大東京カワセミ日記212 20230603
カワセミも、ハグロトンボもいる哲学堂前の妙正寺川。
台風の合流で、泥が抜けてわかるのが、この段差の下に大量に砂と小石が溜まっている。
ここだったら、オイカワなどこうした河床に産卵するタイプの魚、増やせるように見える。
でも、魚は1匹もいない。
妙正寺川は、戦後しばらくまで蛍がたくさんいる清流で、記録も多数残っている。
ところが、現在、都の調査記録を見ても魚が全くいない。
私も2年ほど見ているが、一度も見ていない。
ここにいるのは、アメリカザリガニ、シナヌマエビ、そして時々モクズガニ。これだけである。水草で多いのはカナダオオフサモ。典型的な外来種生態系。
なぜそうなったか。公害と河川工事である。
東京中の川は1950~1980年ごろまでの間に工場と生活雑排水により、完全に一度死んでいる。ゼロリセットされているのだ。
文字通り死の川になっている。
当時の記憶がいまだにあるため、東京の川は汚い、というイメージが強いわけだ。
そして。もう一つは、その後の洪水対策などとセットの河川工事である。
妙正寺川は、神田川と合流しているが、洪水対策のため段差を設けており、神田川から魚が遡上するのは不可能である。
このため、神田川下流部にいる魚、オイカワやウグイ、コイなどは入ってこない。
ちなみに落合から中野にかけての神田川も魚がほとんどいなくなる。
魚道のない段差は、魚の再分布を妨げているわけだ。
1980年以降、徐々に川が綺麗になると、神田川のように隅田川のような巨大河川とつながっている川には、生き残っていた魚が再び入ってくる。
また、水産試験場が各地に鯉を放した。これも公式記録に残っている。
しろうとが放したのではなくプロが放したわけだ。
ところが、河川改修で下流と寸断された妙正寺川などでは水質的には問題ないのに、遡上できないため、魚がゼロのまま。おそらくそれが50年続いている。
つまりニッチが完全に開いている。そこに入ってきたのが、アメリカザリガニでありシナヌマエビ。
カワセミやカワウ、サギの仲間は、全員この2種を食べている。
外来種を排除する動きは年々高まっていて、アメリカザリガニとミシシッピアカミミガメ。この2種に関しては6月から法制が強化された。飼っているのを野外に離したら、罪になる。販売も禁止だ。
じゃあ、たとえば、この妙正寺川から外来種を全部無くしたらどうなるか。
水生生物がほとんどいない、綺麗になったけどただの死の川に逆戻りである。
外来種、とりわけアメリカザリガニは日本に入ってきてすでに100年弱。つまり、日本の生態系である種のニッチを獲得している。
一つはプレデターとして。
こちらについて説明は要らないだろう。
アメリカザリガニの成体は本当にやっかいで、水生植物を切りまくり、また旺盛な食欲で貝類を食べてしまうため、カワニナなどが激減してホタルが暮らせなくなったり、という実例がいくつもあり、その除去に私も参加した経験がある。
が、一方で、この話をなぜが外来種排除のプロセスではほとんど話題にならないのだが、アメリカザリガニは一度に幼体を数十匹単位で産む。
これが全部親になるわけではない。たくさんの幼体は、他の生き物の餌にもなっている。
親は水生昆虫を食べちゃうが、幼体は一方で魚や水生昆虫の餌にもなっている。
この餌となっている幼体が占める生態系におけるニッチの重要性がどの程度なのか。
その話が出てくることはあまりない。
で、もしアメリカザリガニなどの外来種を排除するのであれば、そのニッチを占めていた部分の在来の生き物を導入しないと、生態系が回復するどころか、むしろ幼体を頼りにしていた生き物が減ってしまう可能性も考えられる。
都市部の河川は、ゼロリセットされている。
だから、外来種排除をするのであれば、同時に在来種の放流と増殖が必要な気がする。
妙正寺川なんて、今魚ゼロなんだから、色々実験が出来そうなのだが。