【創作】文披31題まとめ2022③

 昨年の文披31題のまとめ その3 です。お読みくださりありがとうございます。
 もしよかったら、好きなお話の日付だけでもコメントにもらえると私が喜びます。
 
 その1はこちら

day 21. 短夜

 明日から一ヶ月、彼に会えない。昼間は部活や予備校があるから話せるのは夜だけ。高校生の夏休みは意外と忙しいのだ。通知音を切って布団を被り、親指で言葉を紡ぐ。
 夏休み中にどこか遊びに行きたいね。いいね! いつ行く? もう遅いし明日決める? うん、おやすみ。
 私たちに夏の夜は短すぎる。

day 22. メッセージ

 枕元に投げ出したスマホの画面が薄く光り、彼女の予備校が終わったことを伝える。当たり前に毎日会っていたのに夏休みに入ってからは文字だけ。学校だけが繋がる場だったと感じて募るのは卒業後の不安。
 夏休み中にどこか遊びに行きたいね
 学校がなくても。メッセージに込めた思いは届くだろうか。

day 23. ひまわり

 同僚におすすめされて彼女と来たひまわり畑は特に変わったところもなく少々期待外れ。確かに本数は多くて壮観だけれど。
 わぁすごいね、一緒に写真撮ろう! とはしゃぐ君に促されフレームに収まり、隣でスマホを構える横顔を見て気付く。ひまわりに照らされた笑顔がどんな景色よりも綺麗なんだ。

day 24. 絶叫

「絶叫マシン苦手?」
「こんなもん得意な奴いるのかよ」
「決めつけはよくない」
 子供の頃は大好きだったのに今は怖く感じるのは大人になった証拠だろうか。頭上のハーネスを下ろしながら考える。
「大人になって乗ってみたら平気だったパターンもあるかもよ。逆に」
 僕の進言は君の絶叫にかき消された。

day 25. キラキラ

 雲一つない青空の海水浴場にほとんど人がいないのは平日朝だから。砂浜でビーサンを脱ぎ捨て走っていく君の笑顔と水面で乱反射する太陽光がキラキラと輝き、海に入った君を光の中に見失う。
 慌てて裾が濡れるのも構わず汀を走り腕を掴む。振り向いた君を見て少しくらくらしたのはきっと暑さのせい。

day 26. 標本

 理科室で物理の授業を聞きながら壁際の棚に並ぶ標本を眺める。一部を取り出して浸けたもの、丸ごと留められたもの。不意に切り取られた瞬間がそこには存在し続けている。
 すべての物体は力を受けない限り運動し続け、静止し続ける。
 私の体も感情も切り出して固定して力が届かないところへ並べたい。

day 27. 水鉄砲

「ふははは、おやつは私を倒してからだ!」
 出たな、と水鉄砲を構える息子たちの前に仁王立ちした僕のミッションは妻の掃除が終わるまでの足止め。この炎天下だ、いくらでも撃ってきなさい。
「覚悟!」
 その言葉と共に飛んできたのは。
「え、ちょ、待って待って」
 お湯が入ってるなんてパパ聞いてない。

day 28. しゅわしゅわ

 注文から二十分ほどして運ばれてきたスフレは彼女のスプーンでしゅわしゅわと崩されていく。待ち時間にかき混ぜられた僕の心に重なってつい不憫に思ってしまう。
「で、返事は?」
「いいよ。こちらこそよろしく」
 告白の返事はスフレ食べてから、なんて。僕の不安もしゅわりと溶けていった。

day 29. 揃える

 几帳面な貴方の家の玄関は昔からすっきりしている。自分の靴は下駄箱へ仕舞い、お邪魔します、と上がった私のパンプスはぽつんと置かれていた。
 あれから数年。ただいま、と脱いだ私のサンダルが貴方の革靴の隣に並ぶ。更に数年後、隣に脱ぎ散らかされる小さな靴。ちゃんと揃えなさい、と二つの声が揃った。

day 30. 貼紙

 バス停の前に昔から剥がされていない夏祭りの貼紙がある。いつのかはわからないけれど、噂では疫病が流行って開催できなかった年で剥がすと悪いことが起こるとか。
「過去を忘れないのもいいけど、今を楽しむのも大事だよ、幽霊くん」
 隣に貼った今年のお知らせが風にひらひらと揺れている。


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