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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 27話

地下世界のさらに地下。アキモトを含めた5人はエレベーターに乗り込み、そこを目指した。

「どこまで降りるんだ?」

ワンはアキモトに尋ねてみたが、アキモトは何も応えない。イジュンのほうは行き先がわかっているみたいだ。その証拠に何の不安もみせない。まぁこの男はこういう性格だから、知っていようが知っていまいが関係ないか、とワンは思った。

「着いたぞ。」

エレベーターの扉が開くと、その目の前には無数のコンピューターがそびえたっていた。

「これは、スパコンか?それにすごい数だ・・・これだけで数十億、いや百億をこえるかもしれない。こんなものがあるって、今までよく気が付かなかったな・・・」

呆気に取られているワンに、アキモトが言った。

「当然だ。イジュン君と秘密裏に行っていた研究だからね。こっちだ。」

4人はアキモトに促され、1台のPCの前に来た。そっちのモニターを見ていてくれ、とアキモトが言うと、目の前のPCを操作し始めた。モニターには何やら数値が映し出されている。

「ラグナ・・ロック・・・計画?あ、ルリちゃん!」

リンは指を差し、ルリの名前を呼んだ。マリとルリは一卵性の双子だから、一瞬見ただけでは見分けがつかない。それを瞬時に見分けるとは、さすが2人の世話をしていただけある。

モニターには「ラグナロック計画」と表示され、その下にはルリが写っていた。マリはいないのか?とシンは尋ねたが、アキモトは黙ってPCを操作している。

「これは・・・」

シンはモニターを見て、あることに気付いた。あらゆる計算の結果、マリのほうにはサラと同じ器としての細胞が一切存在せず、これからもその細胞が発現することはないということだった。一度、血液型を調べるために彼女たちの血を採ったことがあったが、そこからここまでシミュレーションできるとは。改めてここにあるコンピュータのすごさを思い知った。

「まだある。」

アキモトはそう言うと、次の画面を表示してみせた。これは一体何を意味しているのだろうか。

「こんな方法で、ルリはサラを追い越すことができるのか?」

「ラグナロック計画は、命の巫女計画の逆を行く。言わば神に抗う計画だ。ルリくんはこの方法でのみ、サラ君を超えられることが導き出されたのだよ。」

神に抗う計画。名前こそ物騒なものであったが、理論的には完璧なものだった。それも、ここにあるコンピュータが導き出したのだろう。

「私はね、長年音楽に携わり、その無限の可能性を知った。音楽療法もここにあるコンピュータを使えば、その理屈、必要性というのが数値で示される。これを応用したものをルリくんに当てはめてみた結果、そしてサラ君の今後の状態をシミュレーションしてみた結果、ある時点でその力が逆転することがわかった。」

画面にはten years later、つまり10年後と書かれていた。
10年間絶えずある一定の音楽を聞かせ続けることで、サラの細胞分裂より速く、ルリの細胞は活性化する。

「その場所は地上だが、すでに用意してある。オープンはまださせていないがね。」

それは秋葉原のドン・キホーテの8Fの『劇場』と呼ばれる、アイドルグループがパフォーマンスを披露する場所ということだった。

「ここにルリを10年間閉じ込めるのか?」

「閉じ込めるというより、今のサラくん同様、眠っていてもらうと言ったほうが正しいだろうな。夢の中で歌を聞いていてもらう。」

「ちょっと!勝手に話を進めないでよ!10年間眠らせる?そんなこと、サラちゃんだって望んでいないよ!」

リンは怒りを露わにし、アキモトへ叫んだ。

「何も今すぐではない。今の2歳と言う年齢では肉体が耐えられない。6歳の誕生日を迎えた歳まで待たなくてはならない。」

約4年後。そこからさらに10年経たないとサラは目を覚まさない。だが、今のシンにはこれが最短の方法であることはわかっていた。

「4年のうちに新たな方法が見つかるならそれでいい。むしろそのほうがいいだろう。この計画が完遂されるのは、これから約14年後だからね。それを速いと思うか遅いと思うか、君たち次第だ。私は私なりに裏で準備をすることにする。その間に変更があればいつでも言ってくれたまえ。すぐに対応する。」

そう言うと5人はその部屋を出て、元の地下へと戻っていった。

アキモトは地上へ帰っていった。残された4人は黙ったままラボから動けないでいた。シンは、もしオレがあのコンピューターを使って新たな理論を構築できればと考えていたが、今のところ何も思い浮かばなかった。それだけ事態は困難を極めていたのだ。

「まぁ、シンの『補完計画』に比べりゃ時間はかからないだろうが、14年は長すぎるな。それに、ルリちゃんの意志だってある。」

「ルリちゃんはまだあの年で責任感が強い子だからね。6歳になったらお母さんを助けたいって、絶対に志願すると思う。」

ワンとリンは静かに話した。シンはその会話が聞こえてはいたが、何も言えないでいた。

失った家族を取り戻すために、また家族を失う。とても正気ではいられない。不安そうなワンとリンの顔を見て、シンはついに言葉を発した。

「オレはサラを奪ったのは神ではなく、アボやロンを含めた地上の人間だと思っている。ラグナロック計画は確かに完璧だった。誰が見てもな。だがそれでは、オレたちの気持ちが晴れないと思う。」

確かにな、とそれまで黙っていたイジュンが口を開いた。それでどうする?と聞くとシンは、

「このアンダーグラウンドをオレらの手中に収める。ロンは住民を人類兵器と言ったが、そんなもの地上には絶対に渡さない。オレらで、アンダーグラウンドの民全員で地上に報復する。」

リンはその発言に驚いてみせたが、シンくんがそれでいいならアタシは力を貸すよ、と言った。ワンも悩んでいたが、もはや運命共同体だからな、地獄の底までついてくぜ!と言った。

「イジュン!君の会社でオレらを雇ってくれ!君ならこのアンダーグラウンドでの信頼も厚い。」

「オレよりもお前ら3人のほうが信頼されていると思うがな?そこでどうだろう?4人でここに、新たなカンパニーを設立させないか?」

ここならサラの維持と住民の治療を同時に行える。悪くない話だ。

「決まりだな。ここに新たなカンパニーを立てよう。」

止まっていた時計の針が、ようやく動き出した瞬間だった。

#創作大賞2023  

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