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【データで検証】浮嶋敏前監督と山口監督を徹底比較。湘南ベルマーレは川崎フロンターレ(9/26)と横浜Fマリノス(10/1)との二連戦、浮嶋敏前監督であれば勝ち点を得る可能性は上がったのか?

1.はじめに(経緯)

山口監督が就任してから、一ヶ月が過ぎました。これまでのJリーグの対戦成績は1分3敗と、勝ち星がありません。先日行われた横浜FM戦では、相手よりもチャンスを多く作るも、一瞬のミスから失点をし、惜しくもホームで0-1と敗れてしまいました。結果的に湘南ベルマーレのJリーグの順位は16位から降格圏内の17位と転落し、SNSを活用するサポーターの間にはチームが残留できるのかどうか、不安の声が上がっています。
そんな中、湘南ベルマーレ公認のマガジン「ベルマガ」に記事を寄稿された経験を持つ富士石陽太さんがTwitterに以下のつぶやきを載せました。

私は富士石さんの言う”近道”が具体的に何を指しているのか、非常に興味を持ったため、私が引用リツートで質問をしたところ、富士石さんは反応してくださいました。

これにより有り難くも、富士石がブログを書いてくださる事となりました。
こちらが「近道は何なのか」を説明したブログになります。

皆さんには富士石さんのブログを読んだ前提で話を進めていきますが、一応掻い摘んでブログの内容をおさらいしようと思います。

【富士石さんのブログより抜粋】
山口監督自身の言葉を借りれば「やるべきことの整理」を行った結果として試合を見ていておそらく誰もが感じているのは下記の4つでしょう。
・プレス強度が上がった
・決定機が増えた
・後半の息切れが目立つ
・引き分けを拾えなくなった
ーー中略ーー
試合後半の失速は勝ちをゴールとした前半の強度を保つ力が備わっていないからです。
それから『決定力』。現状だと決定力は容易に埋まらないことを前提にするしかないでしょう。となるとこの箱のうち「数度ある決定機を決める」というスポットは中々埋まらないことになります。浮嶋監督のバスケットでは穴があっても見え辛く盛られてなんとなく拾えた引き分けが、今は「決められない試合は負ける」という少し極端な状態になっているのはそういうことです。
プレス強度が上がり決定機が増えたのは勝利をゴールとした箱に合わせてプレイしている結果ですが、箱は立派でも中身が抜けている状況では中々求めるお返しは返ってきません。

富士石さんがまず指摘していることは山口監督なってプレスの強度が上がったというものです。富士石さんの主張はこうです。「プレス強度が上がったことで(ショートカウンターからの)決定機は増えたが、後半に息切れが目立つ。勝利を最優先に考え、決定機を増やすプランだが、現状の湘南には決定力がない。もしプレス強度を高く保てる時間帯に得点できないと、プレス強度が落ちた後では、得点できる可能性が低い。そして、プレス強度低下後は失点をする可能性が増加する。得点ができないと引き分けどころか負けるリスクが高くなる。浮嶋前監督がプレス強度を上げなかった(プレス強度が上がるプランを施行しなかった)のは、現状の湘南の選手たちの実力では身に余るゲームプランだと考えたから。よって、決定機は多くないものの、引き分けを拾うことができていた。」
富士石さんの言う”近道”というのは、『決定機を増やして、勝利する可能性をあげること』を指します。そして、富士石さんの推察によると、浮嶋前監督がその”近道”をしなかったのは『選手の能力を鑑みて、現状では決定力がなく、息切れした後に失点をするリスクが高いと判断した』からではないか、ということです。
色々と言葉を足してしまいましたが、このような理解で間違っていないかと思います。

そして、私がさらに知りたくなったのは、もし浮嶋監督が0-1で敗れた横浜FM戦を指揮していれば、試合結果がどうなっていたのかということです。
単刀直入に富士石さんへ質問を投げたところ、またしても反応してくださいました。

結果、勝率はそのままで、引き分けの可能性が上がったのではというご意見をいただきました。「前半戦で戦った時」とありますが、これは第7節の1-1で引き分けたAWAY横浜FM戦を指しているものと思われます。

2.浮嶋監督時代よりプレス強度が上がった?

まずは以下のグラフをご覧ください。

スライド2

このグラフは湘南が今シーズンの試合で記録した、スプリント回数を棒グラフで、総走行距離を折れ線グラフで表したものです。見て分かる通り、監督の違いに関係なく、川崎戦と横浜FM戦は他の試合に比べて、強度(プレス強度を含む)が高いです。そして、川崎戦と横浜FM戦だけにフォーカスすると山口監督のチームよりも浮嶋前監督時代のチームのほうが強度は高いことをこのグラフは示しています。
次に、浮嶋前監督時代に横浜FM戦と川崎戦で記録したスタッツを先日の試合と比較した表をご覧ください。

スライド1

川崎戦のスタッツ比較を見ると、ペナルティエリア内侵入回数とタックル数から、プレス強度が高く、多くチャンスを作ろうとしていたという見方ができ、湘南が後半の15分過ぎくらいから失速し、逆転負けをしたことを踏まえると、富士石さんの主張が正しいように思えます。
しかし、両方の試合内容を振り返ると、私は両者のゲームプランにさほど違いがないと思います。

ーー2021J1リーグ第16節 湘南vs川崎戦 試合後 浮嶋監督 総括ーー
ゲームのほうは我々のプレスが川崎相手にどれくらいいけるのかということを、真価を問われるゲームだったと思います。前半から自分たちのやってきていることをしっかり出していいゲームをしたと思います。後半、途中どうしてもリードしたあと引き気味になって少しラインが下がって何回かピンチがあった中、1失点してしまったのですが、そのあとも攻める姿勢をもってやってくれたと思います。
ー中略ー
- 後半の立ち上がりからペースアップしているように見えたがプラン通りか?
そうですね、前半の一番最後はだいぶ引かされてしまっていたので、あれを後半やったら先に失点すると思ったので、もう一度前半の頭くらいしっかりいくということを話して出しました。
- 先制後に守りに入るような印象も受けたが?
まだ30分以上あったのでいつも話をしているんですけど決して引くわけではなくて2点目を取りにいくつもりで変わらずに、残りの5分くらいまではいくぞという話はしていました。どうしても少しずつでもボールにプレスにいくことが甘くなると技術が発揮されてしまうので、そういう部分があの時間帯の課題としてあったかなと思います。

浮嶋前監督のコメントの通り、ホームで行われた川崎戦(5/26)、湘南は前半からプレス強度を上げて、アグレッシブに戦っていました。そして後半始めから、ボールホルダーよりも高いポジションを多くの味方がとる、前半よりもアグレッシブな攻撃を湘南は行い、川崎から1点をもぎ取ります。しかし、川崎の家長選手が交代で投入されて以降、湘南の左サイドのプレス強度が落ちます。それまで凄まじく走っていた高橋諒選手ですから、疲れで体力が落ちたのかもしれませんし、相手が家長選手なので、強くプレスに行けなくなったという可能性もあります。どちらにせよ、左サイドで起点を作られ、レアンドロ・ダミアン選手のスーパーゴールが生まれます。

ーー2021J1リーグ第30節 川崎vs湘南戦 試合後 山口監督 総括ーー
前半は素晴らしい戦いをしてくれて、良い守備から点を取るところまで、やってきたことを出してくれて非常に満足できる前半だったと思いますが、それが残り45分でガラッと変わってしまって、最終的に結果に繋げられていない所にすごく大きな問題があるなと感じています。
後半の立ち上がりワンプレー目がすごく悪くて、全体的にそれで少し後ろが重くなったのかなという試合でした。
- 後半に関して川崎が選手を3名変えてきたが、その影響が何かあったのか?
選手の交代ももちろんそうですけど、前半よりやはり幅を使ってきて難しくされてしまったというところ。
うちのウイングバックが前半は良い形でプレスのところに行けていたんですけど、後手を踏んでしまって後ろに重くなってしまったなと。
後半立ち上がりのワンプレーでマルシーニョ選手に行かれたところが尾を引いてしまったので、その辺は少し難しかったなと思います。


ホーム川崎戦(5/26)と山口監督が指揮したアウェイ川崎戦(9/26)と違う点は、前半の出来の違いが挙げられるかと思います。
アウェイ川崎戦(9/26)はハイプレスを仕掛け、それがはまり、先制点を奪うことに成功しています。湘南のゲームプランが上手くいったことにより、全体が攻撃的なポジショニングをとれました。よって、プレス強度だけでなく、攻撃時の強度(攻撃のためのフリーランニング、スプリント)も高かったように思えます。また、相手に押されて、ディフェンスラインが大きく下がったシーンは見られず、相手のビッグチャンスも湘南のビルドアップからのミスを突かれた1つだけのように思います。前半は湘南のペースと言っても過言ではないでしょう。
一方ホーム川崎戦(5/26)では、前半に押される時間帯が長くありました。特に前半の最後は、浮嶋前監督のコメントにある通り、完全にディフェンスラインが下がってしまう状況でした。どちらかというと川崎のペースだったことがわかります。
前半から攻撃的に行けたことで、守備だけでなく攻撃にも強度が必要だった山口監督と、前半は川崎の攻撃をしのぐ方に注力させられた浮嶋前監督。
どちらが最初に足が止まるといえば、山口監督のチームの方でしょう。ただ前述の通り、浮嶋前監督のチームは後半始めから攻撃的でしたし、終盤は強度を保てず失速するわけです。
データを見ても、総走行距離とスプリント数も浮嶋前監督時代のほうが高いわけですから、私には正直、山口監督のチームのほうがプレス強度が上がっているとは言えないと思います。故に、浮嶋前監督と山口監督のゲームプランにはさほど違いがなく、浮嶋前監督が指揮をしたからといって、勝ち点が取れる可能性が上がったとは言えないと私は思うわけです。
あと、アウェイ川崎戦(9/26)で湘南が失速する理由は前半の高い強度だけでなく、他にもあると私は思います。川崎がうまく立ち位置を変え、湘南が対応できなくなるという部分の話なのですが、その部分はサッカーライターの今﨑さんの記事を一読いただければ、理解いただけるかと思います。

少し話が長くなりましたので、川崎戦のことはここまでとして、横浜FM戦は端的に話そうと思います。

結論から言うと、浮嶋前監督が指揮したアウェイ横浜FM戦(4/3)よりも山口監督が指揮したホーム横浜FM戦(10/1)のほうが強度が低いにも関わらず、決定機が相手より多く、そして相手の決定機が極端少ないので、データ的に見ると富士石さんの主張はほぼ間違っているということになります。
ホーム横浜FM戦(10/1)は、前半と後半の開始10分まではハイプレスを仕掛けますが、それ以降はミドルプレスに切り替えて、コンパクトな守備陣形になるようにオーガナイズされていました。前節の川崎戦よりも強度が落ちたのはミドルプレスへの切り替えが大きな要因だと思います。

スライド3

失点後は、相手からボールを奪うため再度ハイプレスを仕掛けます。ハイプレスにはかなりの運動量(プレス強度)が求められますが、そこは交代で入った高橋諒選手と古林選手が十分に働いていたことにより担保できていたと思います。試合内容に関しては、これもまた今﨑さんの記事をご覧いただければと思いますが、横浜FMの攻撃をほぼシャットアウトしていたのがわかると思います。


アウェイ横浜FM戦(4/3)を思い返すと、横浜FMには決定機が何度もありました。得点以外の横浜FMの決定的なシュートが3回ほどありますが、そのシュートはポストにあたり、湘南は失点を免れています。試合は引き分けに終わりますが、間違いなく”負け”でもおかしくない内容でした。
横浜FM戦に限った話をすれば、データ的に見ても浮嶋前監督時代より山口監督のチームのほうが限りなく”勝ち”もしくは”引き分け”に近かったのではないでしょうか。そして、浮嶋前監督が指揮をすれば勝ち点を得る可能性が上がったとは言えないということです。

3.山口監督で変わったこと

浮嶋前監督も山口監督も相手を見て、ゲームプランを練っていることに違いはないと思います。局所的に見ると、戦術が変わっているように感じたかもしれませんが、浮嶋前監督もハイプレスとミドルプレスを使い分けることをしていましたし、相手によってプレス強度も変わるわけです。大局的にみると山口監督の守備戦術は浮嶋前監督の時代のものとほぼ変わっていません。

やはり山口監督になって大きく変わった点は、ポジショニングの整理によるビルドアップの向上だと思います。細やかな説明をここでは省きますが、ビルドアップの向上によって、パス回しがスムーズになり、チャンスが増えたと私は思っています。ビルドアップの向上はデータにも現れており、第21節のアウェイ神戸戦の舘幸希選手のパス成功率は68%だったのに対し、第30節のアウェイ川崎戦ではパス成功率が91%と高くなっています。

4.富士石さんのブログとTwitterについて

私自身、富士石さんの意見に賛同や同意できる部分がたくさんあります。今回、反論みたいな形でこの記事を書いてはいますが、富士石さんの記事にリスペクトを込めて、丁寧に仕上げたつもりです。サッカーは人によって視座が変わるものです。故に様々な見方や意見があって然るべきで、面白い点だと私は思っています。そういった意味では、この記事も決して正しいものではなく、ただのひとつの意見にすぎないと思って一読いただけると幸いです。また、私は富士石さんのブログをいつも楽しく拝見している身です。新しい記事がまた読めることを心待ちにしております。


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