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超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』見ました

 見たんです……。見たんですよ、初音ミクさんが出演する超歌舞伎を、歌舞伎座で。
 歌舞伎座で!!!!

ミクさん! ミクさん!!


はじめに

 ありがとうNTT、ありがとう全ての関係者。
 私はボーカロイドの楽曲も歌舞伎も大好きなので、今年の超歌舞伎が歌舞伎座でかかると知った瞬間は驚きと喜びで爆ぜそうでした。

 そもそも、超歌舞伎 Powered by NTT『今昔饗宴千本桜』とは、中村獅童さんとバーチャルシンガーの初音ミクさんが出演する歌舞伎で……。

・古典歌舞伎と、NTTの技術を始めとした最新のテクノロジーが融合
・『今昔饗宴千本桜』は、歌舞伎の名作『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲である「千本桜」の世界観に着想を得て書き下ろされました。
・初演である「ニコニコ超会議2016」で上演された記念碑的な作品で、「超歌舞伎」が生み出す、舞台と客席の一体感が大きな魅力となっています。

公式サイトより

 初回は幕張メッセで開催の「ニコニコ超会議2016」。それが今年は100年以上の伝統を誇る歌舞伎座でかかったわけです。そりゃもう、私が爆ぜそうになるのも仕方がありません。

 演目の冒頭で獅童さんが語った「100年続ければ古典になる」という言葉、そして幕が下りた後に彼が声高らかに告げた「時代を変えましょう、動かしましょう」という旨の言葉がとても印象的でした。
 私はもしかしたら、歌舞伎の大きな潮目を目撃しているのかもしれないなあと。

お馴染み、歌舞伎座前の絵看板。左がミクさんも描かれている超歌舞伎のもの。ここでミクさんの姿を見られるなんて感無量です。

 

観客巻き込み型がすごい

 この演目、面白い取り組みがいくつかあります。その中でも特徴的なのは、
・ペンライト振りたい放題
大向おおむこうしたい放題

という、観客巻き込み型の仕掛け。

・ペンライト振りたい放題

右が色変え可&大向こうの音声が出るペンライト。左はぽきっと折って光るライト。

 場所が歌舞伎座ということもあり、今回の場合は「歌舞伎は好きだけど初音ミクには馴染みがないなぁ」というお客さんが多いのではと思います。実際に私が客席を見た印象も、普段の歌舞伎を鑑賞する客層と雰囲気は変わらなかったです。

 また、「ミクさんは好きだけど歌舞伎ってなんか堅苦しそうだな」という気持ちで来ているお客さんも居たはず。そんな、「何らかの戸惑いがある」観客を楽しませるための工夫として、この二つは面白く機能していました。

 例えば、売られているペンライトは色が幾つか変えられる仕様です(そうではない簡易的なものも売っていました)。
 役者が登場した時にライトをつけて振るもよし、大立ち回り(戦闘シーン)で、演者のイメージカラーのペンライトを振って応援するのも◎
 最終的に、「色は構わんからとりあえず振ろう」という気持ちでペンライトを振っていました。
 いや、まさか歌舞伎座でペンライト振ることになるとは思わないじゃんね。

 最後の最後には、獅童さんの声で客席の全員が立ち上がり、満開の千本桜の花びらが舞い散る中ペンライトを振りながら舞台に声援を送り、まるでライブの終わりのように大盛り上がりでした。
 いや、まさか歌舞伎座でヒューヒュー言いながら千本桜の曲に合わせて踊ることになるとは思わないじゃんね。

 生きててよかった。そう思いました。

・大向こうしたい放題

 大向こうとは、歌舞伎の合間に客席から役者に向けて屋号を叫ぶ人・行為のこと。タイミングが問われるので、通常はその道の人たちがやっていて一般客はやらないものです。

 ですが、超歌舞伎ではこの大向こうがしたい放題。
 例えば、ペンライトは色が変えられるだけでなく、大向こうの声が出るようになっています。自分で発声するのが恥ずかしくても、ボタンを押せば大向こうで役者を応援出来ます。
 口上の合間で機械の声が「萬屋よろずや!」と連呼しているのは、なかなかシュールで面白かったです。何あの空気。好きだぞ。

 ちなみに、大向こうで叫ばれる屋号は獅童さんの「萬屋」をはじめ幾つかありますが、協賛であるNTTの屋号は「電話屋」です(超歌舞伎のためにファンの人たちが決めたそうとか)。
 そういやNTTって電話屋さんでしたね。

会場にはNTTのポストカードがありました。


イヤホンガイドの名コンビ、高木秀樹さんと百花繚乱さん

 私のような永遠の歌舞伎初心者にはなくてはならない、イヤホンガイド。劇場でレンタルできる、観劇中の演目を解説してくれる音声が聞ける機材です。

 普段は、演目ごとにおひとりの解説者が色々劇中の見所や台詞の解説をしてくれるのですが、超歌舞伎では何と2名体制。
 インターネット系のイベントでお馴染みの百花繚乱さんが実況、イヤホンガイドやNHK教育テレビ「文楽鑑賞入門」講師としてもお馴染み高木秀樹さんが解説、という豪華な布陣です。

 私、高木さんがこんなに楽しそうに解説してるの初めて聞いた……。

 日頃、高木さんは安定した穏やかな解説をして下さる印象がありました。もちろんそれは超歌舞伎でも変わりませんが、どこか明るく楽しそうな印象。
 高木さんは、百花繚乱さんのことを「百ちゃん」とお呼びになっているとか。そこまで打ち解けていらっしゃるお2人のやり取りの安定感と楽しそうな雰囲気に、こちらまでほっこりした気分に。


ミクさん、綺麗だ……。

 それにしても、あのミクさんの美しさは一体どれだけの人が丹精込めてお仕立てされたのでしょうか。ミクさんの「千本桜を守る女性」という、美しさと強さを併せ持つ役回りにぴったりの着物姿がとても綺麗でした。

 上記のサムネの衣装の他にも、着物姿は幾つかパターンがあります。そのひとつひとつが実に見事で、特に「着物の重たさの表現」には惚れ惚れ……。足元に落ちる裾の物質感が本当にリアル。
 その一方で、ミクさんの長髪はふわふわと浮いているのもまた素敵でした。「軽やかさ」と「物質的な重さ」の両方を映し出していて、本当にミクさん、美しかった……。私は確かにここで、ミクさんの舞台を見たんだ……。

 ちなみに、他にもNTTの技術を駆使した色んな描写がありました。諸々詳しいことは👇の記事で見られるので、ご興味あればぜひ。

 最近はAIのような技術が悪用される方向の話題ばかりをたくさん耳にしますが、技術が人の生活を精神的に豊かで創造的なものにしてくれたらいいなと思います。


終わりに

 大興奮のまま幕を閉じた超歌舞伎。私が鑑賞した日は満員御礼大入りで、客席と演者の熱量を感じました。
 また、中村勘九郎さんと七之助さんが出演されていらしたのも嬉しかったです。お2人とも大好きな歌舞伎役者さんなので、まさか超歌舞伎でお見かけ出来るなんて……と大変興奮いたしました。こんな風に、色んな役者さんを巻き込んで更にとんでもない演目を実現してくれたらいいな~と。

 今では歌舞伎って敷居の高いものに見えますが、元々は粋で気軽な大衆娯楽だったはず。揺るがない伝統と、新しい時代の流れの両方を取り入れられる娯楽って、一朝一夕にはできないものです。でも、歌舞伎にはそれができる。
 百年続ければ古典になる。
 
そんな言葉を噛みしめながら、時代が進んで行くワクワクを感じられる素敵な演目でした。同じ時代に生きていてよかった、そして、生きているうちに見られてよかったです。

大入!めでたい!(人が写っているので隠しております)



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