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メディアの話その117 シン・街道を行く。鉄道から再び街道へ、都市が動く。

シン・街道をゆく。
鉄道の街が終わって、街道の街が復活するのがモータリゼーション。


日本のモータリゼーションって、けっこう遅くって実は20世紀の終わりから21世紀の初めになってようやく当たり前になっている。

1世帯あたりの自動車保有台数が1台を超えたのは1990年台半ば。バブル崩壊してから。ピークは2005年ごろ。その後も、保有台数全体の数字がマイナスになったことは2021年まで、ない。車が減ったことなどないのである。

このため、八十年代から九十年代初頭のバブル経済手前の消費論や、バブル時代の消費論では、モータリゼーションと直結する構想って、案外出てこない。みんな車で移動する、と書きながら、それを前提としてまちづくりの話ってでてこない。
そもそも書いてる記者やコンサルが、車に乗って考察してなかったふしがある。

郊外市場と自動車の関連が叫ばれるようになったのは、バブル崩壊後に市場が動き始めてから。メディアやコンサルがあわてて後追いした。

ただし、そのあと、都市論は、むしろ都心への再び集中を叫ぶようになった。
少子高齢化にともなうコンパクトシティ構想。昨今流行のコンパクトシティ構想は、さらにもう一度鉄道の街の復活を狙う話だ。

けれど、多くの場合うまくいかない、と見ている。
というのも、すでに21世紀の街道の街は、いまさらながらの駅前開発よりはるかにダイナミックに進化しているからだ。
その進化のレベルに比べると、自治体や不動産企業が考えるコンパクトシティ構想が太刀打ちできる気がしない。


究極の市場競争。強いやつが勝つ。駅前はとっくの昔に街道に市場競争で負けてしまった。駅前という圧倒的なアドバンテージがありながら。


ただし、街道の街は、見えない。

鉄道の街は、鉄道コングロマリットと自治体が「地域開発」を一体で行うから可視化されるけど、21世紀の街道の町は、だれも開発母体がいないため、可視化されないからだ。


街道街は、他所からきたメディアの人間には見えない。鉄道でしか動かない公務員にも見えない。
たとえば、テレビ東京のアドマチック天国の街も全部「駅」が軸で、「道」が主人公になることはほぼない。


それでも、21世紀に「郊外」が「街」になっている都市は、すでに、よそ者には見えない「街道街」ができあがっている。


商業施設も教育施設も文化施設も夜の街までも、みんな古い街道にできている。そして案外、その横を通る新しいバイパスにはできてなかったりする。
私の実家の浜松だと、金指街道が、そんな街道街。
浜松の中心から9キロ離れた、三方原台地のど真ん中を通っている、昔は畑と自動車修理工場とチャリンコヤンキー(俺のともだち)しかいなかった道。

ただの片道1車線道路の界隈に、ニトリも業務スーパーもツタヤもブックオフも、谷島屋書店も、イオンも、エディオンも、名古屋系のスーパーのフィールも、スイミングスクールも、スポーツクラブも、美味しい寿司屋も、鰻屋も、パン屋も、スナック街も、オートバックスも、サイゼリアも、集結している。


ググっってもそんな情報は、出てこない。


でも、地図で見るとわかる。金指街道は、徳川家康も居城していた浜松城がスタート地点で、大量の馬を飼っていたはずの、三方原台地を抜け、信州や三河に抜けるための重要な軍事道路だった。


大河ドラマ、女城主直虎の居城である井伊城は、まさにこの金指街道沿いの浜名湖の奥にあり、浜松城と直結していた。あの、ドラマで移動する道が金指街道だったりする。

さらに時代を遡れば、金指街道沿いに「三カ日原人」「浜北原人」がみつかった遺跡がある。おそらくは東北から信州を経て、天竜川沿いに降りてきた、旧石器人がまさにのちに金指街道となるルートを歩んできたのであろう。

現在は、東名高速道路、新東名高速道路と直結し、自動車という「馬」の目線で見ると、非常に利便性が高い。


ちなみに、かつてこの金指街道沿いに並行して浜松駅から、浜松の奥の、奥山まで金指経由で通っていた軽便、遠鉄奥山線があった。私のうまれた1964年に赤字で廃線となってしまったが、60年後のいま、奥山線が残っていたら、現在の遠鉄本線の凋落と比してさぞや繁栄していただろう。


が、これだけ商業発展しているのに、居住エリアの面での対応した開発を、たとえば浜松市はやってない。おそらく全国のどこでもそうだろう。16号線沿いでもそう。


街道街。そう書いて気づいたけど、街道という字そのものが、「街のある道」である。


街道をメディアとしてとらえると実に面白い。
ノスタルジックではなく、未来の街になっている。
かつて司馬遼太郎氏が「街道をゆく」を描いたように、NHKあたりが、シン・街道をゆく という番組を全国を対象にやってみたらいい。

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