見出し画像

【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 28話

あれから4年、双子の姉妹は6歳になっていた。自分たちの意志で母親のもとへ行き、おしゃべりをしたりしていた。サラは相変わらず眠ってはいたが、子供たちの話を静かに聞いているようにも見えた。
カンパニーの方も経営は順調だった。能力を発現したものは雇われ、その使い方や制御を身に着けていた。トガは今や、自在に炎を扱えるようにまでなっていた。

ふいにアキモトが姿を現した。この4年間、何度か足を運んできてくれたが、ラグナロック計画を果たそうとしているシンに、黙って協力をしてくれていた。地上への報復については、シンは何も言わないでいた。

「本当にいいのか?10年間ルリくんと会えなくなるんだぞ?」

「わかっています、先生。でもこれはルリの意志でもあるんです。お母さんを助けたいってね。だから、父親はその意志を尊重するまでです。」

シンはいつからか、アキモトのことを先生と呼ぶようになっていた。アキモトがいなければ、ここまで行動に移すことはなかったのだから。敬意の表れだった。

「ルリちゃん、辛くなったらすぐにおとうさんに言うんだよ!マリはここでママと待ってるから!」

姉のマリは妹と離れるのが嫌ではじめは泣きじゃくっていたが、別れ際には精一杯の笑顔を作ってみせた。

「うん、わかった!お姉ちゃんもおかあさんのそばにいて、守ってあげてね!」

ルリは泣いていたが、その目には闘志の炎が宿っていた。自分にしかできない大役。弱冠6歳でそれが理解できているとは思えないが、ルリは覚悟を決めているようだった。

・・・・・

久しぶりの地上。日の光がまぶしすぎる。シンはルリに日傘をさしてやった。ルリは初めての地上に少し興奮していた。人がいっぱいいるね!あの走っている乗り物は何?お空って青い色してるの?シンは一つ一つ丁寧に答えてあげた。もうすぐ、しばしのお別れがやってくる。それまでは、精一杯父親でいてあげよう。そんな想いだった。

秋葉原の町の一角にドン・キホーテがそびえ立っていた。劇場と呼ばれる施設は8階にあり、そこへは関係者だけが乗れるエレベーターを使って上った。劇場に入ると二つの大きな柱が天井と繋がっていた。この柱の一つにルリが入ることになっている。天井が落ちてきたりしないだろうな?とシンが聞くと、大丈夫この2本はフェイクだ、壁でしっかりと支えられている、とアキモトは答えた。

一柱には扉のようなものがついてあり、そこを開けるとサラの入っているようなカプセルが現れた。カプセルから伸びた何本もの管は、上へ伸びたり下に伸びたりしていて、ルリの体の状態を維持するには十分だった。

ルリはカプセルへと入った。

「おとうさん、わたし頑張ってみる!だから、おとうさんも頑張ってね!」

「あぁ。強くなったなルリ。昔はお姉ちゃんの後ろばかり追いかけて、泣いてばかりいたのにな。何かあったらすぐにおとうさんに言うんだぞ。ずっと見ているからな。」

ルリは泣きべそをかき、父に抱きついた。父親もまたルリを抱きしめた。
時間だ。そういうとアキモトはカプセルを閉めた。すぐにルリは眠りに入り、そして液で全身が満たされた。呼吸は安定している。シンはカプセルに触れ、

「しばらくのお別れだ。おかあさんのために頑張ろうな。」

そう言うと柱の扉を閉めた。

・・・・・

シンとアキモトは地下へと帰ってきた。ルリちゃんどうだった?と聞くリンに、心配いらない、あの子は親の知らないうちに成長していたんだな、とシンは言った。リンはマリを抱きしめ泣いてしまった。ワンがリンの肩にそっと手を添えた。

薄暗い研究室。サラの眠るカプセル。その隣にシンは、ルリの様子がわかるモニターを設置した。これならルリをいつでも見ていられる。それに、母親のそばにいれば安心していられるだろう。シンはサラのほうを向くと、笑っているかのように見えた。

これから10年。長い戦いになる。おそらくロンは仲間を連れ進撃してくるだろう。戦いは避けて通れない。多くの血も流れるだろう。だが、そんなことはさせない。このアンダーグラウンドはオレの家族がたくさんいる。絶対に守ってみせる!

シンは固く拳を握り、そうサラに誓って見せた。


◆作者より◆

はじめまして。作者のヤミです。
ここまで『秋葉原地下戦線』をお読みくださり、また同時に愛しても下さり、心より感謝申し上げます。
コンテストへの出展は、ここまでとなります。ですが、この物語はまだまだまだまだ続きます。
第三章では、ついにレンが「アンダーグラウンド」へと足を踏み入れます。
レンが何の能力を授かったのか?トガやリツが地下で何をしでかしたのか?果たしてシンは?サラは?ルリは?そして・・・地上のマユは一体どうなってしまうのか?徐々に明らかにしていきます。
続きは、私、ヤミのクリエイターページにて順次アップしていこうと思っています。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

クリエイター・ヤミ

#創作大賞2023  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?