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板谷波山の陶芸 生誕150年記念    茨城県陶芸美術館 2023年1/2〜2/26 その①

 近現代陶芸界において初の個人作家と位置付けられ「陶聖」と謳われた板谷波山の陶芸作品の展覧会です。
本で作品を知り、かねて実物を見たいと思っていました。

見てまいりました。 実物はどれも想像以上の美しさでした。
もう書ききれないぐらい多くの感想を持ったのですが、なるべく簡潔に記します。

場内は写真撮影不可だったため、展覧会図録から一部分をお借りして載せます
まず、展覧会会場入り口に入ってすぐのところ。

彩磁蕗葉文大花瓶 1911年頃 廣澤美術館蔵
左 太白磁紫陽花彫嵌文花瓶 1916年頃 廣澤美術館蔵
右 葆光彩磁牡丹文様花瓶 1922年頃 東京国立近代美術館蔵

高さ60センチ弱の大型の花瓶が、三つ並んで展示されており迫力がありました。
豪華絢爛とは違う高雅な美しさ。派手ではなく品が有る華やかさ。
そういった観念的なものが、大型のやきものの花瓶という質量感のある立体の存在感をともなって、ドンと感じられました。
しばらくたたづんで、見惚れてしまいました。

場内は、初期作品から晩年まで、多くの作品が展示されていました。
どれもガラスケースに入っていますが、比較的、間近に見ることができました。多くの作品が後ろ側や横から、全体が見られるようになっていて良かったです。

葆光彩磁珍果文様花瓶 1917(大正6)年 泉屋博古館東京蔵
葆光彩磁葡萄唐草文花瓶 1915(大正4)年頃 泉屋博古舘東京蔵 
彩磁延年文様花瓶 1921(大正10)年 廣澤美術館蔵

感想

🔸まず惹かれたのが、その器の洗練された形

大型の花瓶も、手のひらに乗る様な香炉も、様々な形の器物が有りましたが、全て一貫して一つの幾何学的な厳しさを持った基準がある印象を受けました。

🔸文様意匠の美しさと巧みな構成力

大正期〜昭和初期のアールヌーボースタイル。
仙桃、霊芝、鳳凰、孔雀、双魚などの中国古陶磁器に由来する吉祥文。
葡萄、枇杷、柘榴、八ツ手、紫陽花、椿などの果実や草花文。
それらが、花瓶や壺のような丸く膨らんだ器面に、複数の文様と組み合わせて、前面に破綻なく描かれているのです。
作品によってびっしり隙間なく、あるいは余白を十分に生かして計算され尽くした構成で描かれています。

🔸さらに驚きなのは、それら描かれている文様の線という線が、器面に彫り刻まれているという事です

白磁や青磁、鉄釉の単色のやきものに、まるで貼り付けたようにうっすらと盛り上がった紫陽花や柘榴、竹葉などの大柄な文様から、
鳳凰の羽毛、草花の葉っぱの細かな葉脈、青海波の波の一本一本まで、全て。

製作途中で本人が鬼籍に入ったために、彫刻を施して素焼きが終わった段階のものが展示されていました。
それを見ると、完成品から比べるとかなり彫りが深く、立体的でした。
これに染料や顔料が塗られ、釉薬が重ねられて焼かれることで、滑らかな表面になるのでしょう。
 解説では、乾燥させた粘土はかなり硬く、しかしもろく崩れやすく、細かい文様や優美な曲線を彫るのは簡単ではないとのこと。

🔸繊細で美しい彩色の技と配色の妙

それらは輪郭線が無いにも関わらず、細部まで、色と色との境目がはっきりしています。
多色使いで、器面全体に文様が施されいる作品であっても、派手で過剰にならず、なんとも高雅な色合いです。

🔸葆光彩磁

マット釉の一種で、波山が編み出した釉薬による葆光彩磁と名付けられた作品では、器面に描かれた文様が、生の果実や生きものの艶と瑞々しさをそのまま閉じ込めたように、上品に発光しているかのようです。

これらの作品が、陶工やデザイナー、絵描きを抱えた分業制の工房で製作されたのではなく、ほぼ全ての工程を板谷波山一人が行なっているという解説があって本当に驚愕しました。
 成形はろくろ師が担当しているものの、形の決定、意匠の発案、器面への文様の構成、彫刻、彩色、施釉、窯入れ、焼成。
全ての工程を波山が自ら行なっているのです。
これほどの腕と才能を一人の人が持っているのか!
その創作過程を知りたくて、家に帰ってから復習しました。

記事その②へ続きます



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