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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 14話

リンはサラから血液を採取し、遠心分離器にかけた。
シンとワンは、この数時間のサラのバイタルのデータを確認していた。

「この波形・・・ただの点滴が入ったときと同じ挙動をしているな。」

「いや、それよりも単純に眠っているときのほうが近いかもしれないぞ?」

本当に彼女の体はすべての細胞を受け入れたのだった。ワンが、驚いたよと言うと、サラは恥ずかしそうに笑ってみせた。

「おーい、ヤローどもぉ~。こっちは準備できたぜぇ~!」

リンがシンとワンを呼ぶと、末期がん患者の病室へと急いだ。そのとき、

「あの、私も同席してよろしいでしょうか?こう見えて私も科学者の一人ですから。」

か弱い女性、被験者の女性という意識が強かったため、彼女が科学者であることを皆すっかりと忘れていた。

「もちろんいいですよ。それに、あなたには患者を見届ける権利がある。」

点滴はまだ外されていなかったが、彼女の足取りはしっかりしていた。途中リンに「シンちゃん、ちゃんと支えてあげて!」と何度も言われたが、シンは無視することにした。

患者は息こそしてはいるもの、苦しそうな表情を浮かべていた。ステージ4、いやそれ以上に悪化が進んでいるのだろう。早くなんとかしなければ。

「ここの病棟に隔離されているのは全部で6名だったな。一気に投与するぞ。機器は大丈夫か?」

「オッケーオッケー。今見てきたけど、数値は取れてるぞ!」

「こっちのほうもオッケーだよ~!」

3人は患者を各2名ずつ、ほぼ同時刻に静脈注射を行った。サラはシンのそばで患者を見守っていた。

「拒絶反応は出ないはずだ。もともと自分たちの細胞だからな。別室に全員分のモニターがあるから、ワンとリンはそこにいて異常があれば教えてくれ。オレとサラは実際の様子を見て回る。」

シンとサラは一番最初に出会った患者の前に座った。そのときだった!

「ん・・ん・・・」

先ほどまで息をするのも苦しそうだった患者の顔色が、みるみるうちに良くなっていき、気が付くと目を開けていた。

「私は一体・・・」

自ら呼吸器を外し、起き上がろうとする体をシンが支える。

「自分が誰かわかりますか?なぜここにいるか覚えていますか?」

シンがそう尋ねると、患者は深くうなずいた。

「えぇ、覚えていますよ。藁にもすがる思いでこの治療に臨んだ。そして、目が覚めたときには君たちが目の前にいた。君たちは彼の同僚か何かかね?」

彼とはきっとロンのことだろう。ロンの治験中は一切目を覚まさなかったに違いない。

しかし、何ということだろう?先ほどまで死に体のような状態だった者が、こうも流暢に話すことができるものなのか?投与してから、まだ10分も経っていない。

「シンさん!あっち!」

サラが別室の患者を指さすと、その患者もベットから起き上がっていた。失礼!とその場を後にしたシンは別室へと急いだ。途中他の病室が目に入ったが、どの患者も体を起こしていた。

「シンくんシンくん!そっちから見える!?みんな起き上がってるよ!病室の中を歩いている患者さんもいるよ!!」

シンは2人目の患者を見ながら、イヤホンでリンの声を聞いていた。

「おいシン、聞こえるか?患者の白血球数だが、皆減少している!とても病人とは思えない数値だ!!」

シンは3人目の患者の元でワンの声を聞いた。その患者はリンの言っていた病室で歩き回っていた患者だろう。今度は屈伸運動をしながらシンに話しかけてくる。

「大丈夫・・・なんですか?」

「えぇ、自分がまるで病気じゃなかったみたいに、かなりいいですよ。むしろ若返ったような感じさえあります。本当にありがとうございます。」

深々とお辞儀をした老人に対し、シンも頭を下げるしかなかった。
その後4人で全ての部屋を訪れたが、皆今からでも退院できそうな状態だった。MRIをとったが、がん細胞と思われるものは一つも見つからなかった。

「よかった・・・」

別室へと戻り、サラは手で顔を隠し、涙を流した。

「とりあえず1週間経過観察としよう。退院の手続きはその後だ。」

シンがそう言ったとき、入口の扉から誰かが入ってくる音が聞こえた。

#創作大賞2023  

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