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【秋葉原アンダーグラウンド】第2章 21話
シンは一人ラボに残り、サラのそばについていた。
「サラ、なぜ目を覚まさない・・・前みたいに寝たふりをして驚かせようって魂胆じゃないよな?さすがに今回ばかりは笑えないぞ・・・」
サラはあれからさらに2日、計3日間眠ったままだった。当然治療は行えない。シンはサラに栄養剤を点滴した。
「いくらサラの体が特殊であっても、同じ人間なんだ。栄養が行き渡らないと死んでしまう。」
シンはそう呟きながら次の点滴に取り替える。
次の日になってもサラは目を覚まさなかった。
「サラちゃん、一体どうしちゃったのさ。子供たちだって心配で来ているんだよ?」
双子の姉妹はママ眠いのかな?お腹減らないのかな?とリンに尋ねる。リンは何も言わず子供たちを抱きしめた。
「サラもそうだが、患者たちの命が危ない。それにオレたちもだろ?なぁ、ロン?」
「そうだな。この状態が続けば、我々は皆殺しにされる。例外はないだろうな。」
ロンはそう言い、子供たちのほうを見た。リンはロンを睨み返していた。
「アタシの命にかえても、この子たちには指一本触れさせない!」
「それはオレじゃなくて、アボに言ってくれ。それに、そんな怖い目で睨まないでくれ。」
ロンはリンの視界から離れた。
「眠ったままでも治療を行うことはできる。しかし、栄養失調になりかけている体では危険だ。」
サラの体は今、新しい細胞を欲している。細胞が飢えているのだ。単純な栄養だけでは、この細胞分裂のスピードに追いつけない。栄養と細胞を同時に与えられる環境をシンは考えていた。いや、考えはあるのだが口には到底出せるものではなかった。
「もはや、サラくんごと培養するしかないんじゃないか?」
シンの思っていたことを代弁するかのように、イジュンは言った。
「おいイジュン!言っていいことと悪いことって・・・」
「いや、オレもそれしかないと思っている。というか、ワン。お前も薄々気付いていたんじゃないのか?」
興奮するワンに、シンは問いかける。ワンは何も言えなかった。ワンも同様のことを思っていたからだ。
「この状態で治療を続けても、サラだけはどうにもならない。目を覚ますまでの間、常に新しい細胞と栄養を補給させ続ける必要がある。例え交代でその役を行ったとしても、少しの遅れで細胞が暴れ出すだろう。」
アタシがその役をやるとリンは言おうと乗り出したが、シンに先手を打たれてしまい、何も言えなかった。でも、
「シンくん。例えサラちゃんがシンくんにとって、とても大切な存在であっても、そんなことができるの?」
「大切な存在だからだ!オレは・・・サラがいないと何もできない・・・」
拳を握りしめるシンに、子供たちが心配そうな顔で近づく。
「それに、この子らにとってもかけがえのない存在だ・・・」
シンは子供たちを抱きしめる。その目には涙がたまっているようにみえた。
「そんなことないよ。シンくんはこれまで何度もがんばってきたじゃない?何もできない人ではない。サラちゃんならこう言うと思うな?」
リンは涙を浮かべながら続けて言った。
「シンくんが決めたことなら、サラちゃんだって受け入れてくれると思う。だからその顔を上げて?そんな顔してちゃ鬼嫁に怒られるぞ?」
リンは堪えきれず、涙を流して泣いた。ワンがリンをそっと抱きしめた。
「ロン、そこにいるか?」
隅で隠れていたロンはどうしたのかね?とシンに尋ねると、シンはこう放った。
「ここに書いてあるリスト、アボに言って今すぐもらってきてくれないか?」
地下にある材料だけでは不十分だという。ロンは了解した、と言いラボを出た。
「リン・・・サラがお前と買い物をして、一番気に入っていた服を取ってきてくれないか?」
培養液に入れるとしても、せめて服だけは着させておいてあげたい。シンの優しさだった。
わかった、と言い、子供たち、それにワンも付き添う形で出て行った。
「イジュン、一緒に機材の準備を手伝ってくれないか?」
今度ばかりはイジュンも何でこのオレが、とは言わずに、シンの後を黙ってついて行った。
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