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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 22話
3日後、サラを入れる器の準備が整った。中はホルマリンが少量混じった組織液で満たされ、養分の他、他者の新しい細胞が常に循環している。赤ん坊が血液を通し酸素を取り込むように、サラも同様な形で酸素を取り込む。
シンはお気に入りの服を着せたサラを抱え、その中へと優しく投じた。時折呼吸が泡となって出ている。サラのバイタルを測ってみたが異常は見られなかった。
「サラ。オレはお前が目を覚ますまで、ずっとそばにいてやる。だから今は安心して休んでくれ。たまに子供たちだって連れてくるからさ。」
シンはそう言ったまま、サラの前を離れなかった。
ワンがサラの入っている中の組織液を吸引し取り出すと、すぐさま重症患者たちへ投与した。
10分もしないうちに、その患者たちは甦りを果たした。
「患者に対しては問題ないようだな。あとはサラさんの容体だけど・・・」
ワンが言うのも聞かず、シンはモニターを眺めていた。
「この中に入って、むしろ数値が回復している。やはり、新しい細胞を常に取り込み続けていないといけなかったようだ。辛い思いをさせてたな・・・」
シンは俯いた。まるでサラに謝罪をしているようにも見えた。
こうして新・命の巫女計画は再始動した。
・・・・・
薄暗い研究室。サラはそこに一人で佇んでいたが、シンは患者の様子を見に行く以外、常にそばにいてあげた。
「サラ?聞こえているか?今日は君の誕生日だよ?おめでとう。当の主賓がこれだと、お祝いしにくいよな・・・」
シンはそう言うと膝から崩れ落ちた。顔には涙を浮かべている。
「去年は楽しかったよな・・・ワンがシャンパンのコルクで窓を割ったり、リンが酔っ払った勢いで騒いでお隣さんには怒られるし・・・子供たちはなんだかわからないけどずっと泣いていて、サラはゆっくりなんかしていられなかったし・・・もう、あんな風に笑って過ごせないのかな・・・」
シンは一人泣いていた。涙が止まらなかった。それだけ辛いのだろう。
「おーい、シーン!サラさーん!!」
ワンとリンが研究室へと入ってきた。それも大きな荷物を持って。
シンは涙を拭うと、こんな時間にどうした?子供たちは?とリンに聞くと、あっちの部屋で寝てると言った。それよりも、
「今日はサラさんの誕生日だろ?お祝い持ってきた!!」
「アタシからは、じゃーん!!手作りケーキぃ~!!マリちゃんルリちゃんの3人でつくったんだよ~!!」
うらやましいだろ?とシンに言って怒られるかと思ったが、逆に感謝された。
「ありがとう。覚えていれくれて。」
シンはまたしても涙を浮かべていた。
「おいおい、泣くなよ~。今日泣いていいのはサラさんだけだぞ~。」
「そうだよシンくん!君が先に泣いちゃサラちゃんだって泣きにくいんだぞっ!」
2人はそう言うと徐にシャンパンを取り出した。
「おい、ワン。サラにぶつけたら本気で怒るからな?」
「お、おう、そうだな。そしたら今年は反対の方を向いてコルクを開けることにするよ。」
「是非そうしてくれ。それとリン。周りに誰もいないからって騒ぐなよ?」
「え~~っ。逆に騒いだ方がサラちゃん目覚ますと思ってマイクも持ってきたのにぃ~~。」
それだと子供たちのほうが目を覚ます。シンにそう言われ、リンは持っていたマイクをカバンの中にしまった。
ポンッ。
シャンパンのコルクが開き、シン達3人はグラスに注いだ。嬉しいことに、サラの分も用意してくれていた。
「それじゃあ行くよ!サラちゃんっ!お誕生日おめでと~~!!せ~のっ、かんぱ~い!!」
リンが掛け声を言い3人は乾杯をし、そして、そのグラスをサラのグラスに当てて見せた。
サラは笑っているかのように見えた。
呼吸の泡が目元につき、まるで泣いているかのようにも見えた。
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