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新しい営業担当の君へ

インターネットに住む人は誰しも、世を忍ぶ仮の姿をお持ちのことかと思います。
私の仮の姿は、製造メーカーの調達のお仕事。

自社製品をつくるのに必要な部品を探してきて、見積をとって、納期調整をして……。
多くのメーカーや電子部品専門の商社とお取引させてもらい、大きな金属の箱から爪の先ほどの小さな電子部品まで、社内で使うものはなんでも集めてくる楽しいお仕事だ。

これはそんな仕事での話。


つい先日、よく弊社に来てくれる商社の営
業担当さんが、転勤で担当変わるんですよ~と後任の人を連れて挨拶に来た。
春は別れと出会いの季節だ。

担当「彼、2年目なんですよ。至らないところもあるかと思いますが、しっかり引き継ぎするのでよろしくお願いします」
私「こちらこそよろしくお願いします」

たしかに、向かいに座る新しい担当君からはフレッシュさが溢れている。さすがに2年目ともなると目こそキラキラしていないが、それでも私には少し眩しいくらいだ。
こんな時期が私にもあったのだろうかと考えながら、担当変更に必要な確認を進める。

事務的な確認が終わり、そう言えばこないだ発注した部品手に入りそうです? とか、寂しくなりますね~とか、そんな話をしている時、新しい担当君がふと呟いた言葉に私はハッとした。

「僕、入社した時からずっと半導体不足なんですよね」

そうか、もう3年近く経つんだっけか。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれないけれど、ここ3年ほど、半導体、樹脂部品、その他あらゆる部品が入手困難になっている。Twitterでも給湯器が壊れたら交換できないよ! とか見た気がする。

その原因はある半導体メーカーの工場火災だったり、北米の大寒波だったり、5Gの基地局を建てるのに優先してまわされていたり。
そこにダメ押しでやってきたのがコロナ禍だった。海外のロックダウンで工場も物流も何もかもが止まった。

必要な部品を発注しても、入荷予定は2050年です、とか、いつ入るかわかりませんとか、そんなメールが届く毎日。でもその部品は2021年のいま必要なんですよ、と朝から晩まで私たちは文字通り血眼になって探していた。

「海外の商社から部品見つかったって連絡ありました!」
「よくやった! お値段は?」
「……1個10万円だそうです」
「……元の単価いくらだっけ」
「千円ちょっとです」
「……一応、上の人に買うかどうか確認するね」

冗談じゃなく、こんなことがまかり通っていた。
弊社では100倍の値段がついた部品はとても買えなかったけれど、背に腹は代えられぬと購入した会社もあるらしい。

当然、商社の営業さんも仕入先メーカーと客との間で板挟みになっていた。
客からは「いつ入るんだ!」と詰められ、メーカーからは「そんなのわからんし、そこまで言うなら他を当たられたらどうですか」と開き直られ。
そうやって板挟みになるのは調達担当者も同じで、納期調整の打ち合わせを開く度、お互いしんどいっすよね~と一緒に策を練っていた。代わりになる部品がないかとか、その週に必要な分だけ少しずつ納めてもらうとか。

そんな時期に入社した新担当くん、

「今までずっと納期調整ばかりでしたけど、御社のお役に立てる提案をできればと思っていますので」

とさわやかな笑顔で言ったのだ。

眩しすぎて会議室の空気が浄化されたかと思った。私の汚れた心も真っ白になったかと思った。そんなことはなかった。


今は納期調整ばかりかもしれないけれど、商社の営業の本業は提案。営業って本当はもっと面白いんだよ。
開発の無茶な要求仕様に、あーでもない、こーでもない、これならいけるけどコストが……とか、こんなメーカーあるけど……とか。
メーカー営業と調達担当と一緒に頭捻って、ベストな製品を見つけられた時の達成感は何物にも代え難いよ。
これが楽しくて営業やってんですよ、と言った人も知っている。

どうだろう、こんなこと言うのは職業病なのかもしれない。もっとドライに仕事したほうが身のためかもしれない。
でもどうせ働くなら少しでも楽しいほうがいいじゃないか。

少し落ち着いてきているとはいえ、まだまだ厳しい世界情勢。

それでも、これからも電子部品商社の営業として頑張る君に幸あれ。

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