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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 24話

その日、患者は10名ほど来所した。ずっと待たせていた分、多くの患者の対応をしなければならない。しかし、サラのカプセルには一か月以上先の患者の細胞液が循環しており、いつ、何名でも対応が可能だった。
患者の名前はエン、ステイル、ライ、モズ、トガ、ソウ、ミライ、カイ、カラスマ、チェルシーと言った。10名全員、先天性の疾患やその他臓器不良を患っていた。
カプセルから培養液を抜き取り、そのまま患者10名に投与した。遠心分離することなく直接投与できるということは、それだけこのカプセルの中の液の状態が良いという証拠だった。
やはり10分ほどで皆甦りを果たした。うそっ・・・患者の一人であるチェルシーは難病の持ち主で、地上では治療法が見つからず、もって半年の命だろうとまで言われていた。それがどうだ?たった一瞬で治ってしまったではないか。

「お姉ちゃん・・・」

「良かったな、チエ・・・」

姉のキャサリンは生まれつき片方の肺が機能していなかった。キャサリンは妹ほど重症ではなかったため、別日に治療を受けることとなっている。

そのとき、別の病室から大きな声が聞こえた。

「お、オレの手が・・・も、燃えているっ?!」

叫んでいたのはトガだった。ワンは近づき確認したが、本当に燃えていた。すぐさまバケツに水を入れ、トガの手にかけた。火は何もなかったかのように消えた。

「やけどの可能性があります。ちょっと手を見せてください。」

ワンはそう言いトガの手を取ったが、やけどの跡はおろか、毛の一本も燃えてはいなかった。

「これは一体・・・」

シン見てたか!?と部屋のカメラに向かいワンは叫んだ。モニタリングしていたシンも呆気に取られていた。

「何が・・・起こったんだ・・・?」

すると、報告書を書いていたロンがこう呟いた。

「あのトガという男。もしかすると、もともとの体温が高く、それに皮脂の分泌が多いのかもしれない。治療で細胞が活性化し、相重なって発火したのかもしれない。」

「そんな患者、これまでも何百人といただろう?なのにここにきてなぜ、いわば超活性化するにまで至ったと言うんだ!?」

「サラくんがカプセルに入って初めての患者のときは、こうはならなったよな?」

シンとイジュンは考えてみたが、答えは出なかった。データを見ても、サラの体に異常はみられない。

「細胞の重度の暴食やカプセル内の好環境。すべてが揃い『奇跡』が起きたのではないか?」

ロンは笑いながら言うと、奇跡だと?とシンに詰め寄られた。

「あの炎を見て奇跡だと言いたいのか?ロン!さてはお前、何か知っているんじゃないか!?」

さて、どうだかな?と言ったロンの顔を、シンは思い切り殴った。ロンは椅子から転げ落ち、シンを睨みつけていた。

「今の行動、暴行罪として訴えてもいいんだがな?」

「あいにくここは地上ではない。地上の常識を当てはめてもらっては困る。」

「そうだな・・・じゃあこれも裁けないってことでいいんだな?」

ロンは手をシンに向け振りかざすと、弾丸のようなものがシンの体中にささった。

「くっ・・・何だ・・・?オレは・・・撃たれたのか!?」

かろうじて首から上は両腕で守ったが、それより下は血だらけだった。シンは立って入られず、膝から崩れ落ちた。だが、何かおかしい?撃たれたのなら体の中に弾の感触があってもおかしくなかったが、それが全くない。貫通したのか?と思い後ろを振り返るが、そんな形跡はなかった。

「何をした!?」

シンはロンのほうをみると、ロンの掌の上に水がたまっていた。

「素晴らしい!本当に素晴らしいよ、命の巫女!!わたしにもこんな力を与えてくれた!」

そして掌の水を思い切り壁に向け放つと、一滴一滴が弾丸のような丸みを帯び、壁に当たりひびを入れた。穴の開いた箇所もある。そして再び、掌に水をためた。

「その水、どこから・・・」

「私の体からだよ!細胞活性により汗腺からの水分の分泌が多くなった結果だ!先のトガと同じということだよ!」

急にラボの扉が開き、シン!と言いながら入ってきたワンは、シンの姿を見るやすぐに駆け寄り、肩を貸した。

「大丈夫か!?何があった!?」

「少し、撃たれた・・・だが幸い、水滴は表皮を抉っただけだ・・・」

撃たれた?水滴?ワンにはシンが何を言っているかわからなかったが、状況をすぐに理解した。

「ロン!お前、シンに何してくれてんだよ!?」

「研究はこれで完成した!新・命の巫女計画には続きがあったのだよ!」

ロンはさらに続ける。

「神の領域に入った人類は、ついに神の怒りを買う!現にサラくんをみれば如何に神の怒りを買ったかがわかるだろう?しかし、人類はそれでも神に抗うことにした!その怒りを逆に利用して、神に一矢報いることにした!それが、新・命の巫女計画の第二幕だ!」

シンはそんなこと考えていなかった。おそらく、4年もの間にロンが何かを構築したのだろう。データは全て、ロンを通していた。

「これが命の巫女から授かった『能力』だ!」

ロンは両の掌から水を放出させた。まるで洪水を思わせる水の渦はラボ内の機器を一瞬でショートさせた。

「やめろ!」

シンはそう言うと、ロンはピタッと動きを止めた。

「いやぁ、スッキリしたよ。まさかここまで思い通りに操れるのだからね。」

「アボはこのことを知っているのか?」

「知っているも何も、アボ自身が発起人だからね。初めからこうなる未来は予測できてたんじゃないかな?」

そうなれば先見の明があるってものだ。さすが首相にまでなっただけある。

だが、

「お前らみたいな能力者を作って、アボは何がしたいんだ!?」

「人類兵器だよ。各国、表向きでは核兵器を持ってはいけないことになっているが、実際のところどうだね?アメリカ、ロシア、北朝鮮。表立って核の保有を表明してるではないか!それに比べ日本は従順だ。約束をきちんと守っている。だから付け入れられるスキが生まれるんだ!」

ロンはさらに続ける。

「私のような者、一人一人が核となり得れば、他国の脅威は免れることができるのだよ!」

だからあれほど防衛費を確保したかったわけだ。その莫大な予算で研究施設、アンダーグラウンドの設立、生活費を賄っていたのだ。

「さてと。君たちにはさらに兵器たちを量産してもらわないといけないからね。ここで殺すわけにはいかない。」

生きていたモニターを見ると、ひとりの男が感電しているように見えた。イジュンはラボを離れ、その場に急いだ。

「きたねぇぞ、ロン!」

今度はワンが声をあげた。それもそのはず。このアンダーグラウンドで暮らしている住人は皆治療を受けるために、地上での戸籍を捨ててまでここにいる。治療をしない訳にはいかない。それに、彼らから細胞をもらわないとサラは生きていくことができない。すなわち、兵器と呼ばれる人間を作るしか道はないのだ。

急に地震が起きた。もしかしたら10名のうちの誰かが能力を発現したのかもしれない。だが、ワンはシンを置いてその場から離れることができない。

「ちょっと今の地震なに!?地下にきて初めて感じたんですけど~。」

リンだ!ラボでなにが起きているかわかっていないリンは、目の前の状況をみてその場に座り込んでしまった。

「リン!逃げろ!!」

「はははっ・・・急に腰が抜けて、立つことができないにゃ・・・」

ロンは掌の水を圧縮し飛針のようなものを作ってみせ、リン目掛けてなげた。リンは思わず目をつぶった。目を開けた時にはワンがリンの目の前に立っていた。ロンの放った水の矢はワンの体を貫き、やがてそれが溶けると一気に血が溢れ出す。

「ワンくん!?なんでっ・・・」

「・・・なんでって・・・シンみたいなこと言うけど、お前に死なれちゃオレが困るからさ・・・」

リンは必至で血を止めようとしたが止まらない。それに、涙で目の前がぐちゃぐちゃで、ワンの顔もまともに見ることができない。

「さぁ、命の巫女の出番じゃないのか?目の前に重体の患者がいるぞ!」

ロンは一人、笑いながらラボを去っていった。

#創作大賞2023

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