何か怪しいなと思い始めた。

 診断が終わると、その院長から思いがけない言葉が飛び出した。
「原因はわからないし、何の病気かもわかりません。とにかく経過をみるために今日から入院だね」とのことだった。

5.
 入院…?全く意味が分からなかった。無知な16歳の頭でも、想像するに抗生物質や薬をもらったり、あるいは手術をしたり、という流れになると思った。
何より、病名がわからないというのはどういうことなのか……
少なくとも病名がわからないと、自分が童貞で終わるのか終わらないのか!?当時の自分にとっての一番の関心事についての心配事が一切解決していない。あるいはベテランの医師でもわからないほど、僕は重篤なのか…

 いずれにしろ、入院となると色々と準備が必要だ。検査入院ということであれば一日二日で帰れるだろうと思い聞くと、「一週間の入院が必要」とのこと!
何故一週間も必要なのか?何度か確認したが、答えは入院が必要の一点張り、そしてのらりくらりとかわされてしまい、結局言いくるめられてしまった。そこを強固に問いただすような気力を16歳の少年は持ち合わせていなかった。言われる通りにするしかない。

 両親に、入院が必要と言われたということを連絡した。一週間という期間も告げると、たいへん驚いていた様子で「明日か明後日にそちらに向かう」と言っていた。
担任の先生に、必要なものを寮から持ってきてもらい、とにもかくにも入院生活が始まった。その夜は気疲れもあり、すぐに寝てしまった。

6.
 次の日の朝から、何か治療や問診があるかと思い待っているが、特にそういったものはない。経過を診ると言っていたが、特に患部について何か調べにくるような様子もない。
投薬などもされていないため、原因がわかるはずないし何の治療にもなっていないのでは…ということを、当時の未熟な知能でも薄々感じ始めていた。ただただ病院の薄味の食事を食べているだけの時間がいたずらに過ぎていった。それでも野良犬の生姜焼きよりはマシな味だった。

 僕にあてがわれたのは2人用の病室で、同室の人は気の弱そうな、よく言えば柔和でやさしそうな70歳ぐらいのおじいさんだった。
前日の夜に「…おお、よろしくね」と声をかけられて、「よろしくおねがいします」と会話したっきり、おじいさんは基本的にずっと眠っている。
食事のときにやっと目を覚ましたが、僕が基本的にベッドのカーテンを閉めていることもあり、特に会話らしい会話はなかった。

 寮では1年生は持ち込みが禁止されていたため、テレビやパソコンのない生活は慣れていた。手元には今で言うガラケーしかない状態だったが、友達たちがいないだけでそれも寮と変わらなかった。
しかしながら、普段テレビなどのメディアを見ることは、昼と夕の食堂でなんとなく映っている大画面のテレビだけだ。いつも『笑っていいとも!』などしか見ていないので、当時の芸能界に対して若干浦島太郎状態となっていた僕は、せっかくなので備え付けのテレビを見ることにした。

(続きます)

うれしいです。