【創作】文披31題2022まとめ①

 今年もあと半月、7月から綺想編纂館の朧様が企画される文披31題が始まるので、去年どんなの書いたっけ~とおさらいがてら、まとめました。
 ……え? 6月あと半月しかないの?!

 朧様は他にも季節ごとの楽しいツイノベ企画もされているのでぜひフォローを!
 今年の分の進捗どうですかって? んなもんないよ!!!

day 1. 黄昏

「ねー、帰ろーよー」
 橙色の光を背負った君が叫んでいる。約束なんかしなくても当たり前に一緒に帰る部活終わり。
 せっかちな太陽は気付けば君の向こうに消え、夕闇がすぐそこに迫る。黄昏時は誰そ彼時だって古文の先生が言っていた。でも、どれだけ暗くなったとしても、きっと僕は君だってわかる。

day 2. 金魚

 梅雨の中休み特有の蒸し暑さに吹かれたカーテンがふわりと視界を遮る。大人達によって手厚く守られた閉鎖的な空間。読み上げられる昔の人の日記をぼんやり聞きながら机の上で揺らめく光を見ていた。まるで金魚鉢の水面に反射しているよう。私達はぶくぶくと酸素が流し込まれる教室で飼われる金魚。

day 3. 謎

「あの先生、謎だよね~」
 生徒達の間でさざ波のように噂が広がるのは新しい教師が来た時のお約束。
「でも優しいしイケメン」
「わかる」
 でも本当はそんなんじゃない。彼が心に飼う独占欲が苛烈なのは、それをぶつけられる私がよく知っている。その欲がどこから来るかのほうが謎なんだけど。

day 4. 滴る

 素肌にちりりと熱を感じながら貴方の顔越しに天井を眺める。愛しているから、愛がないのに。誰かの評論なんてどうでもいい。二人の境界がどろどろに溶けて交じり合う空間で、君から滴る汗や涙やすべてを私の中に取り込んでしまえたら。そうやって手に入らないものをこそ求めてしまうのが人間の性。

day 5. 線香花火

 君が持ってきた花火セットには線香花火が入っていた。僕は儚さの象徴みたいなこいつのことがあまり好きじゃない。控えめにぱちぱちと爆ぜるだけの火花は、温度が低すぎて綺麗な炎色反応も起こらない。
 でも君は言うんだ。地面に落ちてもまだ光り続けているじゃない?そのしぶとさが良いよね、と。

day 6. 筆

 学校から帰るとおやつに添えられていたメモ書き、提出するプリントへの一筆。筆まめな母に育てられた私は手書きが苦手だった。
 けれど書道教室で持たされた筆は自由に半紙の上で踊り、書くことに夢中になった。何を書いてもいいよと笑ってくれた先生。
 そして今日も私は娘のお弁当に一筆箋を添える。

day 7. 天の川

 隣に寝転んで天の川を見上げる幼馴染に会うのは、年に一回キャンプに行く時だけ。
「これであと一年頑張れるわ」
「織姫と彦星かよ」
 彼らは遊び呆けたから離されたんだっけ。
「別に年一じゃなくてもいいのに」
「俺、溺れちゃいそうだからなぁ」
 消え入りそうな声に、何に?とは聞き返せなかった。

day 8. さらさら

 「お父さん、髪くくってー」
「もう少し早く言いなさい。もう出る時間だよ」
 簡単なのでいい?と聞きながらブラシを手に取る。妻と付き合っていた頃もよくこうしていたっけ。
「もうすぐお母さんのお墓参りだよね。お線香まだある?」
 さらさらの髪に指を通し、ただ願う。君はどこにも行かないで。

day 9. 団扇

 お風呂上がり、あっつ~、と床に倒れ込む私の横に駆け寄る君の手には団扇が握られていた。
 おっ、あおいでくれるの?と聞けば、そんなわけないじゃん、と笑いながらも私にも風が当たる位置でぱたぱたと揺れる朝顔柄。
 君の楽しそうな顔が見られるならこんなに暑いのも少しは許せ…………ない! あつい!

day 10. くらげ

 水族館のぼんやりと光る水槽の前、二つの声が重なった。
「くらげになりたい」
「くらげ食べたい」
 え、と固まる君に、ほら中華の、と説明する。それは知ってるけど、と手を振る君は思案顔。
「俺がくらげになったらお前に食べてもらえる?」
 何を言い出すかと思えば。そんなの、くらげじゃなくたって。


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