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「多層世界とリアリティのよりどころ」展 ICC 東京新宿オペラシティ4階 感想その① 2022/12/17〜2023/3/5

未来への少し暗い予感とちょっぴりの希望を感じました

メディアアートの作品展です。

会場は二つに分かれていて、17作品ありました。
とくに印象に残った四つの作品について、感想を書きます。
個々の作品とアーティストの詳細は、公式HPをご覧下さい。
            https://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/

《 How to Disappear 》 制作トータルリフューザル 2020年

オンラインシューティングゲーム「バトルフィールド」を素材にして、戦場が世界の全てである空間で、戦いを拒否したプレイヤーの存在が成立するのか?という問いと、実際に起きた過去の戦争における脱走兵の存在が語られている映像作品。

 リアリティを追求した映像表現と、少し早口の英語のナレーションが、鑑賞者を映像世界に引き込み、画面に釘付けにさせる。まるで自分がゲームをプレイしているか、実況中継を観戦しているような感じだ。

 前半で、第一次と第二次世界大戦当時の、脱走兵の姿がリアルに再現されて登場する。
 ちょっとした灌木の茂みや木立の後ろ、また農家の庭の片隅にかがみ込んで隠れる兵士、ワイン貯蔵庫や納屋に入り込んで隠れていたり、麦畑を走って逃げる姿など。脱走兵は皆、目が虚で不安げな表情をしている。

 それらの映像に被せてナレーションが入る。
「第一次世界大戦では、脱走兵が多数出たために、軍の規律が変わった。夜に行軍しない、林や茂みを進むときは、隊列の両脇に騎馬の見張りをつける。脱走の処罰を重くする」
 「第二次世界大戦ではドイツ軍から脱走兵が多数出て、ドイツが敗れた原因の一つと言われている。兵役からの脱走は、恥で不名誉なこととされ、戦後長い間、自ら告白するものは少なかった。」

 流れるようなカメラワークの映像を見ているうちに、いつの間にかに、戦争史上の脱走兵の話から、ゲーム世界でのプレイヤーの振る舞いについての話しに変わっていく。
 プレイヤーはどうにかして戦闘を忌避しようと様々に試行錯誤している。武器を手から離そうとしたり、他のプレイヤーと協力して敵の足元をつかんで動けないようにしようとしたり。だが、どれもできない仕様になっている事が示される。
 そして怖しいのが、戦闘地域から離れるように、ひたすら走り続けると、ある地点から周囲の色があせたようになり、プレイヤーが背後から狙撃されてしまうのである。そこに「誰が撃ったかは、システム上追跡できない仕組みになっている」というナレーションが入る。
プレイヤーはゲーム世界を成立させている「システム」に常に監視されているのである。
 様々に試した結果、この世界から消えるには自爆するしかないようだった。

感想

 将来、拡大するであろうメタバースの世界を予想させる作品でした。その内部ではアバターは、ルールに沿って振る舞えば安楽で、欲望のまま生活できるかもしれないが、世界のルールを変える事は出来ないのです。
 その行動は常に監視されていて、ルールそのものを否定すると抹殺されてしまうのです。
 一方で、現実世界では、個人の行動が集合して大きな流れが生まれた時、組織のルールや国の政策を変える力を持つ可能性があると言えます。
(変化には長い時間が必要で、多数の個人の犠牲が伴うのですが・・・)
 未来の社会に、少し暗い予感とちょっぴりの希望を感じたのでした。


リアリティゲームの緻密で色鮮やかな画像はきれいなのですが、私には目に映る情報量が多過ぎて、やや疲れてしまいました。
 会場内を見回すと、緑系の色をした円卓のようなオブジェと、木立を写した写真が飾られているコーナーが。何やら癒されそうです。


《並行植物調査プロジェクト》 《In game botanical 》

たかはし遼平 

ゲーム世界の樹木を、現実世界に移植したらどうなるか。

 作者は、「実際に公園や渓谷を散策して現実の植栽を撮影し」生える余地がありそうな場所に、付近の植物に似た形状のヴァーチャルな植物を、ゲームや3Dモデルのアセットから探して、合成して写真にしています。

 感想

ゲームの植栽は「データ容量を減らすために、ドット絵だったり低解像度であったり様々な特徴を持っている」ので、 私には明らかに周囲の木々から浮いて見えるのですが、ゲームを長時間プレイする人々から見ると、何ら違和感がないのかもしれないなと思いました。 
 ゲーム世界の木々も、その中では「木」であるわけですから。
そして、実際の木々の間に合成された、違和感ありありな「ゲーム世界の木」を眺めていると、私も不思議と癒される気持ちがしたのです。

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