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連載漫画の作り方12 発表作と漫画家人生1

作品の保存は常に、丁寧に

長いことやっていく間に浮き沈みは当然あります。思い返すのも嫌な作品もあります。それでも原稿の整理はいつもちゃんとしておくといいでしょう。
今ならデジタルの人が多いのでアナログよりずっと生理は楽ではないでしょうか。
ボクの『笑え、ゼッフィーロ』の原稿はデジタル保存していますが連載を開始した当初から
ファイル名 西風001
原稿ファイル 西風入稿001-0102
というふうにナンバリングして保存していました。「連載一回目のファイルで、連載一回目の入稿原稿ファイルで1ページ目と2ページ目の見開きデータが入っています」という意味です。「001」と三桁になっているのは「この連載は絶対100回越えるから」と確信があったので、このようにしました。

柳葉見本

原稿にもご覧のように↑ノンブルを振ってあります。あ、掲載紙も書いてありますね。「週刊将棋で連載した漫画の238回目の5ページ、6ページ目」と読み取れます。こうすると、何かの拍子にデータがゴチャゴチャっとなっても整理しやすいんですね。

「ノンブル」というのはフランス語で英語のナンバーと同じ意味、何ページ目かを指している出版界の用語です。ヨーロッパ流の製本の仕方には何通りかあるそうですが、日本へは明治 6(1873)年にカ ナ ダ 人 W.F.パ タ ー ソ ン が洋式製本を伝えていますが、この人が多分フレンチカナディアンだったのでしょう、フランス流のものがはいっているようです。用語もフランス語が残ってますね。こういうのは知らなくても大丈夫なんですけど、やっぱり知っておく方が編集者と話しやすいと思います。
なおデータの保存は、pcのハードディスクだけでなく、DVDやブルーレイ、クラウドなど何種類かの利用をお勧めします。ボクはPC+ブレーレイ2セット(別々の場所に)+外部ハードディスク+クラウドサービスと保存するようにしています。

どうしてここまで丁寧に保存するか


上でも書きましたが、描いたけれど気に入らなかった作品というのはあります。自分が気に入らなくても読者は好いてくれることがあります(手塚先生は鉄腕アトムが嫌いだったと言っていました)。人気がなくて「ダメな作品だったんだな」と思っても突如時代の流れとあっちゃって売れる事もあります。そういうのは描いた当人にだって読み切れないものなんですよ。作品はできあがった時から作者とは別の命をたどるからです。
ボク自身の経験を言います。終了してから12、3年経った漫画を「単行本にしましょう」というオファーを受けたことがあります。その編集の方が出版の世界に入る前に読んでいて「編集者になったらいつか」と思ってくれていたそうです。もちろん原稿は整理してあったので、すぐにお渡ししました。
また、こんな事もありました。これも単行本になってない作品を「私家版で良いから本にしておこうか」と知り合いの編集プロダクションに相談したら「これ、いまならWEB漫画にあげられますよ」と思ってもみないような展開を迎えることになったのです。
こういうことも描いた当人に予測はつきません。つきませんが、何かの時のために作った原稿はできる限り丁寧に保存しておくのがプロのあり方だと思うのです。

考えられない事に出くわす時

「じゃあとにかくいろんな用意や準備をすれば良いんだね?」
と思うかも知れませんが、これがそうでもない。
上のような準備は確かに大切ですが、だからと言って同じ事態が必ず来るとは限りません。それに未来の準備なんてのはやってもやっても終わるわけがなくて「こんなに面倒なら漫画家辞めた方が気が楽だ」となりかねません。
「この程度でいいだろう」という見極めってのも大切です。
むやみに頑張るんではなく、必要なだけ頑張っておいて下さい。
「じゃあ考えてもみない事に出くわしたらどうすればいいのか?」
と言うと、その時々に何か方策を考えるのです。その時が来たら十分考えて納得のいくことをするのがよいでしょう。
実はこれが漫画家の生き方である、とボクは思っています。

実力がある=売れる ではない

売れてない漫画家のボクが言ったって説得力ない、と思われるでしょうが、言いますね。
実力があるから売れるわけではありません。
売れるかどうかは風任せなんです。

いや、売れてる漫画は実力あるでしょう?と思いますよね。そうです。実力がないと売れません。でも実力があるから売れるわけではないのです。

皆さんは宮谷一彦さんという漫画家さんはご存じですか?2022年までご存命でした。画風のリアルさが強烈で、トーンの使い方に時代に先駆ける特殊な技を駆使していました。この方の掘り起こした鉱脈は後の漫画界に大きな影響を残しております。
しかし、単行本は10タイトルくらいで青年漫画だったので部数も少なかったでしょう。同じ年デビューの永井豪さんとか美内すずえさんと比較するとわかりやすいかもしれません。
プロ筋はこういう人を注目します。売れる売れない以上に重要なものを持っているからです。逆に言えば、売れる売れないは時の運だと勘づいているんですね。

この稿続けます。


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