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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 15話

「Congratulations!」

拍手をしながらアボが入ってくる。それにロンとイジュンも一緒だった。
シンは怪訝そうな顔でアボを見る。

「試験は成功です。ですが、まだ彼らを外に出すわけにはいきません。いつ再発するかもわかりませんからね。」

「心配無用だ。いくらでも経過を見ていてくれたまえ!所詮、二度と日の光を見ることはないのだからね。」

どういうことだ?とシンはそうアボに問いかけると、

「初めに言っただろう?この地下での出来事は地上では一切他言無用だとね。それに、彼らには帰る場所もない。」

「帰る場所もないって!?そんなのあんたに決められる権限はねーんじゃねーの!?」

ワンは怒りを剥き出しにしながらアボに詰め寄る。しかし、アボは冷静だ。

「確かにワンくんの言う通りかもしれない。だが、ここでの生活を保障すると言ったらどうかね?」

???ワンには何を言っているかわからなかった。ついてきたまえ、とアボは言うと、全員をある場所へと案内した。

「ここって・・・地上?」

リンは思わず声を漏らしていた。それもそのはず、扉を開けた先には秋葉原を思わせる街並みが広がっていたからだ。ドン・キホーテのような商業施設もいくつか立ち並んでいる。人々が道路を行き交っている姿も見られる。

「なんだここは?」

シンはアボに問いかけると、アボは歓喜の声でこう叫んだ。

「どうだ?素晴らしいだろう!秋葉原の街並みを完全に再現した!いわば秋葉原アンダーグラウンドだ!!」

街並みこそ秋葉原だが、決定的に違うのは車が走っていないこと、風を全く感じないこと、日の光が暗いことだった。空を見上げると天井があり、そこにライトがいくつもついていて、街を照らしているだけだった。

この世界はいつから存在していたのだろう?この人たちはいつからここで暮らしていたのだろう?皆、先の患者同様家族はいないのだろうか?皆、先の患者同様重い病気を持っているのだろうか?

様々な疑問が浮かび、シンは何から聞けばいいか思案していたところ、次に口を開いたのはロンだった。

「地下での生活を余儀なくされたのは、先の患者だけではない。他にも重い病にかかっている者はたくさんいる。加えて生活に困っている者、事情があって地上では生きられない者も中にはいる。」

今は500名ほど暮らしているとのことだった。受け入れは常に行っており、今後も増える見込みがあるらしい。

「それで、ここでの生活を保障する代わりに、何を見返りに要求したんだ?」

「見返りとは失礼な言葉だね、シンくん。条件だよ条件。要は命の巫女計画、いや今は新・命の巫女計画だったかね?その計画の被験者になるという条件さえのんでくれれば住まわせてあげることにしたんだ!」

私はなんと慈悲深いのだろうとでも言いだしそうなアボだったが、シンはすかさずこう返した。

「彼ら・・・いや、オレたちもここに住めということですか?」

「さすが理解がはやい!悪くない条件だろう?満足ゆくまで研究ができ、かつ生活も保障される!」

「確かにあのラボ内で一生過ごすかもしれないって思ってたから、こっちのほうがまだマシだけど・・・」

リンはそう言い、さらに付け加えた。

「ヴィトンのバッグはここでも買えるのかにゃ?」

ワンは思わず笑ってしまった。

「おい、リン!?ここにきてバッグがほしいとか、もっと他にあるんじゃねぇの?」

アボも笑っていた。

「地上の生活となんら変わらないと思っていい。普通にビジネスを行っている者もいるからね。」

やったー、とリンが喜ぶ顔を横目に、シンが口を開いた。

「地上に行き来できる人間はアボさん、あなただけですか?そっちのロンはどうなんです?」

「ロンくんはこれまでも行き来していたからね。だけどそれじゃあ君は納得しないだろう?だから、ロンくん、イジュンくん、サラくんも今後ここで生活してもらう。地上へ出ることは一切許さない。あとはアキモト氏か?彼はスポンサーだからね。ここに来て怪我でもされたら困るので、彼は地上にいてもらう。だが、ラボのあちこちでついているカメラは地上で確認できるからね?変な気でも起こすと即刻首を切られると思ってもらってもいい。文字通り首をね。」

アボはやや脅迫めいた口調で言い、ロンやイジュン、それにサラに確認する。

「異論はございません。」

「私もロンと同意見です。」

「私は・・・皆さんが一緒ならどこでもいいです。」

サラはシンがいればそれでいいと言いたかったが、恥ずかしくて伝えることができなかった。代わりに顔を赤らめている。

「まぁリンの言うように、ラボだけでの生活に比べりゃかなりマシかぁ。」

そう言ってシンは?と尋ねるロンに対し、

「選択の余地はなさそうだな。それに大儀も任されている訳だからな。」

そう。このアンダーグラウンドにいる重症患者を救うことができるのは、自分たちをおいて他にはいないのだ。皆希望をもってここで暮らしている。

「全員大丈夫そうだな。必要なものがあれば何なりと言ってくれたまえ。すぐに手配する。そうだ、君たちの生活の拠点はこの地図に書いてある。とりあえず行ってみるといい。」

ラボとこの街を繋ぐ扉の鍵は君たち6人分用意してある。そう言い残し、アボは地上へ戻っていった。

#創作大賞2023  

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