【創作】文披31題まとめ2022②

 昨年の文披31題のまとめ その2 です。こうやって見返してみると世界観がとっ散らかってんな~って思いますね。
 
 その1はこちら

day 11. 緑陰

 彼と出会ったのは図書館の中庭だった。木陰に座り本を読む端正な横顔に木漏れ日がちらちらとゆらめく。私は隣の木の下に腰掛けて本を開くけれど、中身はちっとも頭に入ってこない。
 しばらく後の国語の授業、夏の季語として出てきた緑陰。一瞬にしてあの横顔が浮かび、辺りが緑の香りに包まれた。

day 12. すいか

 しゃりしゃりと小気味良い音を立ててすいかを食べている皆をじっと見つめる。器用に種を取ってから食べる姉と、豪快にかぶりついてぺっ、と後から出す父。赤い果汁がテーブルに滴り落ちる。
 そんなに欲しそうな目をしてもだめよ、と塩をかけながら母が笑う。いいじゃないか、犬だってすいか食べても。

day 13. 切手

 最近では手紙を書くことも減ってしまったけれど、便箋選びから仕上げの切手までずっと、その人のことを考える時間。この和菓子の絵のがいいかな、いや、こっちの夜景のがいいかも。
 お元気ですか、最近こんなことがありました。会いたいね。
 封筒に詰めた想いを届けてくれるのは大切に選んだ切手。

day 14. 幽暗

 いくつもの鉾が立てられ夜空が一層煌びやかに輝く七月、疫病を祓う神事にはこの街特有の熱気と誇りが詰め込まれている。肌を覆う蒸し暑さは無数の提灯の光によって熱量を増していく。
 その光景は高揚感に包まれた人々の波に逆らい歩く私には眩しすぎて。幽暗な路地の奥からただ、ひっそりと眺める。

day 15. なみなみ

 暑さから逃げ込んだ喫茶店は落ち着いた雰囲気で、火照った心が冷やされていくよう。頼んだクリームソーダを待ち呟く。
「お前のそういうとこ嫌いなんだよ、か」
 心の奥底に溶けていた恋心がしゅわしゅわと湧き上がり水面ではじけて消えた。なみなみと注がれたサイダーにひとしずくの涙を落として。

day 16. 錆び

 夏祭りで元同僚に誘われた射的、見事に外し続けて残る弾は一つ。俺の腕も錆び付いたな、と笑うと、大丈夫、お前は昔から下手だ、だと。
 なぁ、新しい仕事どう?
 ……おう、大丈夫だよ。
 隣からの返事と共に錆びた引金がぎいと音を立てゴム弾があらぬ方向に飛ぶ。お前、昔から嘘つくの下手なんだよ。

day 17. その名前

 小学校に入ってすぐに付けられた渾名。私の名前は発音しにくかったから、かけ離れていても皆に呼んでもらえるそれを気に入っていた。名前なんて所詮は個人を識別するための符号だと、そう思っていた。
 なのに、どうして。貴方の声で呼ばれる、久しぶりに聞いたその名前に、私の体温が上がっていく。

day 18. 群青

 夏休み合宿最後の夜、目が覚めてしまった私はこっそり宿舎を抜け出した。
 山中の県道から少し逸れた道、疎らな街灯と遠くのコンビニの明かりがぼんやりと照らすセンターラインの上を歩く。私という舞台に立ち演じられるのは私だけ。深い群青に吸い込まれる白線の先をどう描くか、私だけが知っている。

day 19. 氷

 急な夕立に降られて先輩の家、アイスティーまで出してもらったけれど本当はもっと違う形でお邪魔したかった。他愛ない話で盛り上がるだけに他意がないことは明らか。うん、これを飲んだら帰ろう。
 グラスの中でからん、と音を立てて最後の氷が溶けた。そろそろ、
「新しい紅茶、淹れようか?」

day 20. 入道雲

「入道雲って、夏! って感じで好き」
「俺は嫌いだな」
「なんでよー。あ、」
 ソフトクリーム買ってくるね、と駆け出す背中。
「入道雲は夕立を連れてくるんだ」
 ほら、空が暗くなってきて何かがぽつりと顔に当たった気がする。入道雲が乗ったコーンを手ににこにこする君の手を引き、屋根の下まで走った。

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