2016年3月の記事一覧
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・64
「葦べ行く鴨の羽(は)がひに霜降りて寒き夕べは大和し思ほゆ
志貴皇子(しきのみこ)」
●整理:
葦べ行く
鴨の羽がひに
霜降りて
寒き夕べは
大和し思ほゆ
●歌意:
難波の地に旅した時──。
葦原に飛びわたる鴨の翼に、霜が降るような寒い夜は、大和の家が思い出される。
●感想:
「霜降りて」という表現が、寒い冬の情景を鮮烈に伝えてくる。
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「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・48
「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへり見すれば月かたぶきぬ
柿本人麿」
●整理:
東の
野に陽炎の
立つ見えて
返り見すれば
月傾きぬ
●歌意:
阿騎野に宿った翌朝のこと──。
日の出前の東の空に、暁の光が見え、雪の降った野に照り映えている。振り返って見れば、西の空では月が落ちかけている。
●感想:
空間的広がりを感じさせる歌。明け方の空気の清浄さと、その一瞬を捉えた切
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・28
「春過ぎて夏来(きた)るらし白妙(しろたへ)の衣ほしたり天の香具山(あまのかぐやま)
持統天皇」
●整理:
春過ぎて
夏来るらし
白妙の
衣ほしたり
天の香具山
●歌意:
春が過ぎて夏が来たようだ。天の香具山の辺りには、多くの白い衣が干してあるよ。
●感想:
初夏の輝かしい空気と、白妙の衣の眩しさが、明るい光を伴って響いてくる感じ。
よく知られた歌。百人一首にも採られている
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・15
「渡津海(わたつみ)の豊旗雲(とよはたぐも)に入日(いりひ)さし今夜(こよひ)の月夜(つくよ)清明(あきら)けくこそ
天智天皇」
●整理:
わたつみの
豊旗雲に
入日射し
今宵の月夜
あきらけくこそ
●歌意:
海の上に大きな旗のような雲があり、そこに夕日が射している。この様子では、今夜の月は明月だろう。
●感想:
海の雄大な景色が眼前に広がる。豊旗雲という言葉も気持ちよい。
「万葉集」私撰秀歌 歌巻1・18
「熟田津(にぎたづ)に船乗りせむと月待てば潮(しほ)もかなひぬ今は榜(こ)ぎ出(い)でな
額田王(ぬかたのおおきみ)」
●整理:
熟田津に
船乗りせむと
月待てば
潮も適ひぬ
今は漕ぎ出でな
●歌意:
伊勢の熟田津で、船を出そうとして月を待っていると、明月となり、潮も満ち、船出の条件が整った。さあ漕ぎ出そう。
●感想:
するすると最後まで流れるような言葉の調子がよい。また、言葉と