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アクアリウム【さとうささら】-制作後記- ②作曲編その1

アクアリウム
歌:さとうささら【CeVIO AI】
作詞・作編曲・mixing:yanaki Jun
写真:orika.


私が教える作曲講座

Twitter上で少し触れたこともあるのですが、私は昨年より作曲初心者に作曲を教えるという機会を得て講座を受け持っています。独自のメソッドに基づいた教えから16小節のメロディを五線紙に書き起こしてもらい、自身の手で簡単なピアノアレンジに仕上げるまで力添えしています。ちょっとしたきっかけを与えるだけで、生徒たちが実に個性的で素晴らしい楽曲を生み出すのを目の当たりにして、私自身が作曲に対する学びを得る有意義な経験となりました。
ここで培われた知見を踏まえて、私の書いた新曲「アクアリウム」のメロディを断片的にではありますが、紐解いてみたいと思います。

魅力的なメロディとは何か?

「ヒットした楽曲には必ず共通点があります。それは何だと思いますか?」
私は作曲講座の初めに、生徒たちにこう問い掛けています。「メロディが楽しい」、「切ない歌詞」、「演奏が上手」等々、様々な答えが返ってきますがどれも正解だと考えます。これを読んでいる方に浮かんだ答えがあれば、それもまた間違いないと思います。ですが、私がここで皆に知ってほしかったことは「その曲のメロディを誰もが知っている」ということでした。
ヒットした曲なんだからそりゃ皆知ってるよ……。そんな声が聞こえてきそうですが、今一度考えてみてください。漢字を覚える為に一生懸命書き取りの練習をしたり、九九が言えるように暗唱したり、そういった努力をすることもなくいつの間にかメロディを覚えているのではないでしょうか。不思議に思いませんか?(生徒の大半が子供たちなのでこんな言い回しになっています…笑)
詰まるところ、多くの人が「あの歌、いいよね」と語るようなヒット曲のほとんどは、メロディが自然と覚えられるように作られているのです。

『夢をかなえてドラえもん / mao』
作詞・作曲:黒須克彦

誰もが一度は耳にしたことのある楽曲の代表例として、私はここで「夢をかなえてドラえもん」のサビを聴かせています。リズムに着目してもらいたいので、下段では音符をGにまとめたものを便宜上用意しました。着色した部位が全く同じにそれぞれ3回繰り返されていることが分かりますし、それ以外の箇所にも同じ音型が使われていることが見て取れます。反復学習が有効な勉強手段であるように、繰り返されるリズムは人の耳に残ります。当たり前のように覚えているヒット曲のメロディを思い返してみてください。きっとそのどれもが、何かしらリズムを繰り返しているはずです。
講座では「夢をかなえてドラえもん」の他にも、印象的な繰り返しが用いられている楽曲を私が思い付くままに鍵盤を弾いて紹介しています。
・「Lemon/米津玄師」
・「タッチ/岩崎良美」
・「卒業写真/松任谷由実」
・「君をのせて/井上あずみ」
・「大きな古時計/アメリカ民謡」etc
私はここで、人に聴かせたとき耳に残るメロディ=魅力的なメロディの秘訣は繰り返しのリズムにあると定義付けています。

有識者の方であれば、私の話す内容が「モチーフ」に沿ったものであることに気付かれるかと思います。ただ私が教える講座では、音楽への知識や理解を深めることよりも、経験のない方が曲を書くことに焦点を絞っているので、後述する作曲法に有用な「リズム」に特化した説明を行っています。また、ここで話している内容が明確なメロディを持つポップスに限定されていることも、併せて補足しておきます。音楽には即興でメロディが紡がれるジャズのアドリブもあれば、メロディやハーモニー、リズムすら持たないノイズミュージックもあります。

補助付き作曲法

曲らしい曲を作るのにリズムを繰り返すことが大事なのは分かった。ではどうすればそれができるようになるか? 私の提案する作曲法は至ってシンプルです。既存の楽曲からリズムを拝借しましょう。

実際に講座で使用した譜例の一部。

生徒たちに複数枚用意した上図のような譜例から一つ選んでもらい、作曲に取り掛かってもらいます。譜例は、童謡だったり有名な洋楽・邦楽から私が選び書き起こしたリズム譜です。例によって音符をGの位置にまとめています。参考例として、私が「夜に駆ける」のサビのリズムを拝借して書き起こした楽曲を紹介します。

『夜に駆ける / YOASOBI』
作詞・作曲:Ayase
『夜に駆ける』のリズムに添って作曲。テンポは散歩のように遅く。

「夜に駆ける」はテンポが速く一聴しただけでは気付きにくいのですが、譜面に起こしてみると音型の反復が丁寧に繰り返されていることが分かります。後半の「ひがのぼるまで」も緑色の音型と同じでありながら、挟まれた一瞬の休符にハッとさせられますね。

盗作、ダメ。ゼッタイ。

言うまでもありませんが、ここで挙げた作曲法はあくまで「補助付き」であり、既存の楽曲の盗作を推奨するものでは決してありません。右も左も分からない作曲初心者が一つ二つ書き上げることで、モチーフを作る感覚を養う為のものです。更に言えば、既に作曲に取り組んでいる方であれば、無意識にせよリズムの繰り返しは行っていることでしょう。ポップスを耳にして育った者が曲を作ろうとして、同様の手法に帰結するのは自然のことと思われます。ここに記述した教えからリズムの繰り返しを意識することで、より良いメロディを作る参考になったのであれば幸いです。次回は「アクアリウム」のメロディについて触れていきます。

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