飼い猫の爪が伸びすぎていた件
iyamori
「ねえお母さん、スナフの爪が痛そうだよ」
「うん、、分かってるんだけどさ〜
それ多分病院連れて行かないと、お母さんにはムリと思うのよ〜」
「連れて行こうよ」
「んん多分すごく高いと思う」
「えええ、、いくらぐらい?」
「卵巣の手術した時で20000円。もっとだったかも」
「それよりは安いでしょ?」
「うん、たぶん」
「出すよ」
え!!ホントに?
横浜のyamoが暮らすマンションの一室に長女がフラッと立ち寄った日。
yamoは飼い猫を撫でながら長女から出た言葉がきっかけで、その生涯で2度めとなるペットクリニックに飼い猫を連れて行く。
***
yamoが元夫と離婚した直後に入れ替わるように我が家で飼うことになった猫がスナフキンという。
女の子なのにスナフキンと名付けた。
21年も経つんだな〜と思い出す。
当時、なんとなくムーミンに出てくるスナフキンが好きだったというだけの理由でそう名付けた。
yamoも娘たちも好きだったからそれで良いになった。
当時のyamoたち親子は、狭くて古い湯河原の団地で暮らしていた。
離婚を決めた時、長女はまだ小学校の5年生。次女は小学校の2年生だった。
離婚はyamoが望んだ。
たった1人でやるしかない育児に疲れ果てていた。
仕事で帰れない夫を憎んだ。
働いてくれていることに感謝せねばという論理に苦しんだ。
どれくらい自分が寂しいかということには気づけていなかった。
当時、肝心の夫には何も言わず、両親や姉にも元気なふりだけして何も言わずに、友人や知人にどれだけ現状を語っても、自分の本当に苦しい思いというのを、自分自身が分かっていなかった。若かった。浅はかだった。ただただ愚かだった。必死で愚かだった。
そして、結果、夫を突き放して、代わりに我が家に入ってきたのが猫だった。
***
湯河原のその団地は動物を飼ってはいけないということになっていた。
それもそうだけど、yamoは基本的に娘たち以外の誰かの面倒を見たいとは絶対思っていなかったので、スナフもなんなら飼うつもりは無かった。
でも、唯一と言っていい数少ない友達のMちゃんの紹介で面会したスナフは特別だった。
yamoの両の手のひらにすっぽりと収まる程度の丸いその生き物は、ピャピャと鳴いて動いた。
yamoがそのMちゃんに誘われて出かけた先でスナフは待っていた。
21年前の5月だ。
ダンボール箱の中には3匹の子猫が固まるようにして入っていた。
やっと毛が生えそろいだしたところだという説明を受けた。
猫を拾ってしまった人に、好きな子連れて行ってちょうだいと言われて、飼うつもりはなかったはずなのに、yamoは迷わずにスナフを自分の手に乗せた。スナフはまるまる太って、3匹の中で1番大きかった。
シュッと伸びた尻尾も気に入っていた。
目と耳が大きくて、赤ちゃんなのに美人だった。
一緒に連れて行った次女の手にも乗せてやった。
小学2年生の次女がワーーと喜んだ。
かわいいね。
うん。
連れて帰ってみる?
うん。
まだ拾ったばかりで体格も安定していない状態なので、ミルク飲ませてもう少し太らせるから、2ヶ月後にまた来てねと言われて、とりあえずはその日は帰ることになった。
7月。
子猫が狭い団地の部屋に来た。
布団や娘たちのリュックにオシッコをされてyamoはヒステリーを起こした。
ベランダを伝ってどんどん他所のうちに行ってしまって謝りに行ったりもした。
長女はたぶん猫のアレルギーも持っていた。
鼻がぐずぐずだった。目も痒そうだった。
更に襖や壁、柱も爪でボロボロにされた。
月日は経ち、長女が成人式を終えた春に湯河原を出て行った。
その3年後には次女も成人式を終えてから湯河原を出て行った。
yamoはずーーっと猫とは暮らし続けていた。
仕事へ出かける時には独り言のように猫に声をかけていた。
帰ってくれば真っ先に猫のエサとトイレを心配した。
猫が吐いた汚物を踏んづけてオエっとなることもしばしば有った。
湯河原を離れて、横浜に転勤が決まった時には、お金も労力も猫1匹の為に本当にたくさん使った。猫を飼うって贅沢なことだったんだな〜と改めて思った。憎ったらしいし、時にはうるさいな〜とも思うような存在。でも、いつも必要な時に必ず横に居てくれるという丸くてあったかい生き物。
そんなこんなな飼い猫スナフの歩き方が少しおかしいということには、長女に言われるよりは少し前にyamoはもちろん気づいていた。
爪がやけに伸びているな〜とも気づいていた。
おでこにイボのようなものも出来ていた。
でもどちらも特別手をうってはいなかった。
言ってももう20歳を過ぎた猫なのだと思うようにしていた。
猫の寿命が15歳程度とされている中で、スナフはもう充分生きているんだからと思うようにしていたのだ。
そして、金銭的な心配はやっぱりどうしてもした。
簡単に病院に連れて行けないと思っていた。
でも、長女に「出すよ」と言ってもらえて、心底ホッとして嬉しくて、yamoは翌日にはスナフを病院に連れて行った。yamoは本当はずっとそうしたかったんだなと気づいた。
yamoはなんとなくいつも後ろめたかった。
病院に行っても後ろめたかった。
ここまで放っておいたんですか?と、ひどい飼い主ですねと、動物先生に思われているんじゃないかと思うとビクビクした。
処置台に乗せられて、カラーを首に巻かれておとなしくジッとしているスナフ。
きっと動物先生にそんなふうに思われているんだろうなと思いながら、でもとにかくyamoがどう思われようと、爪を処置してもらわないと帰れないという気持ちだった。
1番長く伸びてしまっている爪は、伸びて伸びて二重円を巻いていた。
アンモナイトみたい。
その爪が肉をえぐり、ただれていた。
以前yamoが爪を切ろうと触ろうとすると、嫌がって触らせてくれなかった。
痛かったんだろうな、、と想像すると胸が苦しくなった。
こんなにひどい状態だったなんてと気が遠くなった。
そこで既視感があった。
***
次女。
次女は怪我の多い子供だった。
4歳になっていただろうか。もっと小さかったかもしれない。
転んでおでこを切った時に、やっぱり病院の処置台に乗せられて、顔には緑色の布をかけられていた。「お母さん、動かないように押さえてくださいね」と、看護師さんと先生に言われて、「我慢してね」と、次女の手を握りながら肩を押さえた。
傷口の近くに麻酔の注射を打つ。
すぐに、いいいいいーーーっとは泣いたけど、すごく次女は我慢して泣いた。
次女はそういう子供だった。
怖いし痛いしでギャーギャー騒いでもしょうがない場面で、歯を食いしばって我慢して泣く。
yamoは、この子は治療されているということを理解しているという気がしていた。
なぜかいつもそういう時にyamoはゴメンねゴメンねと思っていた。
誰に謝っていたのだろう?
ゴメンねはもちろん次女に対してだったとは思うけれど、もっと深いところで、スミマセンスミマセンと思っていた。ちゃんと出来なくてスミマセン。こんなことになってしまってスミマセン。
***
いつもなんとなく次女と飼い猫のスナフが被る。
次女を呼ぼうとして、「スナフ!」と呼んでしまうとか 笑
はいコレと、次女にご飯を渡しながら「スナフの分」と言ってしまうとか 笑
首にカラーを付けられてじっとしているスナフ。
ニャーニャーと鳴いてはいるけどじっとしていた。すごく我慢しているように感じた。
長く伸びた爪をバチんと切られた。だいぶ根本から切られた。
麻酔はかけられない。
もう20歳を超えた猫に、麻酔は死んじゃうリスクの方が強いらしい。
我慢してね。頑張ってね。ゴメンねゴメンね、、と、あれ?これ?
結局、スナフはいっぱい我慢して、伸びた爪を全部切らせてくれた。
大鳴きすることも無く、逃げちゃうことも無かった。
麻酔無しで痛みに耐えるってどう?
アレ?でも動かないからそんなに痛くない?と言うyamoに
動物先生曰く、「とても我慢強い猫ちゃんですね。本当はすごく痛いはず」だって言ってました。やれやれ。そんなに痛いのに。。。
スナフは、治療されているって理解しているんじゃないかなと思った。
これが終われば楽になるよって分かっているんじゃないかな〜と思ってしまった。
私はもうどうしようもなく苦しい。。。あの、次女に麻酔の注射を我慢させている時と同じ。とても苦しい。
そしてなぜ、スミマセンと思ってしまうのだろう。誰に。何に。
***
治療費に13000円請求されたので、「3人で折半しましょう!」とLINEを娘たちに送った。
するとすぐに返信があった。
「ありがとう」と。「お疲れ様でした」と。「大丈夫?」と。
yamoは、こんな大変な状態だったことを責められると思い込んでいた。
なぜすぐに手をこうじなかったのかと責められる気がしていた。
そしたら開き直ってやろうとかと考えていた。
yamoは、娘たちに治療費を折半してくれも後ろめたかったし、恥ずかしいとも思っていた。だから、「ありがとう」と言われたことにも一瞬戸惑った。ありがとうなの?と思ったのだ。
そこを娘たちに言ってみた。どうしてアリガトウなの?と。
そしたら、
「あたりまえじゃん。世話してくれてアリガトウだよ。病院にも連れて行ってくれてアリガトウだし、三分の一払ってくれてアリガトウだよ」と。なんと次女が。
長女は「そうそう」と、「強く同意!」のうなづくスタンプ 笑
スナフの治療中、とても心細くて苦しかったんだという話しもした。
そしたら、一緒に行ってあげれば良かったねと言ってくれた。なんと次女が。笑
泣けた。
yamoは、「1人でその場面」がただただ心細かったのだ。心細かっただけだ。
長かったな、これに気づけるまでにと思っていた。
yamoの中で、重くて暗くて硬い何かがゆるんでホロホロと落ちていった。
今回、21歳にもなるおばあちゃん猫のスナフは、麻酔無しで激痛に耐えて見せることで、yamoに「1人で背負い込むんじゃないよ」と教えてくれたのかもと思う。「結構アンタは頑張っているよ」と。そんな事を思いながら、だいぶ雑に扱ってきたことに、今度こそ素直に「ゴメンね」と思った。
スナフは、まさに体を張ってyamoを暗闇から救い上げてくれた。
そして更には、yamoは今世で娘を2人も、母親に「ありがとう」と返信が出来る大人に育てた。間違いなくこれはyamoの偉業であり、唯一の誇りだ。
最後まで読んで頂いてありがとうございました😊v
蟹座♋️に月が入った夜に
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